④-4 居場所
「はぁ!? 泊まる!? なんで!?」
「ふふふ、マリアったらテンポいいね」
「さすがに彼女が可哀想だろ。今のは普通に驚いただけだろ」
「待ってよ、あんたが冷静にのたまうんじゃないわよ。泊まるって、何? え、ここに!?」
一人慌てふためくマリアは、ティニアではなく男を睨み、出て行けと視線を送った。若い女性が二人で住んでいる家に招いたこともだが、あまりに無防備だ。
「他にどこがあるんだよ」
「どこって……、あ! ミランダさんの家が! 今は旦那さんだけじゃない!」
「まあ一晩くらい、いいじゃない。あと、旦那さんは、愛妻さんが留守で落ち込みすぎて、アドニスのとこに泊まってるよ」
「うそ! でも待って。誰もいないなら別に泊ってもいいじゃない。ううん、こいつもアドニスさんのところに」
「アドニスって誰だ?」
「教会に居たでしょ。あの神父だよ」
「なんでそんな名前なんだ。どこが美少年だよ。ジジイじゃないか」
「そこに突っ込むんだ」
アドニスがティニアに対し、並々ならぬ思いを秘めている事をアルベルトは知る由もなかった。当然だが、マリアにも話す気はない。
それよりも。
「ま、待って。本当に。待ってよ。泊まるって、だって」
「お前さ、別にお前と同じベッドで寝ようって、言ってるわけじゃないんだが」
「はぁ!?」
顔を先ほどより赤らめて絶句するマリアは、首を横に振った。
慌ててティニアに振り返ると、彼女の両肩に手を置いて迫った。ティニアは目を見開き、驚いているようだった。
「待って。え、冗談でしょ、ティニア」
「え?」
「ティニア、こいつと、寝るの?」
「僕のベッドは狭いよ。僕が落ちちゃう」
ティニアは眉間にしわを寄せ、絶句した。どうやら演技ではなく、本気で意味を分かっていなかったようである。
恐らく今も。
ティニアはアルベルトを見つめながら、フルフルと子犬のように首を横に振った。
「え、僕やだよ。ごめんね、お帰り下さい」
「え~。もうそういう雰囲気だっただろ」
「何をどうしたらそうなるの? 一緒に寝るわけにはいかないんだよ。君はでかいじゃないか。さっきも言ったけれど、僕のベッドは狭いんだよ」
「ほう。寝るってのがどういう意味かは分かってるんだな」
ティニアは首をかしげ、きょとんとしている。本当にわかっていないのだろうか。
マリアはティニアを守るように、二人の間に入った。
「これ、憲兵呼ぶバージョンだったわね」
「バージョンってなんだよ。っていうか、呼ぶなよ。面倒臭い」
アルベルトは苦笑いを浮かべた。
女性二人が住んでいるシェアハウスに泊まろうなど、常識的に考えてズレている。であれば、何故アルベルトはこうも帰りたがらないのだろうか。
アルベルトはティニアのいる空間に安心し、居心地がいいと感じているに違いなかった。
そこだけは、アルベルトに同意できる。
「……待って」
「どうしたのマリア」
「どうした、マリア」
マリアと呼ばれ、アルベルトを睨みながら悪態をついた。
「どさくさに紛れて、私の名前呼ばないで。ヤなやつ!」
プイッと横に顔を逸らしたものの、そういう訳にもいかずに顔が赤面してしまう。
「悪かったよ、それでどうした」
アルベルトの普通のツッコミに多少安堵しながら、マリアは物置に使っている部屋まで進むとドアを開けた。
中はティニアの掃除が行き届いており、埃やカビなどもなく、清潔が保たれている。
そのまま二人に振り返り、腰に手を当てるとニヤリと微笑んだ。
「……こ、ここに、使っていない長椅子があるわ! 長すぎて邪魔で、孤児院から家へ運ばれてきたんだけど、使い道がないのよ! ベッドはないけど、ほら布団もあるし、テーブルも椅子もあるわ。なんだったら、ここを開ければ素敵な一部屋に。きっと時間を忘れて快適に過ごせるわ!」
そこまでドヤ顔で話し、自身の発言の欠陥に気付く。
「誰も、住んでいいなんて言ってないんだからね!」
「ええ! それだけはダメ、絶対!」
「……お前ら、俺を何だと思ってんだよ」
マリアはほぼ初対面のアルベルトに対し、嫌悪感は薄れていた。
ティニアはどうであろうか。
少なくとも、いつものペースから脱している。いつもなら、男の囁きを華麗にかわし、相手を凌駕していくだろう。それをしないのはあまりに不自然で、素直に見えた。




