みにくいドヴェルグの子
「ネーファは本当にドヴェルグなのか?」
鍛冶場を見てまわって、俺が素直に感じた疑問がこれである。
市場で見かける商品の製作者や、店員の謳い文句に挙げられるドヴェルグという種族名に馴染みはあった。
そしてネーファがドヴェルグと名乗った時に「こういう感じの種族か」と思っていた。
しかしだ、周囲のドヴェルグの外見は何というか……
・耳が大きく、小柄で短足……酒の飲みすぎなのか腹の主張が激しい。
・髭が立派。髪の毛と髭の境がわからないやつもいる。全体的に毛深い。
・眼窩が深く、目がギョロっとしている。
・肌はひび割れた黒い岩のようだ。
というのが大体共通していた。
「えっと……わたしは、おとうさんだけがドヴェルグでした」
ハーフドヴェルグ、といった所か。周囲のドヴェルグの特徴と一致するのは、耳が大きくて小柄、全体的に毛深くて肌が少し黒い……ぐらいだな。
「うむ、納得した。すまなかったな、ではこの先も案内してくれ」
疑問がとけた所で案内を再開してもらう。
岩壁をくり抜いて家にしているのだろう。住処に続くらしい扉が並んでいた。
だが、周囲の様子が何だかおかしい。
道で行き交う奴らがこっちを見てくすくすと笑ったり、ちらっと見ては視線を逸らしたり、ぼそぼそと近くの奴と喋って薄ら笑いを浮かべている奴もいる。
なんだ? 俺がここにいるのがそんなにおかしいのか?
「ネーファ! こんな所で何をしている!」
突然横から怒声があがる。酒樽のような体型のドヴェルグが扉を開けてネーファの方を睨んで立っていた。
「おじ様……こ、これはその……」
自分に向けられた怒声に、ネーファは小刻みに震えていた。こいつがまさか叔父か?
「用が無いならここへは来るなと…………ん? そっちにいるのは誰……も、もしや魔王様!?」
「あぁ、ネーファにここへ案内するように命じたのは俺だ」
俺の顔は知っていたらしいな。しかし自分の姪をいきなり怒鳴りつけるとはどういう事だ。見ていてあまり気持ちのいいものではない。
「きゃぁ!」
「ここへはどのようなご用件で?」
ネーファを押しのけて俺の目の前にやってくる。毛の無い頭が黒光りしていて、笑顔とあいまって余計鬱陶しい。
「抜き打ちの視察でな。色々と見せてもらっている」
「そうですかぁーそうですかぁー、どうぞ、存分にご覧になっていってください」
揉み手をするな、揉み手を。態度の変わり様にうんざりする。
「申し遅れましたが、私はナーヴと申します。市場で小さな装飾品の店を出させてもらっております」
「そうか」
俺は短く答えただけだった。さっさとこいつから離れたいからな。
「そうだ! ニカ! こっちへ来なさい!」
ナーヴは扉の方を振り返って誰かの名前を呼び始めた。
「おぉ……」
「ニカさんだ……」
周囲からも声が聞こえる。周囲の者達の視線は扉から出てきた一人の女ドヴェルグに向いていた。
「魔王様、これが私の自慢の娘のニカでございます。ほら、お前も挨拶しなさい!」
「はじめまして……ニカと申します」
ナーヴの娘は恥ずかしそうに体をくねくねさせながら笑顔で俺に挨拶してくる。
俺は……警戒態勢に入っていた。
大きく見開かれた目に、洞窟への入り口のような鼻、顔の横までありそうな口に分厚い唇。
親に負けず劣らずの短い手足に酒樽のような体型。何というか……太った黒い岩肌のナメクジのようだった。
周囲のドヴェルグ達が立ち止まり、ニカの方を見てつぶやき始めた。
「相変わらずお美しい……」
え? 俺と見ているものが違うのか?
「あの笑顔たまんねぇなぁ。くらくらとくるぜ!」
奇遇だな俺もくらくらきている。
「オレもお近づきになりたい……」
代わってやるからこっちへ来い!
「ははは、ここは騒がしくていけませんな。魔王様……我が家の中へどうぞ。ニカ、お茶の用意だ」
「はい、用意してきます。それでは魔王様また後で……」
頬を赤くしながらニカは、お茶の用意をしに家に戻っていった。
「ネーファ、お前はもういいぞ。部屋へ戻るがいい。魔王様のお相手はニカがする」
「え、えっと……でも……」
「お前のようなものに魔王様のお相手をさせるわけにはいかんのだ!」
「痛っ!」
何か言いたそうにしているネーファを、ナーヴは突き飛ばすように強く押した。
それに耐え切れずネーファは道に尻餅をついた。
「ほら、あいつ……ハーフの――」
「相変わらず……くくっ」
「見てよあの肌、私だったら外歩けないわ」
「え、あれが穢れた血の子?あぁ……それであんな姿なんだ」
「ニカさんとは大違いだぜ……」
俺はその時わかった。
ネーファの部屋がここでは無くて来る途中にあった理由。
こっちを見て視線を逸らしたり、薄ら笑いを浮かべてた連中がいた理由を。
ネーファは周りのこいつ等とは違っているんだ。生まれが違う、姿形が違う……そんな程度の事で……。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫……です」
俺は倒れたネーファの手をとり、立ち上がらせた。
「俺が供を頼んだネーファにそのような態度は…不快だな」
ナーヴだけでなく、周囲のネーファを嗤う奴らに対しても威圧する。
途端に周囲からの声が静かになった。
「も、申し訳ございません魔王様!」
「悪いが俺も先を急ぐのでな、特に用が無いならここで失礼させてもらおう」
さっさとここから立ち去りたい気分だった。
「いえ、実はご相談といいますか……お願いしたい事がございまして……。ここではそのぉ……」
こいつはこの状況で何を頼んでくるつもりだ?
ネーファの扱いについても気になる……ひとまず聞くだけ聞いてみるとするか
「よかろう。ネーファ、茶でもご馳走になりながらひと休みだ」
「え?私も……ですか?」
「構わん。俺が許す……嫌とは言わんよなナーヴ?」
「えぇ!魔王様がそう仰るのでしたら私としては何も異存ございません」
ネーファを一瞥してから俺の方へ笑顔で向き直る。
俺への態度とネーファへの態度の違いが激しいやつだ。
「それではどうぞこちらへ!」
そして俺達はナーヴの家へ招かれた。




