第七章|空白
春になって、教室の窓から田んぼが見える。
水が張られ、空を映している。
席は一つ少ない。
それでも、授業は予定通り進む。
出席を取る声に、途切れはない。
名前は、最初からなかったかのように読まれない。
誰も聞かない。
誰も説明しない。
昼休みの笑い声は、去年と同じ高さで響く。
掃除の時間も、係は足りている。
机の数は合っている。
帰りのバスは、今日も来る。
空席はあるが、問題にはならない。
何も変わらない。
ただ、
呼ばれなくなった名前が一つあるだけだ。
それを覚えている者はいない。
この物語には、はっきりした悪者が出てきません。
暴力も、分かりやすい罵倒もありません。
それでも、何かが確実に失われていく話を書きたくて、この形になりました。
「いじめ」や「不幸」は、いつも事件として起きるわけではありません。
誰かが何かをしなかったこと、
誰も立ち止まらなかったこと、
説明しづらい違和感がそのままにされたこと。
そうした積み重ねの先に、取り返しのつかない結果が残ることがあります。
この作品では、その過程をできるだけ静かに、淡々と描いています。
理由や答えを用意しなかったのは、現実でもそれらが与えられないことが多いからです。
読後に残るのが不快さや息苦しさであれば、
それはこの物語にとって、間違いではありません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
感想をいただけるとありがたいです。




