0001記憶なき英雄との再会
これは、かつて平凡だった少年と、
世界を救った“英雄”との再会から始まる物語。
異能が開花し、世界が崩壊したあの日――
俺たちは友達だった。
だが五年後、再び出会ったお前は、
俺のことを――何も覚えていなかった。
記憶を失った英雄。
四天柱と呼ばれる最強の戦士たち。
異界の脅威、迫る終焉の予兆。
世界を救うために、
俺はもう一度、お前を取り戻す。
空が裂けた。
まるで硝子を割ったような音と共に、東京湾上空に黒いヒビが走る。
それを確認した俺――神代 蓮は、既にジャケットを羽織り、片手に愛用の武装具を携えていた。
「五年ぶりか。……この“空のヒビ”を見るのは」
この現象が意味するものは一つ。“異界の扉”の開放だ。
俺は通信機を耳に当てる。
『対象地点、東京湾上空に出現したクラスA級の“次元亀裂”。内部より高反応の生命体を複数確認』
「了解。四天柱、神代 蓮、これより現地に向かう」
返事を待たず、俺は跳躍した。
足元の魔力陣が一閃し、次の瞬間、俺の身体は空中に放たれる。
降り立った先――東京湾。
そこには、禍々しい黒炎を纏った巨大な獣がいた。全身が焦げた岩石のような鱗に包まれ、赤い眼だけが爛々と輝いている。
「クラスA級の中でも、これは……上位だな」
俺は一歩踏み出すと、背中から黒い鎖を何本も伸ばす。
それは俺の固有スキル――
【連鎖領域】
空間を支配し、接触した対象を“記録”し、コピー・操作・封印する能力だ。
「遊んでやるよ、黒炎獣」
バシュッ、と音を立てて鎖が空を切る。
瞬時に獣の脚を絡め取り、その動きを封じる。さらに空間を斬り裂き、巨大な雷刃を召喚する――が。
――その刹那。
上空から、一筋の黒い閃光が降ってきた。
それは、獣の頭上に落ち、真っ二つに断ち割った。
「……は?」
俺のスキルより早く、一撃で倒した――?
ゆっくりと地に降り立つその男。
漆黒のコートを纏い、赤い瞳をした青年。背中には蒼いオーラを帯びた刀剣が浮遊している。
「……紫炎」
あの日、東京を救い、黒龍を討ち果たした救世主。
そして――俺のかつての親友。
「よお、久しぶりだな……って言いたいところだけど、俺の顔に見覚えないか?」
俺は歩み寄りながら問いかける。だが、紫炎は無表情のまま、機械のような声で答えた。
「任務完了。次の指令を」
胸元の通信機から、女の声が返る。
『了解。紫炎、帰還せよ』
彼は何も言わず、踵を返す。
「……待てよ!」
俺は手を伸ばしかけたが、ふと見えた彼の首筋に、不可解な痕跡があった。
(あれは……術式紋か? まさか、“記憶封印”か――)
紫炎はそのまま空中へと浮かび、無音のまま去っていった。
その背を見送る俺の胸には、怒りと悲しみが渦巻いていた。
「紫炎……お前、本当に――全部忘れちまったのかよ」
そして、俺の中で何かが決まった。
もう一度、アイツを取り戻す。
記憶を失った救世主を。親友を。
かつて、俺たちが一緒に笑っていた“日常”を
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