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約束の日~前編~

 今日は以前紫苑さんに「もしよかったら料理の練習ついでにまた一緒にお昼を食べませんか?」と誘われた日曜日。

 緊張して昨日はちょっとしか眠れなかった。

 だって今までは紫苑さんに会いに学校に行っていたわけじゃないけど、今日は紫苑さんに会いに学校へ行くわけだから道程の気持ちが全然違いすぎる!

 待ち合わせ場所は学校の職員用玄関で、待ち合わせの時間は午前10時ぴったり。

 そして今私はそこに向かっていつもの見慣れた道を歩いている。

 けれど何だか今日はいつもと違う。

 学校近くまで来て私はその”いつもと違う”空気に気がついた。

 いつもならここまでくれば朝練をしている部活動の声がするけど今日はしない。

 そこで改めて今日が日曜日(休みの日)なのだということを強く感じた。

 待ち合わせ場所となる職員用玄関に着いたのは待ち合わせ時間15分前。

 紫苑さんが近くにいないところを見ると、私の方が先に着いたようだ。

 こういうとき「着きましたよ!」などとメールでもできれば楽なのかもしれないけど、まだ連絡先の交換もしていない。

 でも案外私はこういう時間が好きだったりする。

 会いたい人を待ってる時間って、結構幸せで贅沢なんじゃないか?って私は思っているから。

 だから私にとってこの時間は、とってもとっても大事な時間なのです♪


 待ち合わせの時間に後8分ほどというところで私を呼ぶ声がした。

「高峰さーん」

 声のした方を振り向くと学校の敷地内の遠くの方に小さな人影が。

 しかも私が振り向いたのに気がつくと手をぶんぶん振っている。

 休日だからまだいいが、平日にこんな風に呼ばれたらきっと物凄く恥ずかしいだろうな。

 周りの人もこっちを見るだろうし。

 小走りな彼女がどんどんこちらに向かって近づいてくる。

 そして私のところに来たときには、まるで100メートル走を全力疾走した後みたいに息を切らせていた。

「お、お待たせして、す、すいませんでした」

 両手を膝につきながら彼女は言った。

 まだ予定の時間前なのだからそんなに謝らなくても。

 頭を下げる彼女をフォローしようと私は言葉を紡ぐ。

「私も今着いた所なんで全然待ってませんよ。それにまだ待ち合わせの時間前なんだからそんなに謝らないで下さい」

 落ち着いた口調で彼女を諭すように言う。

 それとちょっとだけこの言葉は言ってみたかった。

『私も今着いた所』

 何だか恋人っぽくないですか?

 にやにやしてしまいそうなのを必死に堪える。

 そうしているうちに彼女は息を整え終わったようだ。

「そ、それでは今入り口の扉開けますね」

 ピッという音と共にガチャンと鍵の開く音がする。

 今開けてくれたのは大きな門の横にある人が通るため専用の扉。

 こちらの職員用玄関には車などを乗り入れするための大きな校門と同じ門と、人が出入りするための小さな扉の二種類がある。

 表の門は基本休日は閉めっきりなので大きめの南京錠がしてあるが、こちらの職員用玄関は両方ともカードキーで開ける仕組みになっている。

 何故こちらだけカードキーかというと、寮生や職員などが校外へ出かけるために通るから。

 私の学生証にも一応ICチップが入っていて、休日に校内へ入りたいときはこの入り口に備え付けてある認証装置に学生証をかざして入り、尚且つ管理人室へ出向き何の用件で来たのかを書き込むという何ともめんどくさいシステムになっている。

 もちろん管理人常駐で監視カメラもあるので、そう容易く不審者も侵入はできないだろう。

 そう言う意味ではセキュリティはしっかりしていて安全だ。

 今回は紫苑さんが中から開けてくれたので自分のパスは使ってないが、一応管理人室の用紙には記入しておこう。

 後で面倒な事になったら嫌だしね。

 私の考えていることが分かったのか彼女の方からその事を言ってくれた。

「一応先に管理人室に行って用紙には記入しておきましょう。形式上のことですがルールはルールですからね。私が破ってしまったら生徒が破るのとは訳が違いますからね」

 そう笑いながら話す紫苑さんと一緒に管理人室に向かった。


 管理室は職員用玄関からすぐの建物の一階にある。

 その建物はこの高校のセキュリティ全てを統括している建物で、敷地内および高校周辺でのトラブルや不審者などの対応は大抵ここに相談すれば解決してくれると学校説明会のときに言われた。

 概観は以外とこじんまりした建物で、学園の治安を一手に担っているとは見た目だけじゃわからないだろう。

 実際に私も来るのは初めてなので若干緊張している。

 治安を守っている人達な訳で、もしかしたら荒事なんかも解決するのかもしれないから、がたいのいい男の人とか出てきたらどうしよう…、ちょっと不安。

 入り口に着いたときに紫苑さんが「初めてなら一緒に行きましょうか?」と声をかけてくれたのだが、何だかいつも甘えているような気がしたので「大丈夫ですよ。ここで待っていてください、すぐ書いて戻ってきますから」と伝え一人で入ることにした。

 初めてだとは一言も言ってないけど、多分不安オーラみたいなのが出てたんだろうな。

 今まで何度か紫苑さんと一緒にいたけど結構彼女は周りの空気みたいなのを敏感に感じるみたいで、私の心情とか思っていることとかを読まれているような気がするときがある。

 まあ私も顔に出やすいタイプだから分かりやすいんだろうけどね。

「コンコン、失礼します」

 緊張する気持ちを抑えつつ、目の前のドアを開け中に入る。

 すると、まず最初に感じたのはお茶の香りだった。

「こんにちは」

 視界の右の方から声がしたのでその方をに目を向けると、一人のおじいさんが急須を持ちながらこちらを見ていた。

「えっと、あの、休日なので校内への立ち入り許可の申請に来たんですけど」

 いきなりだったから噛んでしまった。

「そうでしたか。ちょっと待って下さいね、今用紙を出しますんで」

 そう言うとおじいさんは持っていた急須をシンクの上に置き、引き出しの中から許可申請書であろう用紙を取り出して私の前にあった机の上に置いた。

「こちらにクラスと名前、それに学校へ来た理由を書いて下さいね。それともしよければ学生証を見せてもらえますか?」

 言われた通りおじいさんに学生証を渡し、私は用紙に必要事項を記入していく。

 書きながら考えていたのだが、この部屋にはおじいさんが一人だけということはこの人が管理人さんだろうか?

 怖い人ではないようなので少し安心した。

 だって休日に学校に来る(紫苑さんに会いに来る)ということは毎回ここに来なければならないわけで、苦手な人だったら折角のうきうきした気持ちがここでリセットされてしまうから。

 すると私の学生証を見ていたであろうおじいさんが言葉を発した。

「初めて見るお顔だとは思いましたが、やはり新入生の方でしたか」

 その声に反応し思わず顔を上げると、丁度おじいさんと目が合った。

「初めましてお嬢さん。私はこの学校で管理人をしている斎藤熊次郎と言います。皆からは熊さんなんて呼ばれているので、もし嫌じゃなければお嬢さんも熊さんって呼んで下さい」

 満面の笑みで自らのことを熊さんと言うおじいさんは思っていた通り管理人さんだった。

 でも私がいきなり初対面の人を馴れ馴れしく呼ぶことなど出来るはずもなく、「呼べるよう頑張ってみます”管理人さん”」と少々の苦い笑顔で伝えるのが精一杯だった。

 強調したわけではないが、それを聞いて少し残念そうな管理人さんは持っていた学生証を私に返すと、記入し終わった用紙を手に取り見ながら驚いた表情をする。

 記入箇所のどこかに間違いでもあったのかと気になったのでどうしたのか聞いてみると「この用がある人のところに書いてある紫苑先生とは図書館に勤めておられる方かな?」と聞かれた。

 一応学校に勤めている?と思うので先生と書いたのだが何か間違っていたのだろうか。

「そうですけど…」と一言答えるとさっきまでの表情から一転、先ほどまでのにこやかな優しい顔に戻った。

 私の頭には?マークがいくつも浮かんだが無理に聞くことでもないし何よりここで時間を浪費したくなかったので、必要以上に詮索せず「もし用紙の記入に不備がなければこれで失礼します。帰るときにまたうかがわさせて頂きます」と言葉を残し管理人室を後にした。

 出るときに何か聞こえた気もしたのだが、空耳かもしれないのでそのままドアを閉めた。

「お疲れ様です♪」と笑顔の紫苑さん。

 ドアの横で待っていてくれた彼女と合流し、二人並んで彼女の家へ向かって歩き出した。

後編は二人っきりでの甘い時間をお届けする予定です。

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