⑧-3 警告
マリアは意識を、シチリア島の海岸沿いへ向けた。
海岸沿いには、まばらだが人の姿が見える。
観光客かもしれないし、地元民かもしれない。
久々に見る生き物の姿に、マリアは安堵を覚えた。
一瞬油断したマリアの脳裏に、ある思いが込み上げてきた。
海の向こうに何かがある――。
マリアは海水に触れるものの、冷たさを感じることはない。
そのまま揺らぐ海面を器用に歩んでいくと、再び小さな島に辿り着いた。
サーチによれば、特に取るに足らない岩山、島とも言えないようではある。
『何あれ』
その岩山には、小屋のような建物が立っている。
小屋はずいぶん昔に壊れたまま放置されているようだ。
残骸から、流浪の民が数日ほど拠点として、不当に占拠していたのだろうことが窺える。
『……気のせいじゃない。建物の下、海底に、何かある。でも今は……、あれ。このコードなんだろう。一か八かね』
言葉の受信を感じ取り、その言葉を口にする。
言葉はコードとして入力されていった。
――コード、入力…………。
――セキュリティ解除を確認。転送いたします。
『え!?』
可視化したまま、マリアの意識は光に包まれた。そして、いつの間にか移動していた。
音も違和感も、何も無かった。
『ど、どういうこと⁉ ここは……』
慌てて座標をサーチすると、先程の岩山の真下のようだった。
辺りは薄暗いものの、足元のライトだけが淡く点灯したままだ。
『何かの研究施設……? まるで、アウローラの拠点みたい。ここ、なんだろう。随分前に、放棄されたみたい』
壁はコンクリートだろうか。
青白いライトが一面にあるだけで、窓は一つもない。
不気味に思いながらも、それを頼りに目を凝らしていく。
すると、何かのカプセルが破壊されていた。二メートル程の大きなカプセルだが、中身は何もなく、ガラスが飛び散っている。
『なんだろう、ここ。それに、どうしてこんなコードを受信したのかな……』
振り返ろうとした、まさにその瞬間だった。
壁の黒焦げやボロボロの外壁が目に入った。
焼け焦げた痕跡に近づいた刹那、眩い銀の発光によって、マリアの視界は寸断された。
『……ッ!!』
途端に意識が朦朧とし始めた。
急激なアップテンポを感じ、吐き気が腹の奥底から込み上げてくる。
慌てて口元へを動かすと、触れるものがあった。
自身の唇に他ならない。
不可視化状態で、物理的に何かに触れることは出来ないはずだ。
薄暗い部屋に目が慣れてきた頃、マリアは意識が体に戻っていたのに気付いた。
慌ててサーチするが、現在地はスイスのシュタイン・アム・ラインに違いなかった。
「…………。何だったの。まるで、見るのは危険だと言わんばかりに」
サーチを始め、意識をイタリアへ向けてから、時間はそれほど経過していない。
体が小刻みに震え、冷や汗をかいている。
指の先に力が入らないが、紛れもなく自分の体だ。
確かめるように、自分自身を抱きしめた。
一体何があったというのだろうか。
敵に遭遇したのかもしれない。
やはり危険な行為であった。
「ミランダさんが帰国して、お店が落ち着いたら、イタリアに行こう……」
あの場所を、再確認しなければならない。危険であっても、そうしなければならない予感がマリアを支配していた。
物理的にシチリア島へ侵入するのであれば、隠してある拳銃を使う必要があるだろう。
また、あの拳銃を使わなければならない時なのだろうか。
この平和的な幸せな日々が終わってしまいそうで、マリアは大きく息を吐き出すことしか出来なかった。
マリアは首を横に振ると、愛しい姉を思い浮かべていた――。




