表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/72

⑦-5 夕刻の暁

 ティニアがその日に帰宅したのは、夕方だった。

 アルベルトの言う通り、待っていればズルズルと居座り、また泊まる事になったであろう。

 監視されているのなら、尚更だ。


「おかえりなさい、遅かったじゃない。心配したわよ」

「ごめんごめん。診察終わった後に、午前中に診療所で働けないか直談判してたんだよ」

「なにそれ。前にちょっと話してた薬剤調合の話って、本気だったんだ」

「まあね。その方が安心だろうし、何かあればすぐに孤児院へ行けるからね。診療所は近いし」


 ティニアはマリアが夕食の準備をしていることに対し、驚かずに微笑んだ。


「ありがとう。僕も手伝うよ」

「ねえ、先生はイケメンだった?」

「ふふふ。好きだねえ」


 ティニアはエプロンをかけると、マリアの横に立った。


「豆も美味しそう。茹で具合も丁度よさそうだね」

「うん、ありがとう」


 ティニアはマリアの切った不ぞろいの具材を鍋へ放り込んでいく。具材が不格好で恥ずかしいが、ティニアは歯ごたえがあって上手いと褒めた。


「そうだ。昼間、アルベルトが家具の片づけに来たわよ」

「ああうん、片付いてるもんね」

「それで、絵本を。テーブルのその絵本。孤児院の子供たちへ、だって」

「へえ、ありがたいな~。昼間会ったとき、そう言ってくれたらいいのに」


 マリアは手元の動きは止め、静かに頷きながらティニアに向き合った。


「ティニア……。その、朝のことなんだけど。私、怖かったの。受け止めきれないって思って。無理をしてでも全部を受け止めなきゃって思っていたの。でもそうじゃないのよね」


 マリアは手を止めると、ティニアへ向かった。ティニアも手を止めると、マリアを見つめた。視線が合わさったことにより、マリアはティニアの手を握った。


「アルベルトに言われたの。周りが代わりに抱えることはできない。全部を抱えてやろうだなんて思うからダメなんだろって」

「…………」

「一気に全部を抱えようなんて思って身構えてるから、ダメだったの。私、ティニアが好きだから。でもティニアは、全部抱えてほしいとも、分けたいとも思ってないよね」


 ティニアは直ぐに微笑むとマリアの手を優しく包んだ。


「あいつ、そんなこと言ったんだ」

「うん。ティニアの事、ちょっと話しちゃった。ごめんなさい」

「……別にいいよ。悩ませちゃって、ごめんね」

「ううん。これからもよろしくね」

「うん。よろしく!」


 ティニアは嬉しそうに微笑むと、珍しく鼻歌を歌った。何かのクラシックの音であったものの、マリアにはその曲名がわからなかった。曲名を尋ねることは出来ただろうが、それでかわいい鼻歌を止めるのは忍びなかった。


 ワンフレーズ鼻歌を終える頃には夕食も盛り終え、席に着くと、ティニアはゆっくりと語り出した。


 それはお伽噺のような、懐かしい日々を語るかのような。

 友との出会いと、別れの話を――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ