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僕と犬が異世界へ!?  作者: 夏谷崚
訓練編
5/22

連携、魔法の練習

6/10 段落の追加

 晴樹はひたすら走った。重りのせいで膝の関節が痛んできたが、それでも彼は走った。同じ風景の元で何周もするというのは、一種の拷問に近い。何故自分は知らない世界に来てまで、こんな運動をせねばならないのか、そんなことを考えながらも、ひたすら走っていた。やっと五周を走り終えた。


「有馬晴樹!残り五周だ!!気合い入れて走れ!」


 とユータスの声を聞いたが、彼はまだ五周もあるのかと心が折れ、疲労の蓄積も加わり、いきなり全身の力が抜け、ついに晴樹は倒れてしまった。


 そこにユータスが、恐ろしい顔をしながら近づいてきて、叱責を喰らうとビクビクしていた晴樹であったが、


「飲め。そして少し休んだらもう五周走れ」


 と意外にも飲み物を渡してくれた。


「は、い…ありがとう……ございます…」


 その感じで優しいのかい、と内心ツッコミを入れた。


 晴樹は木陰に移動して少し休んだ。そよ風が心地よくなびき、気持ちが少し楽になった。


 そしてその間ナツキの様子を見ていた。ナツキは剣を右側に真っ直ぐ持ち、腰を軽く落とし、左足はまっすぐに、右足は少し引き、右左と交互に剣を振り続けた。


 ユータスは「腰の捻りが足りない!!」と叱咤し、健気に食らいつくナツキ。晴樹はそんな様子を見て再び腰を上げた。


 不思議と走り出しは軽やかで、またペックが魔法をかけたのかと思いペックに目をやったが、ぐっすりと眠っている。そして先ほどよりも短い時間で五周走り終えた。


「有馬晴樹!こっちへこい!」


「はい!」


 また怒られるのではと思ったが、気にも留めない様子。


「お前剣を握ったことは?」


「一度もありません」


 顔色ひとつ変えずに、


「それではまず握り方だが、グリップを握手する手でそのまま握る。これが基本だ。そして構えは色々あるが、基本的なのは左足を前に出し右足は引き、右側で剣を立てる。やってみろ」


 と説明し始める。


 五キロもある特殊な剣は、持つだけでも一苦労だが、晴樹は何とか持ちあげた。ナツキがやっていたのを思い出し、真似をする。


「斬る際だが、その構えのまま、まず剣を前に出し、そして右足を出す。そして刃を落とし当てる、やってみろ」


 ユータスがゆっくりと実演し丁寧に教えた。晴樹は見様見真似でデコイに攻撃する。


「そうだ、反対側も同じ要領だ。まずそれを会得しろ。基礎があっての応用だ。それを疎かにしたものは死ぬ。いいな」


「はい!」


「じゃあお前ら二人とも、俺に向かって切りかかってこい」


「え?」


「二人同時にな。反撃はしないから安心しろ」


「そんな、怪我してしまいますよ!」


 ナツキが心配したが、


「随分となめられたもんだな。いいからこい」


 とお構いなしという感じにユータスは剣を構えた。


「やるしかないみたいですね、ナツキさん」


「そのようですね。では行きますよ!」


 ナツキが勢いよく地面を蹴り上げ、右上から攻撃したが、ユータスは軽々と受け流す。そこに晴樹が辿々しく斬りかかり、晴樹の力を計るように受け止めた。金属音が耳を貫く。


「初めてにしては悪くない…が、まだまだだ」


 その次の瞬間、晴樹の手を掴み足を引っかけ転ばせた。


「いって…」


「早く立て!練習にならねえぞ!!」


 ナツキがまた斬りかかるが、今度は少しフェイントをかけてみた。ユータスは反撃しないという約束を破り、勢いよく蹴り返し、ナツキは土埃を巻き上げ地面を転がった。


「小手先のテクニックに頼るな!!!!」


「ナツキさん!」


「大丈夫です…防護用具(プロテクター)がありますから」

ナツキは胴体についた足跡を振り払い、ゆっくり立ち上がる。


「この…!」


 晴樹は怒りに身を任せ斬りかかるが、その剣筋は単純で、軽く避けられ、柄で腕を弾かれまた倒されてしまった。


「基礎があっての応用だと言っただろ。戦場であったら、今とっくに死んでいるぞ」


「すみませんでした…」


「あと、お前らは何で一人づつ来るんだ。人数有利があってそれを利用しないバカがどこにいる。初めから出来ると期待はしていないが、もうちょい頭を使え」


 それは二人にとって盲点であった。二人は確かに今まで一緒に行動してきたのであるが、それは仲間としてではなく、迷子と迷子の案内人の関係に過ぎなかった。


 二人はその言葉を聞き、目を合わせ、晴樹がナツキに密かに耳打ちする。


「…分かりました。それでは…有馬さん行きますよ!」


 ナツキはユータスに一直線に飛びかかった。


「だから、一人づつ来るんじゃなくってだな」


 とナツキに気を取られていたがその隙に、すかさず背後から出てきた晴樹が斬りかかり、剣と剣が火花を散らす。


 また転ばされると思った晴樹は、後ろへ下がり、その瞬間死角よりナツキが現れ勢いよく突く。鋭い一閃はユータスの頬を掠めた。


 ユータスはニヤリと笑みを浮かべ、


「そうだ」


 と一言放つ。


「さっきよりは悪くない、勿論まだまだだが。有馬晴樹は基礎的な体力及び基本的な剣技が必要だ。ナツキ・エイデンは軸にブレがある、それに同じく基本的な剣技が必要だ。自ら練習するように。今日は終わりだ。昼食を取ってこい」


「ありがとうございました!」


「──あああああ!疲れた……」


「大変でしたね……」


 二人はその場に座り込んでしまった。


「でも最後の連携すごいよかったですよね!」


「はい!ナイス作戦でした!」


 二人はハイタッチした。するとそこにエレナとペックがやってきた。


「二人ともお疲れ〜!よく頑張ったね!最後の二人すごくかっこよかった」


「ありがとうございます、エレナさん」


「ワンワン!」


 とペックが晴樹に飛びつき顔をしきりに舐めた。


「ありがとう。分かった分かった、くすぐったいやめてよ」


 晴樹は楽しげな声をあげながら、表情を緩めた。


「ペックちゃんも褒めてるみたいね。それから…お昼だよね?その前に着替えていらっしゃい。できたら食堂へ案内するわ」


 二人はゆっくりと準備室へ向かった。


 防護用具(プロテクター)を外した晴樹は、腕を上げようとしたら上がり過ぎてしまい、その身軽さに思わず笑ってしまった。


 確かに毎日つけていたら強くなりそうだと彼は思った。服は新しく騎士団の白を基調とした制服が支給された。平時は基本これを着て活動をする。ペックの服はなかったのだが、晴樹の要望あって後日作られた。


「うんうん、二人とも似合ってるわね。それじゃあ食堂へ行こうか」


 食堂に入ってまず目につくのは、長テーブル四台だろう。それら左右には椅子が取り付けられ、大人数が使えるようになっている。


 入り口から見て正面の壁には、一本の剣と盾が意味ありげに飾られている。またステンドグラスに光が入り、神秘性を演出しとても美しい。


 入って左側には調理場があり、そこで注文するシステムだ。騎士団員や職員は無料となっているが、観光客やゲストはしっかりと金を取られる。三人は同じものを注文し食べた。


「ユータスさんの訓練は毎週三回あるから。今日が月曜日だから、あと水曜日と金曜日ね」


「毎日ではないんですね」


「うん、休息も訓練の一環だ!って。それにユータスさんの訓練だけじゃなくって、魔法の訓練や生物学の講義もあるからね。今日の午後は魔法の勉強よ。二階の奥に部屋があるから後で案内するね」


「見習い騎士は僕らだけなんですか?」


「いいえそんなことないわ。今年は今の所三十人はいるわね。訓練が進んでいくと、そのうち一緒にやることになるから、楽しみにしててね」


 そうして昼食の時間は終わり、四人は魔法の訓練部屋に行った。この訓練ではペックも参加することになった。訓練部屋は二階の奥にあり、本部の中でも特に広い部屋となっている。


「はい、これ魔導書。毎回持ってきてね」


 エレナから、千ページを超える分厚い本が支給された。


「まさか…これ全部覚えるとか…?」


「そんなの無理。自分の属性をまずおさえるのよ」


 とエレナは笑いながら言った。


「それじゃあ、私はこれで。頑張ってね」


 と言い去っていった。


 部屋へ入ると机が正しく整列されていた。誰もいないので、一番前の真ん中の席に座ることにした。


 そこへ一人の老婆が入ってきた。腰が曲がり、杖をつき、綺麗に白髪に染まった見事な老婆だ。しかしその目には鋭さがある。


「はい、こんにちは、あんたたちが新入りの子らね。あたしはマリニカ。お前が有馬晴樹で、あなたがナツキ・エイデン、それにペックと。まあ!なんて美しい毛並みだろう」


 そういいペックを撫でた。ペックは少し不服そうな顔をした。


「それじゃあ魔法の授業だけど、あんたたちはどのくらいできるのかしらん」


「基礎はおさえていますが、得意ではないです」


 とナツキは答え、


「正直全く分かりません」


 と晴樹が答えると、マリニカは眉をひそめた。


「全く今まで何を学んできたのか……お前は基礎をまず作らなくっちゃね、面倒くさい」


「すみません…」


「いえ、いいのよ。お前の自堕落をこれから改めるっていうなら。それで、お前の属性は?」


「光属性です」


「ふーん…無駄に珍しい属性を持ってるんだね。じゃあまずこのデコイに向かって、ヨーテルで攻撃してみな」


「ヨーテル」


 光を生み出したはいいものの、晴樹は攻撃に応用する方法を知らず、あたふたと焦っている姿を見て、マリニカは遠い目をしため息を吐いた。


「…見てなさい……ヨーテル」


 左手が光を帯て、そのまま鋭い光が静かにしかし素早く飛び、デコイの左胸を撃ち抜く。その一閃にはどこか彼女の静かな苛立ちを含んでいた。


「いい?魔力が集中して、一気に解放される感覚。もう一度やりなさい」


「ヨーテル」


 晴樹は右手に光が溜まり始め、次第に明るさを増していく。


「それを解放!」


 マリニカの指示を受け、少し緩めてみたが光が消えた。


「驚いた、こんな初歩的なこともできないのかい?」


「すみません…」


「いや謝る必要はないのさ、人間初めからできるものはいないさ。いやね、でもこれができなきゃ、他のこともできないからね?」


「はい…」


「あんたはまず、その溜めた魔力を解放することを練習するんだね。そっちのデコイを使いな。次はナツキちゃんね。あなた属性は?」


「水属性です」


「あら偶然!あたしも水属性なの、よく教えられそう。それじゃあまずデコイにナガレミを撃ってごらんなさい」


「はい。ナガレミ!」


 両手の親指と人差し指を使い三角形を作り、そこから水を生み弾丸の如く、勢いよく何発も連続で飛ばす。


 ナツキの撃った弾は水を撒き散らしながら進み、六発撃ったところで威力が低下し、十発目を撃つことはできなかった。


「んーそうね、水属性は魔力消費量が少ないのがメリットだけど、あなたはちょっと無駄が多いのかしら。一発にかける魔力量が多すぎるのよ、もう少し丁寧にやるといいわ」


 マリニカはおもむろに構え始めナガレミを放つ。マリニカの水の弾はとても細やかで、キレのある水弾であった。


「”焦らず丁寧に“よ。特に水属性の魔法はその繊細さが特徴だから」


「はい、ありがとうございます」


「きっとすぐ出来るようになるわ」


 マリニカはにっこりと笑いかけた。


「そしてペック、あなたも魔法が使えるんだってね。属性は何かしら?ナガレミは分かる?」


「ワン」


 一度吠えるとペックの周りに水の弾が大量に生まれ、デコイに向かってがむしゃらに飛んでいく。


「上出来すぎるわ!でもやっぱりナツキちゃんと同じで、一発一発が雑で勿体無いわ。もっと小さく一発に力を込めるの」


 またマリニカがやってみせた。しかしペックの弾は変わらない。


「難しいか…」


 と少し落ち込むマリニカであるが、そこにナツキが、


「ペックは光属性も火属性もちゃんと使えますよ」


「嘘だろう?ちょっとやってみて。ヨーテル」


「ワン」


 辺りが一瞬にして眩しい光に包まれ、みんな目を開けることができなかった。目を開け陽性残像が消え始めた頃、デコイを見ると、跡形もなく消え去っていた。


「ペック、あんた……とんでもない力持ちね……みんな裏庭へ行きましょう」


 と言ったその声は震えていた。

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