⑩-4 決意
ティニアが目を覚ましたと知らせを受けたのは、彼女が担ぎ込まれてから二日後だった。
メアリーの花露店が開店してすぐ、神父アドニスがマリアを呼びに来たのだ。
メアリーはアドニスの言葉を聞くと、すぐに診療所へ行くように言ってくれた。
マリアは足早に歩くアドニスを追いかけ、旧市街地歩いていった。
「ねえ、アドニスさん」
「どうしました?」
マリアはアドニスの服の裾を引っ張った。驚いたアドニスは歩みを止め、マリアへ振り返る。マリアは服を握ったまま、遠慮がちに見上げた。
「こんな時にごめん。あの、ティニアの様子を確認したらだけど、……話したいことがあるの」
「……どうしたのですか、改まって。何か、心配事ですか? 貴女らしくないではありませんか。……いえ、勝手な決めつけは失礼ですね」
再び歩き出しながら、マリアは言いにくそうに、しかし照れくさそうに視線を逸らした。肝心な話題を話していないのにも関わらず、マリアの心は晴れ、軽くなっていく。
「ううん、その。……ずっと話せなかったことなの。私も二人の事を信頼したいし、信頼してほしいの」
「……そうですか。概要だけでも伺っておいた方がよければ、いつでもお話しください。ディートリヒも、ミランダも、貴女のことは随分と心配しているのですよ。ただし、無理に背伸びをする必要はありません。貴女は、まだ御若いのですから」
そう言うと、アドニスはマリアの肩を優しく三度叩いた。アドニスは早くティニアの元に行きたいであろうに、マリアに合わせてゆっくりと歩いてくれている。マリアはじんわりと目に温かみを感じ、目頭に力を入れた。
「ありがとう、アドニスさん」
診療所が見えたところで、穏やかな風が二人を包み込んだ。風はマリアを後押しするかのようだ。ティニアに会えたら、皆に自分のことを話す――そう決めたのだ。彼女たちは、マリアの事を拒絶してしまうだろうか。
「では、先に行っていていただけますか」
「え? どうして?」
不意にそういうと、アドニスは細目で笑った。
「私は後からでも構いません。君は先に会った方がいいでしょう」
「そう? ふふ、わかったわ。またすぐ後でね」
マリアは先立って診療所へ入っていった。
診療所の扉が静かに閉まったところで、アドニスは呟いた。
「あの子に危険はありません。……気取られても知りませんよ」
そのつぶやきは風に巻かれて消えていった。




