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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
1章 生まれからは逃げられない
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付加価値

「しかし、こうして魔王様にお会いできるとは……さらに我が家にご招待できる幸運を神に感謝です」


 テーブルの向こう側で座っているナーヴが、笑顔で揉み手をしながらそんな事を言っている。

 家の中は思っていたよりも広く、羽振りが良いのか高そうな調度品がそこかしこに置かれている。

 まぁ自作品って可能性もあるか。 

 しかし……この男、俺の右側に座っているネーファの事は完全に無視して、こっちしか見てないな。

 

「そうか。で、願いとやらを言うがいい。俺もそう時間があるわけではないからな」


 本音はこんな所に長居したいわけでないからだが……。

  

「かしこまりました。では……ご覧頂きたい物を持って参りますので少々お待ちください」


 ナーヴは席を立ち奥の部屋へ入っていった。


「いつも、あのような扱いを受けているのか?」


 ネーファにナーヴや外にいた他のドヴェルグの態度について聞いてみた。


「はい……。でも、管理人のおしごとや、ここから離れてはいますが部屋の世話をしてもらいましたので感謝……しています」


 仕事を押し付けて追い払っただけの気もするが……。


「わたしのおかあさんは……本来はドヴェルグと相容れないエルフだったんです……」


 それでさっき外の奴が穢れた血とか言ってたわけか。確か魔王城の中にエルフの居住地はなかったな……探せば一人や二人いるのかもしれんが、いない可能性の方が高いな。


「魔王様失礼致します……。飲み物をお持ちしました」

 

 そんな風に話をしているとニカが飲み物を持ってきた……一つだけ。

 親娘共ネーファは完全無視か。

 飲み物を差し出してくるが、なぜ俺の隣に座る……向こうへ座れ!

 後、こちらを見つめてくるので視線を逸らして黙ってナーヴが戻るのを待つ事にした。

 

「お待たせいたしました魔王様。こちらになります……どうぞ手にとってご覧ください」


 その後すぐにナーヴは戻ってきて、二つの腕輪をテーブルの上に並べた。

 両方とも紋様は異なってはいるが、腕輪全体に細かな細工が見てとれる。デザイン自体の良し悪しは、こういった装飾品に興味が無い俺にはわからん。

 手にとってみても違いなどわかるものか……。

 ん? 片方を手に取った時に腕輪から体に流れ込む魔力が感じ取れた。


「おぉ、流石は魔王様! この違いをわかっていただけたようで!」

「さすがは魔王様ですわ」


 俺が魔力が感じ取れたのを表情から察したのか、ナーヴが褒めてくる。本心からかはわからんが。

 そしてニカは俺の左腕に抱きついてくる……感触は……とりあえず左腕に伝わる生温かさは無視する事にした。


「こっちの方は特別な加工がされているのか、身につけた時に何かしらの付与効果がありそうだな」


「私どもドヴェルグの腕の良い職人は、このように特別な効果を強く宿した物をつくる事ができるのです」


 なるほど、市場でドヴェルグの作った商品に人気があるのは見た目だけでなく、こういった効果の価値もあるわけか。


「流石は鍛冶に優れた種族という事か。それで……まさかこの腕輪を見せるために招いたわけではなかろう?」


「えぇ、もちろんですとも! 実はですね……私どもに魔王様が身につける装飾品を作らせていただけないでしょうか?」


 俺の装飾品を作りたい?おかしな願いをナーヴはしてきた。


「ご要望があれば武器でも防具でも何でもご用意いたします! お代等不要ですので是非に!」


「そのような事をしてお前に何の得がある?」


 価値あるものだから買ってくれでなく、ただ作りたいというのが引っかかった。


「魔王様がドヴェルグの作った物を身につけて頂ける。それが私どもの願いでございます」


「あぁ……そういう事か。お前は『魔王が身につけている』という実績が欲しいのだな」


「はい! 流石は魔王様、お見通しとは……」


 俺が使っているという事で、自分達の商品の価値をさらに高めようという訳だ。

 正直俺が使っているからといって、どれだけの意味があるのかはわからん。

 しかしナーヴはそこに新たな価値が生まれると考えてるのか。


「魔王様なら父の作った装飾品がとてもお似合いになると思います。私からもお願い致しますわ」


 とりあえずわかったから、体を腕に押し付けるのをやめてくれ。


「客達も魔王様が使っているなら安心、と優れた商品を選ぶ助けになるはずです……いかがでしょうか?」


 揉み手をしながらナーヴが俺の顔色を伺ってくる。やってる事は職人というよりは商人だな。

 ふむ、「特定の種族に肩入れする事はできん」とここで断ってもいいが……。 

 俺の頭には話を聞いていて一つの考えが浮かんでいた。


「お前の願いはわかった。だが即答はできん。返事は後日という事で良いか?」


「もちろん! もちろんですとも魔王様。何卒宜しくお願い致します」


 深々とナーヴは頭を下げた。


「よし……ではネーファ、そろそろ行くぞ」


「は、はいっ!」


 ネーファは俺の呼びかけに対しすぐに席を立ち上がり、扉の方へ先に向かった。

 俺も席を立とうとしたらニカも流石に腕を離した。


「それでは良いご返事をお待ちしております」


「魔王様、また是非いらしてくださいね」


 ナーヴとニカに見送られて俺達は居心地の悪い空間からようやく解放された。

 そのまま二人が見えなくなる所まで歩いていった。

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