④-1 二人と一人
時は1950年四月某日。この日はまさかの金曜日であった。
長い朱色の髪を持つ女性マリアは、その美しい髪を無造作に右耳の上でまとめた。
今は夕食時であり、いつもなら彼女の同居人である金髪碧眼の女性ティニアと共に、他愛無い話をしていただろう。
食卓には、ティニア手作りの自慢のパンや、じゃがいも団子の入った煮込み料理が並ぶ。
「お前って、こんな手の込んだ手料理出来るんだな。惚れ直すよ」
アルベルトは羽織っていたコートを椅子にかけながら、ティニアの手料理を褒めた。肝心のティニアは呆れた様子で、アルベルトの隣の席に座った。エプロンを無造作に外し、同じく椅子にかけた。
「君ねえ。手の込んだって、ただの煮込み料理でしょ。それに、気持ち悪い事を言うのはやめてほしいな」
「あー本当に。ここでちょっとは恥じらって、照れて黙り込めば、もっと惚れ直すんだけどな」
「はあ。なんだろうな、疲れてくるよ。そういうことを言わなければいいのに」
ティニアは照れるどころか、舌を出してげっそりとした。
その反応が新鮮だったのか、アルベルトは更にティニアを褒めていく。
「まさかお前が手料理できるとは思わなかったよ。ほんと、こっちの赤毛さんが料理担当かと」
マリアを会話に絡めながら、アルベルトは満足そうに食事を楽しんでいる。マリアは肉を噛みしめながら、頬杖をついた。そんなマリアの態度に気付いたアルベルトは、困った表情を浮かべながらワインを口へ運んだ。
「お前さ、いくら何でもあれはないだろ。消し炭じゃないか」
アルベルトはテーブルの端に置かれた消し炭をフォークで指さすと、スープの柔らかい頬肉を口へ放り込んだ。
ティニアが男を連れ込んで手の込んだ煮込み料理を作るなど、マリアの想像を遥かに超えていた。
悪戯そうに笑うアルベルトは、かつて丁寧な紳士的振る舞いをしていたのが噓のようだ。
一体どうなっているのか。
「君はちょっと言いすぎなんだよ」
「なんだよ。楽しくおしゃべりしてた仲じゃないか」
「楽しくって、気持ちの悪いことを言うのをやめてくれって話だけじゃない? 本当にそういう言葉、どこから出てくるの」
「どこからって。俺は君にしか言わないぞ」
ティニアは溜息をつくと、紅茶の入ったカップを空にした。そんなティニアの様子を楽しそうに眺めながら、アルベルトは皿を空にした。
すると、ティニアはアルベルトに手を差し出した。アルベルトは意味が分からない様子で、キョトンとしている。
差し出された小さなティニアの手を握ると、アルベルトは照れ笑いを浮かべた。しかし、驚いた様子のティニアはその手をすぐに離してしまう。
「なんだ、握手じゃないのか?」
「いや、なんでだよ。男のヒトだから、それじゃ足りないと思って。何かおかわりする?」
「……ティニア、そんな奴に優しくする必要ないから。自分でおかわりくらいさせてよ」
「でも……。マリアはいつも、おかわりっていうじゃない。マリアはおかわりするんでしょ?」
そういうと、ティニアはもう片方の手をマリアへ差し出してきた。
「何お前、おかわりもティニアにさせてるのか」
「ぐあああ……」
マリアは頭を抱えると、どっと疲れが湧いてくるような気がした。




