ターゲッティング
「よし、ネーファは道行く人に一生懸命声かけをするように。最初は売る事を意識せず、お客さんと喋る事を考えてればいいからな」
「はい、が……がんばります」
俺の指示に緊張した面持ちで返事をする。
肩に力が入っているのが見て取れる。
店の前の道には行き交う人々が多数いる。
さて、この中から何人が興味を持ってくれるか。
「い、いらっしゃいませー……どうぞ見ていってくださいー」
様々な商品に目移りしながら、買い物を楽しむ人々が行き交う道に小さな声が響いていた。
緊張やら恥ずかしさがあるだろうに、頑張って声を出している。
その一生懸命な声のかけ方に目をとめて、足を止める人もちらほらといた。
そしてネーファの、まだまだ拙い商品の説明を聞いてくれている。
あの調子ならちょっとずつ買ってくれる人もでてくるだろう。
その間俺は、目の前の道を通る人々の目の動きと手を注意深く見ていた。
「お、それっぽいの発見」
俺が見つけたのは何かを『探している』というよりは、『視ている』という感じがしている奴。
尚且つ手が条件を満たせばさらに確率が上がる。
目をつけた相手も、買い物に来たというよりは、気になる物が無いかをギョロっとした視線だけで追いかけていた。
気になったのであればじっくりと構造や加工技術、仕上がりを念入りに研究している……という事がわかりやすい大柄な男に声をかける事にした
「そこの旦那、これ見ていってよ。他のどこにもない逸品だ!」
「……あぁん?」
そして、他のどこにもない逸品が聞き捨てならなかった――という表情の相手に『とある強大な魔族が彫った逸品』をこれみよがしに見せた。
「これのどこが逸品……ってこんな酷い出来で高すぎるだろ!」
「ま、まぁね……じゃあこっちはどうだい?」
酷い出来とはっきり言われるときついが、ここは我慢だ……我慢だ俺。
俺のを見せた後にネーファの作った物を見せる。
「こっちは……まだまだな出来だが、丁寧な仕事がしてあるな」
「おぉ、見ただけでそこまでわかるのか!」
と大げさに驚いてみる。
「まぁな。あんたが彫ったのか?」
「いや、俺じゃなく……こっちはあの子が彫ったんだよ」
頑張って声かけをしているネーファを指差して教えた。
「ほぉ、あっちの嬢ちゃんがねぇ……」
「なんでも、亡くなった母親に教わったんだと……。父親も早くに亡くして、今は一人であぁして頑張ってるんだ……」
嘘は言ってない……が心の中で手を合わせる。
そんな風にこのお客と喋っていると、視線が自分に向かっている事に気づいたのか、ネーファがこっちへ戻ってきた。
「ネーファ、こっちのお客さんがお前の彫ったお守りは、丁寧な仕事がしてあるって褒めてくれたぞ」
「あ……ありがとうございます!」
「いや、実際そう見えたしな。そんな風にわざわざお礼を言われたらこっちが照れるわ」
ネーファは自分の作ったものが褒められた事が嬉しかったみたいだ。
深々と頭を下げてお礼を言う姿に、この客も照れくさそうな笑顔を浮かべていた。
照れ隠しなのか「ここの彫りが……」とか、「こっちを先に……」とか助言のような事を伝えている。
どうやら狙い通り、何かしらの職人だったみたいだ。
最後は「一つもらってくわ」と買っていってくれた。
誰かに教えるってのは結構気分がいい事だと思う。
そして、自分が教えた相手の事は気にかけてしまうものだ。
特に可愛らしい格好をした美少女となると余計に……な。
だから俺はその後も職人風の奴を捕まえては、同じように接する。
たまに職人では無い者も、もちろん混じるがそれはそれでネーファを応援したくなるように働きかけた。
売る事に対して効率は悪いが、ネーファの事を気にかけてくれる相手を増やしてやれる。
それは今後にきっと役に立つはず。
ネーファには悪いが、俺は元々たくさん売れるとは考えていなかった。
今回俺が意図していたのは、ドヴェルグの生息地という今いる世界の外に繋がりをつくる事。
自分がいる場所の外にも世界があると知る事、と言い換えてもいい。
彼女は自分の境遇を受け入れ、ただじっと耐えていたのだと俺は思っている。
でもやりたい事や楽しい事を探しに、広い所へでてみて欲しかった。
そのきっかけに、俺以外の誰かとも繋がりをもってもらいたかった……。
鍛冶や細工を生業としている奴らなら話も少しは合うだろうし。
今日できたほんの小さな繋がりからでも、きっとネーファの場所は広がっていく……。
この魔王城は広い。
一人の少女を虐げ、我慢させるしかできないような狭い場所では決して無い。
そしてついに今回の品評会の時間も終わる。
いよいよ結果発表だ……。




