②-5 緋色を赤と呼ぶべきか
時は三十分前に遡る。
「おや、ティニアさんじゃないか。こんな時間に珍しい」
広場に現れたのは、短めの金髪に碧眼を持つティニアだった。
あどけなさの残る容姿とは裏腹に、この時間にここにいるのは珍しい。
ティニアは驚きつつも、呼びかけた主が誰なのか把握できたようで、すぐにお道化てみせた。
「ああ、誰かと思った。チューリッヒから、ザンクト・ガレンまで引っ越したんじゃなかった? ここはライン川沿いだよ。北上しすぎたんじゃない」
「またあんたは、すぐそういう冗談を!」
「ふふふ。アンナさん、久しぶりだね! ミランダを見送りに来たんでしょ」
「やっぱりわかってるんじゃないか。それで、どうしたんだい。多忙のあんたが、まだ明るいうちにこんな広場に」
「ボクは最近、早上がりなんだよ」
「それでいいんだよ。あんたは働きすぎなんだ、もっと過保護にしたっていいと思ってるよ」
「ちょっとやめて。本当にやめてよ? アンナさん、影響力あるんだからね」
アンナと呼ばれた女性はティニアのような金髪であり、目も青い。
身長もティニアと同じくらいであるが、二者の服装は大きく異なっていた。アンナはブランドスーツを身にまとっているが、ティニアはエプロンドレスのような軽装だ。アンナは本を何冊か運んでいる途中だったようだった。
「あたしも色々あってさ。それに、ザンクト・ガレンはあたしには合わなくてね。奴ら早口でまくし立てるんだよ」
「そんな速いかなあ」
「……でもね、ザンクト・ガレンはいいとこだよ。熊が由来の大きな町さ。ねえ、ティニア。あんた、いつまでこの町に居るつもりだい」
数秒の間が空き、ティニアは一瞬、周囲を見失ったように視線を彷徨わせた。瞬きを二度してから、ようやくアンナを見た。
「……え? ごめん、なんだっけ」
「まったく……。忙しすぎて疲れてるんじゃないかい? 修道院は綺麗だし、本好きのあんたが喜ぶような、本の貯蔵量も……」
アンナは言葉を切った。
得意なおしゃべりが止まるほど、ティニアの様子がおかしいのは明白だ。
「えっと」
「……? ティニア。どうしたんだい」
「あ。あの、ボク、そろそろ」
「ティニア? あんた、顔が真っ青……」
「すみません、お嬢さん方」
不意に声を掛けられアンナが振り返ると、そこには背の高い男が立っていた。長い紺色のコートを羽織り、髪は短めの赤髪であり癖毛が目立つ。




