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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
1章 生まれからは逃げられない
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ターゲッティング

「よし、ネーファは道行く人に一生懸命声かけをするように。最初は売る事を意識せず、お客さんと喋る事を考えてればいいからな」


「はい、が……がんばります」


 俺の指示に緊張した面持ちで返事をする。

 肩に力が入っているのが見て取れる。

 店の前の道には行き交う人々が多数いる。

 さて、この中から何人が興味を持ってくれるか。

 

「い、いらっしゃいませー……どうぞ見ていってくださいー」


 様々な商品に目移りしながら、買い物を楽しむ人々が行き交う道に小さな声が響いていた。

 緊張やら恥ずかしさがあるだろうに、頑張って声を出している。

 その一生懸命な声のかけ方に目をとめて、足を止める人もちらほらといた。

 そしてネーファの、まだまだ拙い商品の説明を聞いてくれている。

 あの調子ならちょっとずつ買ってくれる人もでてくるだろう。


 その間俺は、目の前の道を通る人々の目の動きと手を注意深く見ていた。

 

「お、それっぽいの発見」


 俺が見つけたのは何かを『探している』というよりは、『視ている』という感じがしている奴。

 尚且つ手が条件を満たせばさらに確率が上がる。


 目をつけた相手も、買い物に来たというよりは、気になる物が無いかをギョロっとした視線だけで追いかけていた。

 気になったのであればじっくりと構造や加工技術、仕上がりを念入りに研究している……という事がわかりやすい大柄な男に声をかける事にした



「そこの旦那、これ見ていってよ。他のどこにもない逸品だ!」


「……あぁん?」


 そして、他のどこにもない逸品が聞き捨てならなかった――という表情の相手に『とある強大な魔族が彫った逸品』をこれみよがしに見せた。

   

「これのどこが逸品……ってこんな酷い出来で高すぎるだろ!」


「ま、まぁね……じゃあこっちはどうだい?」


 酷い出来とはっきり言われるときついが、ここは我慢だ……我慢だ俺。

 俺のを見せた後にネーファの作った物を見せる。

  

「こっちは……まだまだな出来だが、丁寧な仕事がしてあるな」


「おぉ、見ただけでそこまでわかるのか!」

 

 と大げさに驚いてみる。


「まぁな。あんたが彫ったのか?」


「いや、俺じゃなく……こっちはあの子が彫ったんだよ」


 頑張って声かけをしているネーファを指差して教えた。


「ほぉ、あっちの嬢ちゃんがねぇ……」


「なんでも、亡くなった母親に教わったんだと……。父親も早くに亡くして、今は一人であぁして頑張ってるんだ……」


 嘘は言ってない……が心の中で手を合わせる。

 そんな風にこのお客と喋っていると、視線が自分に向かっている事に気づいたのか、ネーファがこっちへ戻ってきた。


「ネーファ、こっちのお客さんがお前の彫ったお守りは、丁寧な仕事がしてあるって褒めてくれたぞ」


「あ……ありがとうございます!」


「いや、実際そう見えたしな。そんな風にわざわざお礼を言われたらこっちが照れるわ」


 ネーファは自分の作ったものが褒められた事が嬉しかったみたいだ。

 深々と頭を下げてお礼を言う姿に、この客も照れくさそうな笑顔を浮かべていた。

 照れ隠しなのか「ここの彫りが……」とか、「こっちを先に……」とか助言のような事を伝えている。

 どうやら狙い通り、何かしらの職人だったみたいだ。

 

 最後は「一つもらってくわ」と買っていってくれた。

 


 誰かに教えるってのは結構気分がいい事だと思う。

 そして、自分が教えた相手の事は気にかけてしまうものだ。

 特に可愛らしい格好をした美少女となると余計に……な。


 だから俺はその後も職人風の奴を捕まえては、同じように接する。

 たまに職人では無い者も、もちろん混じるがそれはそれでネーファを応援したくなるように働きかけた。


 売る事に対して効率は悪いが、ネーファの事を気にかけてくれる相手を増やしてやれる。

 それは今後にきっと役に立つはず。


 ネーファには悪いが、俺は元々たくさん売れるとは考えていなかった。


 今回俺が意図していたのは、ドヴェルグの生息地という今いる世界の外に繋がりをつくる事。

 自分がいる場所の外にも世界があると知る事、と言い換えてもいい。


 彼女は自分の境遇を受け入れ、ただじっと耐えていたのだと俺は思っている。

 でもやりたい事や楽しい事を探しに、広い所へでてみて欲しかった。

 そのきっかけに、俺以外の誰かとも繋がりをもってもらいたかった……。


 鍛冶や細工を生業としている奴らなら話も少しは合うだろうし。

 今日できたほんの小さな繋がりからでも、きっとネーファの場所は広がっていく……。


 この魔王城は広い。

 一人の少女を虐げ、我慢させるしかできないような狭い場所では決して無い。


 そしてついに今回の品評会の時間も終わる。

 いよいよ結果発表だ……。   

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