⑤-2 白銀の太陽を求めて
ティニアはマリアからわずかに身をそらし、右手をぎゅっと握り締めた。
静かに話し始めたティニアは、窓の向こうを見つめている。窓はカーテンが閉まっており、外の様子はうかがえない。
「あの人がそもそも家に来たのは、多分僕目当てじゃなくて、マリアがいると思ってたからじゃないかな」
「え?」
ティニアの表情には何の変化もない。
「悪いことをした、させてしまったって。気にしていたんだよ。でも、あの日マリアはまだ帰宅前だったから、直ぐに帰らずに居座ったんだよ」
「…………」
「ボクは謝ってばかりより、感謝を言葉にした方がいいと言ったんだ。軽くね」
ティニアは笑って見せた。
マリアは自分がどんな顔をしているのか、わからなくなった。
「本人も随分悩んでいただろうし、すぐ言えなかっただろうし、まだ言ってないのかもしれないね。今ボクが話しちゃったから、台無しかもしれない……」
ティニアは足下を見つめた。アルベルトが移動させた家具を見ているのだろうか。
なぜ、こうも出会ったばかりの男を理解しているのか。そんな問いかけが、心の奥底に残った。
「感謝を伝えに来たのに、待っている間に居心地が良くて居座ってしまっただけじゃないかな?」
「…………」
「それに翌朝から家具を移動させて、マリアを起こしてしまうことを躊躇った。だから改めて片付けに来るよ、って。そういう事じゃ無い?」
ティニアは椅子に掛けてあったエプロンを手に取った。布の擦れる音だけが聞こえた。
「……もしかして感謝の言葉、まだ何も聞いてない? うーん、僕やっちゃったかな」
マリアは首を横に振った。言葉は、喉に詰まって出てこない。
不意にティニアの手元が白銀に光った。
あれは懐中時計だ。
銀製の懐中時計は、彼女がずっと肌身離さずに持っているものだ。
「でも、そこに下心とかは無いと思うよ。気恥ずかしかっただけじゃないかな。だから、僕に気があるようなことを言ってたんだと思う」
ティニアの言うことは事実なんだろう。
それでも、彼女を口説く話とは別のはずだ。
押し黙ったままのマリアを前に、ティニアは苦笑いを浮かべた。
「御礼を伝えようとしたのに、また自分を責めて押し問答はじめてたんじゃないかなぁ。責任感強そうだもんね」
「……そうね」
言葉が漏れ出た。
無意識に出た返答は、再び言葉を詰まらせた。
今度は、ティニアはマリアの返答をただ待ち続けてくれている。
「……ありがとう、とは言われてるの」
「何だ言われてたんだ。よかった」
普通に安堵したかのように、胸を撫で下ろした。
「アルベルトの事、よく、わかるね……」
「……別に言い当ててるとも思っていないよ。決めつけているようだけど、憶測ではやし立てる気もないんだ」
そういうと、ティニアは再び俯き、やがて顔を上へ向けた。




