⑨-5 第二楽章への誘い
レオンは両手で頬を叩いた。
すぐに我に返ると、アルベルトを叱咤した。
「落ち着け、アル! どうしたんですか!」
「た、助けてくれ!! 頼む、頼む……。何でもする、だから……」
赤毛の男がすがるようにティニアを抱きしめると、ティニアは目をうっすらと開けた。
「あ……」
「ティニア!」
「ティニア、わかりますか。ここは」
ティニアの瞳は虚ろいでおり、くっきりとした輪郭だけが確認できる。
「……ルク…………」
「えっ……、なんですって?」
ティニアの呟きに、レオンの胸が一瞬ざわめいた。
「あ……」
「足だ。右足を見てくれ、先生」
「わかりました、失礼しますよ」
レオンはすぐに彼女のスカートを捲ると、右足の血に染まった包帯と添え木が確認できた。
「アニー、すぐに準備を」
「はい!」
アニーと呼ばれたそばかすの看護師は、急ぎ足で奥の診察室へ向かった。残った黒髪の看護師は、赤茶毛の男を制止させながら、後からやってきたシュタイン親分へ声を掛けた。
「シュタインさん、アドニス神父と。それからシャトーさんへ声を掛けてもらえますか?」
「分かった! おい、アルベルトしっかりしろよォ!」
その声に反応はなく、アルベルトは項垂れたままティニアを抱きしめている。シュタイン親分はアルベルトの肩を三度叩くと、気合を入れて教会と孤児院へ走っていった。
「う…………」
「ティニア、わかりますか? ここは診療所ですよ」
「しん、りょーじょ? どうして、……ですか? 庭園に行くのでは……」
「後で行きましょう。これから足の怪我を見ますから、いいですね」
「……はい」
ティニアが小さく頷いたとき、奥からアニー看護師の声が聞こえた。
「準備出来ました。マナ看護師もお願い!」
「わかったよ。ティニアさん、すぐ痛みが治まるからね」
「ッ…………!! まさか、切断するんじゃ。や、やめてくれ。それだけは」
「落ち着いてください。そうしない為の処置です。貴方はゆっくりと呼吸をしてください。……そうです。落ち着きましたか?」
アルベルトは返事をしつつ、ゆっくりとした呼吸を試みた。
荒れていた呼吸は収まりつつあったが、アルベルトはその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですよ。ただの過呼吸です」
ティニアは既に目を閉じていたが、眠っているかのように静かな吐息を響かせていた。それでも、唇はかなり青く、足から血が滴り落ちていた。
影が覆いつくし、大きな幻影が空を舞うように、空中を駆け巡る。
空には天高々、月が当たり前のように大地をのぞき込み、そして、輝き続けるのだ。
永遠の呪いのように――。




