0002四天柱
世界が変わったのは、空に無数のヒビが走ったあの日からだ。
異能が目覚め、世界は戦場となった。
四天柱――世界最強の異能者たちが現れ、
その中心にいた親友、紫炎は今、記憶を失っている。
だが、記憶を失った英雄の影で、
もう一人の男――神城が静かに牙を研いでいる。
これは、失われた記憶と裏切りの物語。
そして、世界の未来を賭けた戦いの序章である。
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東京の上空で起きた次元亀裂から数時間後。
日本政府直属の異能対策機関「国際異能連合(IIC)」の会議室には、世界最強の異能力者――四天柱が揃っていた。
「紫炎の行動は予定通りか?」
中国代表ルー・シュエンシャオが端正な顔で切り出す。
「完了報告を受けている。だが……異変があった」
アメリカ代表、ローガン・グレイフォックスが腕を組みながら答えた。
「異変?」
俺、神代 蓮が続ける。
「紫炎の記憶に空白がある。俺たちの誰にも自分の過去を話せていない」
重苦しい空気が流れる。
「洗脳か……それとも記憶改竄か」
ローガンが唇を噛む。
「我々四天柱が全力で支援し、真相を調査すべきだ」
ルーが提案する。
そのとき、会議室のドアがノックされた。
「最新情報です」
政府の情報分析官が資料を差し出す。
「近年、次元の亀裂が世界各地で増加している。異世界からの侵略者と思われるSランク以上の怪物も複数確認されている」
「さらに、異能者たちの装備もランク別に整備が進んでいる」
ルー・シュエンシャオが説明を加えた。
「武器のランクはEから始まり、C・B・A・Sと上がっていく。最上位には“神話級”武器と呼ばれる存在がある」
「神話級武器……?」
俺が訊ねる。
「伝説や神話に登場する神器、魔剣、魔導書などがその例だ。これらを扱える異能者は極わずかだが、神話級武器を使いこなせばSランクの怪物ですら倒せる力を持つと言われている」
ローガンも口を開く。
「実際、我々四天柱の多くは神話級武器を所持している。紫炎の【エテルネス】も、その一端と言えるかもしれない」
その言葉を胸に、俺は改めて緊張感を覚えた。
「このままでは人類が存続できない可能性もある」
紫炎の記憶喪失が何らかの陰謀の一環であれば、我々は敵の手中にいるのかもしれない。
「……俺はあいつを取り戻す。たとえ世界が敵でも」
決意が胸に燃えた。
「まずは紫炎の行動パターンを監視し、彼の記憶回復の鍵を見つけよう」
ルーが提案し、全員が頷いた。
会議が終わり、皆が退出していく中、一人だけ会議室に残った――神城。
誰もいなくなった部屋で、彼は静かに呟いた。
「……そろそろ動く時か」
彼の瞳には、冷たい光と共に何か計り知れない決意が宿っていた。
机の上に置かれた資料を何度も見返しながら、指先である名前をなぞる。
『紫炎――記憶を失った英雄』
神城の顔に、かすかな笑みが浮かんだ。
「この混沌の中で、誰が勝つのか――それはまだ、誰にもわからない」
孤独な決意を胸に、俺は紫炎のもとへ向かう。
だが、その背後で密かに動く影があった。
「四天柱の崩壊は、もう始まっている……」
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