④-3 葛藤
アルベルトの指が触れている食器が震え、カチャカチャと音を立てて震えていた。
いつの間にかアルベルトの隣に来ていたティニアは、その手を優しく支えるようにすると、皿を両手で持ち上げた。
お道化る様子もなく、ただただ優しい微笑みだけを向けた。
「二人とも、結構似てるよね」
「それは彼女が怒るセリフじゃないか?」
「どうだろう。でも、マリアも分かってると思うよ」
「…………」
沈黙こそ肯定に他ならないが、マリアもアルベルトもそれ以上の言葉を口に出す気にはなれなかった。アルベルトの手の震えは収まっており、その瞳はティニアへ向けられている。
ティニアは皿を流し台で洗うために背を向けたが、アルベルトはじっとティニアを見つめたままだ。
境遇は似ているようで、全く似ていない。
似ているとは思えないが、ティニアの言葉には納得できる部分があるように感じられた。
「マリアは君が思っているよりもずっと、賢いよ」
褒められたのだろうか。
単純なところだけは似ている気がしたが、ティニアの言う“似てる”は、何か別の事を指すように感じられた。
マリアはぼんやりと、レイスを思い浮かべた。あまり褒めてくれる人ではなかったが、それでも褒めてくれた時は嬉しかったものだ。
“似てる”というのなら、ティニアとレイスの方が似ている。見た目だけではなく、優しいところもだ。
不意に我に返ったマリアは、ティニアが皿洗いを終わらせてしまったことに気付いた。マリアは何も手伝えなかった。自主的に動かなければ、手伝いにはならない。
「はああ」
マリアの悩みはそれだけではない。レイスのことも探さなければいけない。いっそ二人に話してしまえば、どんなに楽だろうか。だが、二人を未曽有の事態に巻き込むことになる。
そもそも、信じてもらえる自信もない。イタリアのシチリアには何もなかったのだ。物証がない。
アウローラについて、軍人であったアルベルトは何か知っているだろうか。もし知っていたら、どうするだろうか。憲兵に突き出すとは思えなかった。
「お前さ」
マリアが言葉を遮るように、アルベルトはそのまま話をつづけた。迷うマリアを諭すかのように、言葉を選ぶようにゆっくりとした口調だ。
「本音を吐き出して、どうすればいいのか相談出来る相手って、どれくらいいる?」
「…………」
「お前でも、そんなに居ないだろ。多分、俺も同じだよ。そんなに居ないし、居なかったよ」
「そう、ね。うん」
男はマリアの隣の席に座ると、テーブルの上で手を組んだ。二人は台所に背を向けており、ティニアは見えない。
「全て吐き出す必要なんてない。それでも、そういう気兼ねなく話せる相手っていうのは、極限られたやつだけだ」
「……うん」
「守って守られたらいいんだ。傾きすぎるなよ。ティニアの傍にずっと居たいだろ」
「うん」
「素直でいいなあ、お前はさ」
「なッ……」
赤面して恥じらい、黙り込んでしまったところで、マリアは慌てて修正した。テーブルをバンバンと叩きながら、声を荒げた。
「何なのよ、もう!」
慌てて立ち上がると、マリアは自然にティニアの傍へ行き、男の悪態を付きながら皿の水滴を布で拭いていったのだった。




