第2話 冒険者ギルドで遺跡の噂
朝の光が町の屋根を照らし始めた頃、アルトは宿屋の扉を押して外に出た。
昨夜は遅くまで遺跡の話を聞き込んだが、眠気よりも胸の高鳴りのほうが強い。
向かう先は一つ。
冒険者ギルド。
町の中央にある、二階建ての大きな建物だ。
扉を開けた瞬間、賑やかな声と酒の匂いが押し寄せてきた。
朝だというのに、すでに酒を飲んでいる冒険者もいる。
壁には依頼書が貼られ、鎧や剣を持った者たちがテーブルを囲んでいた。
アルトは少し場違いな格好だった。
革の鞄。
書き込みだらけのノート。
そして武器らしい武器は持っていない。
数人の冒険者がちらりと視線を向ける。
「……研究者か?」
「こんなとこで何する気だ?」
アルトは気にせず、受付のカウンターへ向かった。
カウンターの奥にいたのは、腕を組んだ女性だった。
短い髪に鋭い目。どうやらこのギルドの受付兼管理役らしい。
「依頼か?」
「いえ。少し聞きたいことがありまして」
アルトは丁寧に頭を下げる。
「山の遺跡についてです」
その言葉で、周囲の空気が少し変わった。
近くのテーブルから、笑い声が上がる。
「おいおい、また遺跡かよ」
「やめとけよ、学者さん」
アルトは振り返る。
声を上げたのは、筋肉質の男だった。
「山の奥に石の建物があるのは事実だ」
男はジョッキを机に置きながら言う。
「古い石造の建物だ。塔みたいなやつもある」
アルトの胸が高鳴る。
「中には入ったんですか?」
「入ったさ」
男は顔をしかめた。
「だがな……」
別の冒険者が口を挟む。
「モンスターが出る」
「しかも変なやつだ。石の獣みたいな」
「矢を撃ってもあまり効かねえ」
アルトはノートを取り出し、すぐに書き留めた。
石の獣。
魔導生物か、あるいは守護装置。
「それだけじゃねえぞ」
今度は年配の冒険者が低い声で言った。
「床が突然落ちる」
「通路の壁から槍が飛び出す」
「部屋の扉が勝手に閉まる」
アルトは思わず顔を上げる。
「罠……?」
「そうだ」
男は肩をすくめる。
「しかも、かなり厄介なやつだ」
受付の女性も口を開いた。
「実際、死者が出ている」
ギルドの空気が少しだけ静かになる。
「先月、三人のパーティが戻らなかった」
「昨日も探索隊が一人死んだ」
アルトの胸の奥で、研究者の思考が高速で回り始める。
モンスター。
罠。
石造建築。
それはつまり――
遺跡が防衛機構を持っている証拠。
ただの廃墟ではない。
意図的に守られている。
アルトは静かに呟いた。
「……やはり」
受付の女性が眉をひそめる。
「やはり?」
アルトは顔を上げた。
瞳は興奮で輝いている。
「それは古代文明の施設です」
周囲の冒険者たちが一斉に笑った。
「ははは!」
「夢見すぎだろ!」
「宝の山って話ならまだわかるがな!」
だがアルトは笑わない。
むしろ確信が深まっていた。
罠。
守護獣。
古代文字。
それらがそろう場所は限られている。
「調査する価値は十分あります」
アルトはノートを閉じた。
そして、はっきりと言う。
「その遺跡を調べます」
冒険者たちは一瞬、黙った。
そしてすぐに誰かが言った。
「……正気か?」
「死にたいのか、学者さん」
アルトは静かに答える。
「いいえ」
そして、ほんの少し笑った。
「ただ――真実を知りたいだけです」
若き考古学者の決意は、もう揺らがなかった。




