戦い
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相変わらず空は曇り、雲の境界線がハッキリとせず、以前のようなハツラツさが恋しくなり始めたその頃、ついにその日は来た。
いつものように裏庭に新人が集まり整列して座っている。そこにユータスがやってきて、命令を置いていく。
「今日は一対一の訓練だ、いつものように二人一組でやれ」
シュージは一瞬振り返り、三人は頷く。そして木剣をユータスの前に勢いよく投げつけた。
「やってられっかよ!こんな訓練ッ!」
全員の視線が一気にシュージへと集まる。
「おいユータス!俺らと勝負しろ!てめえの腐った根性叩きのめしてやるよ!」
四人は剣を構えると、ユータスはおもむろに剣を拾い上げた。
ナツキが一歩踏み出す。
「ちょっと待った!なっちゃん」
するとナオがナツキの肩を掴んだ。
「あいつら何か企んでるらしいから、これは見守るべきだよ」
ナツキは頷き視線を向けた。
「──何を言っているか分からないが……いいだろう…さあ、かかってこい」
ユータスが剣を構えるのと同時にシュージは地面を強く蹴り上げ駆け寄る。
「お前が受け入れなくても…ッ!」
シュージは何度も素早く突くが、ユータスの身のこなしは軽く、少し身体を動かすだけで避けていく。しかし手を止めることなく、大きく振りかぶり大上段から力強い一撃を放つ。
「俺らはお前を…ぶっ飛ばすッ!」
足を湿った地面に沈ませながら、ユータスは受け止めた。
「今のお前には!教える資格なんてねえ!」
その隙にシュージは地面を蹴り上げ、その勢いのままユータスの腹に足がめり込む。鈍い音と共に地面に白濁した唾が飛び散らせながら、ユータスは地面に倒れ込んだ。
「ちょ、あんた!やりすぎ!」
「──いや…いいんだ……ナオ…」
ユータスは腹を押さえながらナオを制止する。
「どうやら本気のようだな……」
ユータスは四人を見つめ、ゆっくりと体勢を持ち直す。彼が完全に立ち上がるのを待たずに、イズミとシュージは二つに分かれて攻撃を仕掛ける。
イズミの鋭い連撃は、シュージの持つ隙をカバーしていた。イズミが引き付けシュージが決めに行く、自然連携が出来上がっていた。
ユータスも攻撃を受けるだけでなく、反撃もするのであるが、その刃には意志が存在していないように、太刀筋ははっきりとしなかった。
「右からくるぞ!」
ジユンの言葉通り刃は右からやってくる。イズミは剣を滑らせ軌道をずらし、そのまま反撃に転じ顎先を掠める。ただユータスは気にも留めない様子。
「何を迷ってるんだ!あんたは!」
イズミが叫ぶ。同時に二人の攻撃は激しくなり、呼吸が合わさっていく。それでもユータスは二人の攻撃を的確に受け続けた。
「三人死んだのがそんなに悔しいか!!」
イズミの言葉にユータスの表情は初めて大きく揺れ動いた。歯を食いしばり、目元が歪む。力に任せて素早い一撃を繰り出した。
「──ッ!」
イズミに向かう狂暴な一撃。
「危ない!!」
すかさず晴樹がイズミの肩を引き、攻撃を剣で受け止める。
「だったら次、俺らが死なないようにもっと強く育てろ!!」
語気はそれでも強く、目線はユータスをまっすぐ射抜いていた。
庇うようにジユンが駆け寄り、晴樹とジユンの攻撃に転じる。
「教官がいつまでも俯いていたら、俺たちは道標を失ってしまいます」
ジユンの声は落ち着いていたが、どこか熱を持って響いた。的確にユータスの苦手な部分を狙い、ユータスのガードが甘くなる瞬間を待つ。
「──クッ!」
ジユンの正確無比な攻撃に加え、晴樹の素早い攻撃が襲いかかり、防御が間に合わない。刹那無防備な状況が生まれる。二人はそれを見逃さない。
「だから早く、前を向いてくださいッ!」
晴樹が後押しするように叫ぶ。二人は空いた胴に左右から剣を走らせた。
「見事だ……」
二人の剣は胴体に当たり、ユータスは立ち止まった。
「いいか!!俺らは守られるためにここにいるんじゃない──」
「──誰かを守るためにここに来てんだ!」
シュージが手を握りしめながら叫んだ。
「いい目をしているな…シュージ…」
それは久々に熱のこもった、心から出た言葉であった。
「だったら早く本気出してこい!」
「ああ──」
一言呟くと、目線を据えて、ゆっくりと剣を構え直した。
「四人全員でかかってこい!」
そこにはいつもの堅剛さに、どこか晴れやかな面持ちの教官の姿があった。
──そのまま戦いは続いたが、やがて四人は疲れ果て地面に寝転んだ。呼吸は荒くなり胸が大きく動く。額の汗は太陽に照らされ輝き放っていた。
風が優しく頬を撫でる。
ユータスは剣をゆっくり下ろし、口を開いた。
「俺はまたお前らを失うのが怖かった…だから、ずっと近くに置いておこうと思っていた……」
「だが、今よく分かった。お前らは成長している……すまなかった…俺は、本当に教官失格だな」
ユータスは頭を深々と下げた。誰も何も言えなかった。教官としての責任感や、葛藤と苦悩は最近の様子からよく伝わっていた。だからこそ声をかけることはできなかった。
「ただ、シュージ…さっきの蹴り…痛かったぞ……」
ユータスは声を低くしニヤリと笑う。
「──罰として五班は裏庭を十周走れ!」
「は!?今エモい感じになってただろ!」
シュージは飛び起きた。
「うるさい!お前らはまだまだ体力が足りん!それに俺一人にどんだけ手間取ってるんだ!早くいけ!」
ユータスは剣を振ると、四人は走り始める。裏庭に笑い声が満ちた。
「ふざけんじゃねえよ!」と悪態をつきながらもどこかその口元は緩んでいた。
雲の隙間より太陽の光が差しまっすぐ伸びて彼らに降り注いでいた。
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