①-7 家族
スイスへ戻ったマリアは自宅を出ると、トボトボと芸術で満たされた旧市街を通過していった。観光名所であるシュタイン・アム・ラインも、マリアにとっては既に馴染みの景色だった。
あの襲撃が1937年2月の前、1936年の冬であったとすれば、第二次世界大戦を挟み十四年も経過した。
アウローラの拠点は廃墟だ。
「はぁ……。こんな事で、何が分かるのかしら。ティニアやミランダさんたちを巻き込みたくなんて無いのに」
マリアは、何度も現地へ赴こうとした。しかし、平和に暮らしているうちに、決意は揺らいでいく。
不意にマリアは、夕食の心配を思い出した。今晩、ティニアは帰りが遅いのだ。マリアが自分で作らなければならない。
「ご飯の心配なんて、呑気なのかな。……平和ボケかな」
普段ティニアは孤児院で夕食を作り、食べさせてから片づけを済ませて帰宅する。寝つきの悪い子供たちがいれば、そのまま帰宅しない日もあった。
ティニアが孤児院に住み込みでないことを疑問に感じたこともある。マリアと同居するために住み込みが出来ないのであれば、断ろうと考えたのだ。だが、その心配はアドニス神父の助言で一掃される。
神父いわく、それだとティニアは休むことも、寝ることもせず、働き続けるのだという。確かにそれでは住み込みなど不可能だ。彼女が倒れてしまう。何も詮索せず、ティニアと同居してくれていると感謝していた。
「どうみても、逆でしょうに」
彼女たちと過ごすうちに、マリアは彼女たちが敵でない事を願う日々になっていた。それだけ謎が多く、裏がないのだ。そんなことがあるだろうか。
ティニアとの住居は四部屋ある平屋で、周りとはかなり見た目が異なる。町には窓も多く、背の高い建物ばかりだからだ。二階建てのアパートにする予定であったと、ミランダの旦那は言っていた。大勢が居住するのではなく、ティニアたちが住めればそれで問題ないと計画を変更した。
家は帰るだけの場所ではなく、生活の一部だ。マリアがスムージーを飲んだカップが、台所にそのまま置かれていた。
「ティニアがいないと、全然ダメね、私って。……ほんと、依存してる。誰かに依存しないと生きられないなんて、バカみたい」
言葉は静かな家を、そのまま通過していった。




