第四章|静かな断絶
席替えは、淡々と行われた。
担任が黒板に新しい座席表を書き、生徒たちはそれに従って机を動かす。不満の声も、期待の声もない。ただ、慣れた作業を繰り返すだけだ。
自分の席は、また窓際だった。前とも後ろとも、特別な意味はない。ただ、周囲との距離が取りやすい場所だった。
机を運び終えると、すぐに次の授業が始まる。
新しい席で、誰かが話しかけてくることはなかった。けれど、それを不自然だと感じる人もいない。今までと同じだからだ。
配置は、以前からこうだった。
グループ分けのある授業では、最初から組み合わせが決まっていることが増えた。先生が「今回はこのメンバーで」と言い、名前を読み上げる。
自分の名前は、だいたい最後に呼ばれる。
余ったところに、静かに収まる。
誰かと衝突することもない。役割も与えられる。ただし、それは補助的なものだった。記録係、後片付け、資料配布。誰かがいなくても成立する仕事。
それを断る理由も、変える理由もなかった。
体育の授業では、自然と同じ班になる。走る順番、並ぶ位置、ボールを回す順番。すべてが無言の了解で決まっていく。
自分にボールが回ってくる回数は、少ない。
回ってきたときは、失敗しないようにだけ気をつける。目立たなければ、それでいい。成功しても、反応はない。
失敗しなかったことが、唯一の評価だった。
掃除の時間も同じだった。担当場所は、いつも端の方。二人一組のはずが、気づくと一人でやっている。
誰かが悪いわけではない。組み合わせの都合だ。そう説明されれば、納得するしかない。
黒板消しを叩く音が、教室に響く。粉が舞い、喉が少し痛くなる。窓を開けると、冷たい風が入ってくる。
誰も、こちらを気に留めない。
それが、いつからか「普通」になっていた。
休み時間、席に座ったまま過ごすことが増えた。立ち上がる理由がない。話しかける用事もない。
周囲では、いつもの会話が続いている。内容は分からなくても、笑うタイミングは分かるようになった。音の高さと間で、次に何が起きるかが予測できる。
自分は、その外側にいる。
外側にいることに、説明は要らなかった。
ある日、行事の準備で係を決めることになった。担任は名簿を見ながら、順に役割を割り振っていく。
最後に残ったのは、備品管理だった。
「一人でできるな」
そう言われて、うなずく。
それで問題は解決した。誰も困らない。誰も不満を言わない。
自分の役割は、そうやって決まる。
放課後、教室に残って作業をすることが増えた。皆が帰った後の教室は広く、静かだった。椅子の脚が床に擦れる音が、やけに大きく聞こえる。
窓の外が暗くなっていく。
時間を気にしていると、校舎全体が空になる。最後に鍵をかける先生の足音が廊下に響く。
その音を聞くと、帰る準備をする。
家に帰っても、特別なことは話さない。学校のことを聞かれても、「いつも通り」と答える。
それは、嘘ではなかった。
本当に、いつも通りだった。
違うのは、自分の位置が、もう動かなくなったことだけだ。
その位置から外れる想像をすると、余計な手間が増える気がした。説明、訂正、誤解。どれも、今の自分には重すぎる。
だから、そのままにする。
そのままにしているうちに、それが形になる。
席、係、班、距離。
すべてが、静かに固まっていく。
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