祭りは準備が一番楽しい……らしい
「ネーファはさっきの話を聞いていてどう思ったのだ?」
ナーヴ達が見えなくなった所を見計らってネーファに聞いてみた。
「え、えっと……おじ様だけでなくドヴェルグがつくった物につよい効果があるのは間違いない……とおもいます。」
「ふむ、強い効果を付与する技術や製法を持っているという事か……」
「それだけでなく、種族の特性として鉱石や金属といった素材を愛し、素材からも愛される職人程よい物ができる……そうです」
技術や製法だけでなく種族としての特性か。まさに鍛冶師の種族だな。
「なら、お前が作っても効果はでるのか?」
「す、少しだけなら……でも、おとうさんがつくった物はとってもつよい効果があって、鍛冶師としてドヴェルグ一だったそうです」
ネーファの父親はかなり腕の良い職人だったわけか。
「おかあさんは自分も職人で、おとうさんと一緒に物づくりしてた時がとても楽しくて、それでいつの間にかいっしょになったんだ……って教えてくれました」
ドヴェルグとエルフの職人の間に生まれたわけだ。
血筋としては良い職人になりそうだがな。
それと、鍛冶場を見てきても種族として鍛冶関係の仕事が中心となっている。
だから優秀な鍛冶師と認められたものは、種族の中で高く評価されると思う。
「よし! 決めたぞネーファ!」
「な……なにをですか?」
俺が突然叫んだのでびっくりしていた。
「ナーヴの奴が言ってたように『魔王が薦める商品』という事に価値があるなら、一堂に集めて決めようじゃないか」
「は、はぁ……」
きょとんとした感じでネーファは返事をした。
「ネーファは参加確定だから、何作るか考えとくように。魔王命令だ」
「え…………えぇぇー!?」
俺の考えが予想外だったのか、会ってから一番大きな声がでていた。
――――――
「――――というようなイベントをやる事にした」
「……はい?」
執務室に戻って早速優秀な秘書様に伝えたところ、ヒナのきょとんとした顔を久々に見る事ができた。
「えっと、魔王様……ちなみに開催までの準備期間はどれくらいでお考えですか?」
「ん~……一ヶ月ぐらい?」
「………………」
「無理かな?」
「無理ですね」
即答でした。
「せめて三ヶ月ぐらいは必要かと……何といっても初めての試みですし。告知や参加者の募集、出展の受理や審査、参加者自身の準備も含めると最低それぐらいの期間をみておかないと難しいと思います」
「そうか……確かにそうだな。苦労をかけるが宜しく頼む――」
「申し訳ありませんが私も仕事があるので……」
「え?」
「可能な限りお手伝いはしますが、何卒発案者の魔王様中心でお願い致します」
有無を言わさぬ秘書の視線に俺は……敗北した。
そこから俺はイベント開催のために奔走する事になる。
今回は初めての試みとして、試験的に実施する事とし、期限内に準備ができる者のみを参加対象とする事にした。
品目の種類が異なりすぎると審査がし難いため、今回は装飾品や武器、防具といった品物に限定し、会場に参加者を集めて訪れた客に投票してもらい、その結果と売上を元に「魔王が薦める商品」として認定する事にした。
とまぁ、そんな感じでルールを決めたり、当日の人員を集めたり、財務担当とやりあったり、参加見込みのある商店を回って参加を要請したり……等々。
俺は準備期間の間、通常の業務の他にイベント開催のために奔走する事になる。
当然外へ向かうためのダンジョン攻略もお休みして……だ。
あれ……おかしいな……余計に仕事増える事になっているような……。
でも空いてる時間をつくってはヒナが手伝ってくれたので助かった。
本気で感謝して拝んだら「拝む暇があったら準備を終わらせるために頭と手足を動かして下さい」と言われたが。
――――――
「ここまで準備が大変だとは……」
「お、おつかれさまです……」
開催に向けて忙しい日々を送っていたが、そういった時間の合間にネーファの所に準備の手伝いに行くようにしていた。
彼女自身は管理人としての仕事が終わってから自分の参加の準備をする、という生活になっていた。
出品するのは木彫りのお守りだそうだ。
「おかあさんに教えてもらったんです」
災いを退け、持ち主を守ってくれるらしい。
「今のわたしじゃ……そんなにつよい効果はでませんけど……」
最初はかなり歪な出来だったが、ずっと一生懸命彫り続けてるからか徐々に上手くなっていた。
俺はというと……ネーファが彫ったお守りを磨いて表面を綺麗にしていた。
実は合間に俺も真似して彫ってみたのだが……
『まおう様……が、がんばりましょう……いつか……きっと……』
とネーファに励まされる出来だった。
俺もそこまで手伝いにこれるわけじゃないし、こうして来れる時に仕上げの手伝いをやるぐらいだ。
「こうやって、まおう様に手伝ってもらっていいんでしょうか?」
「いいのいいの、だってルールにも魔王が手伝っちゃいけないって書いてないし」
そう、そんなルールは無い。俺がそんなルール作ってないしな。
ちなみにネーファの前で威厳を保つのは止めていた。
こうやって作業している時に喋り難いし。
「まぁ、後一ヶ月……お互い頑張って準備だな」
開催まで残り一ヶ月、参加者も結構集まったし、準備の目処も立った。
よく頑張ったぞ俺……。
「あ、あの……まおう様」
「ん? どうした?」
「わたし……今とってもたのしい……です」
そう言ったネーファの顔はなぜか真っ赤だった。




