妖精さん?
迷った…。
教室から真っ直ぐ図書館へ向かったはずなのに、気づいたら知らないところに立っていた私。
「この学校広すぎだろ」
初めての移動ルートなのに全力疾走した私が馬鹿なんだけどさ。
校内を走ったから罰が当たったのかな?
まあとりあえずここがどこなのか把握しなきゃ。
辺りをきょろきょろ見回すが…、誰もいない。
私、学校内で遭難?
若干焦りだした私の前に救世主が現れた。
「あら高峰さん、こんなところに一人でどうしたの?」
「せ、先生」
このタイミングで現れるなんて、あなたは天使ですか。
事情を説明すると、ここがどこなのか、そしてここからの図書館への道のりを教えてくれた。
「教えてくれてありがとうございました」
「今度は道に迷わないようにね」
先生はそのまま優しい笑顔で去っていった。
なんていい人なんだ。
あの先生が担任なら、三年間楽しく学校生活を送れそうだ。
教えてくれた情報によると、以外にも図書館はすぐ近くだった。
初めての場所って色々難しいな。
でもこれで次は大丈夫、きっと真っ直ぐ着けるはず。
多分だけど…。
私って結構方向音痴だからね。
地図も読めないし。
そんなこんなでやっと図書館の入り口に着いた。
目がうるうるする。
やっと今日から正式に、ここに入ってもよくなったんだ。
何とも形容しがたい気持ちが込み上げてくる。
私はその気持ちと共に、目の前の重厚な扉を開けた。
「わあ」
鼻腔を本の匂いがくすぐる。
それとちょっと埃っぽい、篭った匂いもする。
こういうの全部ひっくるめて、私がこの世で一番大好きな匂いがこの建物には充満している。
『幸せ』
きっと今私の目はキラキラしてるに違いない。
中は数ヶ月前に学校見学で来た時と何も変わっていなかった。
こんな短期間で変わってたら困るけど。
それでも嬉しさと共に安心感が胸の中をいっぱいにした。
『やっぱ本って、温かいな』
まず私は、入り口の横にあった見取り図に目を向けた。
建物の構造的には五階建てで、ワンフロアごとに約一万冊ぐらいの本がある。
ちなみにその半分以上が小説らしく、その理由は学園長が好きだかららしい。
私も小説大好きだから『きっと話の合う人に違いない』なんて思いながらニヤニヤしちゃった。
今日の予定、それは放課後までかけてこの図書館を探検すること。
大体どこに何の本があるかくらいは把握できるといいな。
一応見取り図と一緒に案内板みたいなのがあったんだけど、あれじゃあ私にとってはラフ過ぎる。
最低でも作者までは書いといてくれなきゃ。
唯でさえ本の量が沢山なんだから、あんな案内板だけじゃ目当ての本見つけられないよ。
そういう理由もあってだろうけど、一応大きい図書館だから数名の司書さんが常駐してくれているみたい。
きっと言えば探して教えてくれるんだろうけどさ、それじゃあつまらないじゃん?
三年間通うわけだし私もこの図書館と親しくなりたいわけよ。
よって司書さん以上にここに詳しくなるのが、私の学園生活における最終目標。
本を愛する気持ちは誰にも負けないし。
それから私は図書館の中を見て回った。
一日中本に囲まれて幸せ。
確かここに着いたのがお昼前ぐらいで、今が夕方の六時だから約六時間以上いたことになる。
それでも全然足りなかった。
ていうか全然見れてないし。
だって途中で面白そうな本を見つけて読み耽っていたから、一階すらも全部廻れなかったんだもん。
間抜け過ぎる。
これじゃあ最深部に到達するのはいつになるんだよ。
少し暗い気持ちになっていると後ろから声を掛けられた。
「どうかしましたか?」
振り向くとそこには、背の低い眼鏡をかけた女性が心配そうに私を見ていた。
『妖精さんだ』
すると彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして口元を手で覆う。
しまった、独り言が口から漏れていた。
「ちっ、違うんです。今のはそういうんじゃなくて」
支離滅裂な言い訳をしていると、伏し目がちに彼女が「またいつでもいらして下さいね」って言って小走りで去っていった。
ポツリと取り残された私は、今の状況を思い出して顔が赤くなる。
なんとまあ恥ずかしいことを彼女に言ってしまったのだろうか。
『それにしてもさっきの人可愛かったなあ。また会えるかな?』
そんな事を思いながら学校を後にする。
初めて図書館で出会ったその女性の名前すらまだ知らないけど、きっと仲良くなれる気がする。
むしろ仲良くなりたい。
だって恥ずかしそうにしていた顔は凄く可愛かったから。
理由は意味不明だけど、明日は見つけたら自分から話しかけよう。
そして、まずは今日のこと謝らなきゃ。
これが明日の目標だ。