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約束の日~中編~

 紫苑さんの家へ向かう道中は驚くほどとても静かだ。

 風に揺れる草花や鳥の声は聞こえるが、車の音も人の声も聞こえない。

 まるでこの世界には私達以外に人がいないかのように、なんて御伽噺の一文の様な事を考えながら今私は紫苑さんの隣を歩いている。

「休みの日だけあってやっぱり静かですね」なんて声をかければ会話が始まるのだろうけど、多分今この空間に言葉は要らない。

 そんな静かな世界の中で驚くほど私の心臓は大きな音を立てて動いていて、内心隣の彼女にこの音が聞こえているんじゃないかと恥ずかしくなる。

 緊張、不安、期待。

 その他無数の、私の知っている言葉の図書館では言い表せないような感情が、今私の心の中を物凄い速さで駆け回っている。

 こんな時相手の心の中が読めたなら、もう少し冷静でいられるのかな。

 

 管理人室を後にしてから数分後、毎日のように見慣れた建物が見えてきた。

 この学校の中で私が一番好きな場所であり、今日の目的地が内蔵されている図書館。

 入学してから毎日のように通っているはずなのに、今日の貴方の表情は何だかいつもと違う気がする。

 そう感じるのは何故なんだろう?

 休みの日だから?

 それともいつもあるはずの人の声がしないから?

 そんな事を考えているうちに紫苑さんは入り口の鍵を開け私を手招いていた。

「どうかしましたか?」

 紫苑さんが不思議そうな表情で聞いてきたので私は正直な感想を述べる。

「何か変な感じだなって思ってたんです。入学してこの図書館に通いだして一月も経っていないんですけど、結構見慣れたというか通いなれたような気がしていたのに、今日来て見たら全く知らない初めて来た図書館のような気がしちゃって」

 少し照れ笑いを浮かべながら話す私を見て彼女も笑った。

 それはとても嬉しそうに。

 理由が気になる私の心を読み取るかのように彼女が口を開き一言、「私も同じでしたよ」と。

 何が同じなのか教えて欲しい。

 開きかけた私の唇に彼女の人差し指がそっと触れる。

「話し出したら少し長くなると思いますから、とりあえず家に入ってからにしましょ♪」

 優しく触れる彼女の指とは裏腹に、その一言には有無を言わせないような力強さが篭っていて、私は何も言えなくなってしまった。

 でも威圧的と言うには優しすぎるその言葉に私は、彼女自身話すには何か覚悟めいたものが必要なのかもしれないなんてことを暗に感じ取っていたのかもしれない。

 だからこそ無理に聞き出すようなまねはしたくなかったし、紫苑さんが自分から話してくれるのを待とうとこの時は思っていた。

 だけどこの数時間後、早くも私の知りたかった謎は解明されることになる。


「お邪魔します」

 招かれるまま紫苑さんの後について家の中に入る。

 入った時から薄々感じていたのだが程よく部屋が温かくなっている気がした。

「何だかこの部屋温かい気がしません?」

 それとなく聞いてみると外が少し肌寒かったから私を気遣って暖房を入れておいてくれたみたい。

 何て優しいんだこの人は♪

 彼女をお嫁に貰う人が羨ましいぞ!

 紫苑さんに紅茶を出してもらい、リビングのソファに並んで座りながら雑談などを交わしつつ一息つく。

 お互い会った当初よりかは間違いなく仲良くなったと感じていると思う。

 だけど根が人見知りなせいか自分からガツガツ話しかけるようなことは未だにしない、というか出来ないから結構無言の時間が多かったりするのも事実。

 それでもお互いこの時間、この空間が心地良い♪

 無理に喋るような気を回さなくていいことをお互いが知っている。

 会ってからまだひと月と経っていない間柄なのに、驚くほどお互いがお互いを理解している。

 似たもの同士だからなのか、それともまた別の理由があるからなのか、それはまだ二人にも分からない。

 けれど少なくとも今現在、私も紫苑さんもお互いを必要としていると、そんな気が私はしている。

 この感じが間違っていなければきっと彼女は私の良き理解者になってくれるかもしれない、いやむしろなってほしいと密かな願望を抱いていたりもする。

 でもこういう想いだったり願いだったりを相手に押し付けるようなことは絶対にしたくない。

 だからこそこれから過ごしていく二人の時間が大事だし、その延長線上に私の求める関係の未来が築ければいいなと。

 最近気がつくと紫苑さんのことばかり考えてる気がして、客観的に見るとストーカー?みたいで若干自分に自己嫌悪だな。

『ちょっと前まで自分がこんなにも他人のことを考える日が来るなんて考えもしなかった』

 会話を楽しみながら少し時間が経った頃、不意に私のお腹が鳴った。

 ぐ~。

 赤面する私、そして微笑む紫苑さん。

 あれ、前にもこんな光景があったような…?

「そろそろお昼にしましょうか♪」

 その笑顔がチクリと私の胸を突き刺します。

 何度も鳴るなよバカヤロー!


 この間と同じように一緒にお昼を作って食べた!

 メニューはオムライスにコンソメスープ。

 チキンライスを卵で包むちょっと真剣な横顔がまた格好良くて、きっと自分では知らないことだろうからその内こっそり教えてあげよう♪

 一緒に何かをすると、紫苑さんの格好良かったり可愛かったり私が彼女に惹かれるポイントが増えていって益々離れられなくなっていくのが手に取るように分かるのですが、それがまた嬉しかったり♪

 何だか今の私の心は色々な感情がぐるぐると駆け回っています。

 今更自分で言うのも何ですが私はあまり感情が豊かなほうではありません。

 むしろ乏しいぐらいのレベルにいると自分では思っています。

 こうなってしまった理由は明白で、幼少の頃から本ばかり読んでいて他人と関わることをしなかったから。

 なので私は最近まで喜怒哀楽しか知りませんでした。

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