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僕と犬が異世界へ!?  作者: 夏谷崚
フタバ村編
2/22

指輪、村、そして魔法

6/10 段落の追加

「ペックがやったのか?」


 晴樹は安堵の気持ちもあるが、ペックがやったことに対する恐れ、そしてペックが使ったとされる魔法に対して困惑していた。ナツキは疲労感と緊張の緩和からか、ぐったりしている。


 ペックがあの大きな怪物を殺したのか、自分たちが生き残るためには仕方のないこととはいえ、自分の愛犬が“他の生物を殺した”事実に晴樹は難しい感情を抱いた。


 焼けこげた匂いが辺りに満ちている。


「ナツキさん、大丈夫ですか?今のも魔物?」


「はい、魔物であることには間違いありません。しかしあんな魔物の情報など一切出ていなかったはずなのにどうして…?」


 ナツキは深刻そうな面持ちを浮かべ、手を顎に当てている。


 晴樹は気になって焼死体の跡を見ると、何やら輝きを放つものがある。拾ってみるとそれは指輪であった。その指輪には紫色の見ていると吸い込まれそうになる程美しい宝石が煌めき、金色のリングの部分には文字のような記号が刻まれている。


 あの焼けた後であるが汚れも傷の一つも付いていない。


「あまり魔物が持っていた物に触れないほうがいいですよ。何か呪いか魔法がかけられているかも知れませんから」


 とナツキが恐る恐る覗き込む。


「やはり何か魔法がかけられています。しかもかなり強力で複雑な魔法です。こんなの初めて見ましたよ」


「見ただけで分かるんですか?」


「はい、よくご覧になれば見えてきます」


 彼は目を凝らす、すると記号列が彼の目に映った。


「ああこれが…」


 するとそこに一人の男が走ってやってきた。


「おーーい!大丈夫かああ!!!さっきの空間魔法はきっとレッドミルだろう?レッドミルはどこへ!?」


「レッドミル?さっき三つの違った顔のある魔物に襲われましたが、レッドミルはそんな見た目ですか?それならさっき倒しましたよ」


「そうそう、三つの違った面をした魔物だ。って倒した!?君たちがやったのか!?」


「はい、まあ僕は何もしてないのですが。あの魔物を知っているんですか?」


「知ってるも何もレッドミルはワシが昔戦ってワシが負けた相手だからな。あいつに右腕を持っていかれてから四十年か。しかしなぜここに?魔王城にいるのではなかったのか?おっと失礼ワシはヒロナリ・マールス。そこの集落に住んでいる。是非ともそこで話を聞かせてくれ」


 三人と一匹は歩き始めそしてすぐ集落が見えてきた。ここフタバ村の住居はどれも石で作られ三角の屋根が特徴的である。村の地形は複雑で入り組んだ道が全体を繋げ、塊村のような形となっている。


 周囲は青々とした森に囲まれ、自然と調和して暮らしを営んでいる。住人は三十人程度と小規模。自給自足的な生活を送っているが、都市部と交流がないというわけではない。


「ヒロナリさん、どうでしたか?」


 住人の一人が駆け寄ってくる。


「ああ、本当にレッドミルであった。そしてこの子達がそのレッドミルを倒したというのだ。ちゃんと死体を見た。しかしなぜここにレッドミルが現れたのかは…今からこの子達から話を聞いてみる」


 彼らはヒロナリに案内された家に入った。ヒロナリが飲み物を用意して二人と一匹に差し出した。こちらの世界にやってきてまだ何も口にしていなかった晴樹はそれを一気に飲み干した。


「ハハハ、そりゃ疲れたでしょう。しかしまあ初めから話を聞かせておくれ」


 晴樹は最初から全て話した。ナツキにこの村へ案内してもらおうとしたがなかなかつかない、そして気がついたらレッドミルが現れ襲われたこと、ナツキが攻撃したが十分にダメージが与えられなかったこと、ペックが魔法で倒したこと。


「ふむ、君たちが倒したわけではなくこの一つ頭のヌマイノが魔法で倒したと。それだけ強大な力を持った生き物か、面白い。そしてそんな生き物を持っている君にも興味が湧く。君は一体何者かな?」


「実を言うと僕はこの世界の人間ではないのです。僕は日本という国に住んでいました。さっき急にこの世界にきてしまい、そして彼女に出会いそこからはお話しした通りです」


「ニホン……ふむ…君は──」


「あの、結局レッドミルの正体はなんだったのですか?」


 ナツキが唐突に質問した。


「魔王が作り出した魔物さ。君たちがここの村につかなかったのも、奴が移動できないように空間を歪ませていた」


「昔戦った時はどうやってその空間から逃げてきたのですか?」


「タフな奴だが無敵ではない。戦いが長引くとやはり奴も疲労する。その瞬間空間の歪みが戻る時があった。その隙に移動魔法(テレポーション)で逃げる。まあそんなところだ」


「これ、レッドミルが持っていた指輪なんですが」


 晴樹はヒロナリに指輪を見せた。ヒロナリは注意深く観察している。


「これは…!記憶の指輪じゃないか!!レッドミルが持っていたのか?」


 ヒロナリは声を荒げて聞く。


「はい、なんですかそれ」


「これは記憶の指輪といって、誰かの記憶が指輪になったものだ。この指輪は強力な魔法で守られていて、その魔法を払いのけた時、その記憶を見ることができるんだ。レッドミルが持っていたと言うことは何か重要な記憶に違いない」


 記憶の指輪、それは自分の記憶を指輪として保管し、そして安全に継承することを目的として作られる魔法具。そしてこの指輪にある記憶は極めて正確であり、自分が忘れていたことすらも指輪には記録される。


 さらに、指輪には強力な魔法がかけられていて、基本的に解読は困難。そのため記憶の機密性も優秀。しかしその強固な魔法が故に、記憶を継承しようとしても、その人の力が及ばず、記憶が継承できない場合もある。


 しかしいつの日かそれを解読するものが現れ、その者に記憶を継ぐことができれば目的は達成され、その記憶の中で再び生き始めるのだ。記憶の指輪の恐ろしい点は人格に変化をもたらすことがある。


「──今まで優しかった子が荒くれ者の記憶を見てしまい、そこから急に暴れん坊になったとの話も聞いたことがある。魔物が持っていたというなら尚更気をつけなければいけない」


「これはどうしたらいいですかね?」


「ふむ、確かに君たちが持っていても意味はないだろうな。王の騎士団にでも持っていきなさい。ワシは昔団長だったからな、きっと顔が効くはずだ。でも今日は一日この村に泊まってくれないか?レッドミルを倒してくれたお礼がしたい」


 ヒロナリは姿勢を正す。


「この度は、レッドミルを倒していただき本当にありがとうございました」


 晴樹とペックとナツキはこの家に泊まることになった。


 武器を持っていない彼は魔法を覚えるのが優先だと思い、晴樹はナツキに魔法を少し教わることにした。彼女は快く受けいれた。


「それではまず、有馬さんの属性を調べてみましょうか。手を出してください」


 晴樹は右手を差し出した。


「有馬さんの属性は…」


 彼女は彼の手を握り彼も握り返した。彼は彼女の手に温かさを感じ、その数秒後二人の手の間から優しい光が漏れ始める。


「光属性ですね、珍しいですよ!光属性しかリーダーにしない!なんて集団もありますからね」


 魔法には火属性、水属性、土属性、光属性、闇属性の五つの属性がある。


 火属性は一番威力が高く強力な魔法を使えるがその分練度もかなり必要。


 水属性は攻撃、防御、回復と器用な属性であるがそれ故に攻撃面では決定力に欠ける面があり、後述する光属性ほど回復力はない。


 土属性は魔法で生み出した岩などを用いて物理的な攻撃が得意で、環境に変化をもたらしたり、防御力も高い。しかし魔力消費量が最も高く、素早さに欠ける。


 光属性は状態異常回復や体力回復などを得意とする。攻撃力はそれほどないが、特に闇属性や特定の相手には絶大な威力を誇る。


 闇属性は呪いや状態異常攻撃が得意で攻撃力も高い。奪う力が最も強く、その力に溺れ悪の道へ進む者も少なくない。光属性とは対の存在でありお互いが弱点である。


 ただしその属性でないからといって、他の属性の魔法を使えないという訳ではない。もちろん威力は劣るものの一応使うことはできる。


 彼らは魔法を練習するために家の外に出た。


「それでは光属性の基本的なことから、まず光を生み出してみましょう。手を天に向け、ヨーテルと唱えます。ヨーテル」


 彼女の手の上に光が現れた。最初は小さな光であったが次第に大きくなり、球形に変わり、そのまま明るさがましていく。晴樹はその眩しさに目を背けたが、その一瞬の美しさに感動した。


「すごい!僕もやってみます。ヨーテル」


 彼は見様見真似でやってみたが、特に何も起こらない。彼は力んでみたり思いっきり念じてみたが光は現れない。


「力を抜いて落ち着いて、体内の魔力の流れを感じるのです。そしてそれが手から流れ出るような感覚を掴むのです」


 そう言われて彼は一度深呼吸し体に意識を向け、血流の流れを考えて、それが手に集まることを想像した。


「ヨーテル」


 そう晴樹が唱えた時わずかに光るものが見え始めた。本当に小さい光であったが、ちゃんと無から光を生み出せたことに胸が躍った。


「やりましたね!魔法はこれを応用して攻撃や防御をしていくのでこの感覚をぜひマスターしてください」


 晴樹はその後一日中練習した。そしてようやく五百円大の大きさの光を生み出せた。彼は有頂天で、


「ペック、見てごらん。ヨーテル」


 ペックに自慢したりナツキに見せたりした。ペックは何やら考えがあるような顔をする。


「ワン」


 ペックが吠えると、瞬く間に辺り眩い光に包まれた。晴樹はそのあまりの眩しさに目が開けられなくなり、光が消えてもなお世界が見えなかった。


「ペックはすごいな。というかなんでそんなことができるんだよ」


 晴樹は嫉妬の気持ちと、嬉しい気持ちが混ざった複雑な感情になった。ペックは誇らしげにしている。


 そこにヒロナリがやってきた。


「今の光はすごかったな。ヌマイノがやったのか、とんでもない力を持っているな、魔王にも匹敵するやもしれんな、ハハ。おお!そうだこれからレッドミルを倒したお礼に豪華な食事を用意してるんだ。是非来てくれ、住人総出でお祝いするんだ」


 彼らはヒロナリの後についていき、村の東にある一番でかい家に案内された。


「ささ入って入って」


 晴樹がドアをくぐろうとしたとした時ヒロナリに呼び止められ、


「さっきの君の出身の話が本当なら、君はまず王の騎士団に入りなさい。これは推薦状と他に記憶の指輪の記述だ」

と密かに伝えられ手紙を受け取った。


「ヒロナリさーん!早く来てください!」


 住民の一人が呼んでいる。


「はいはい今行くよー!そういうことだから、まあまずは食事を楽しみたまえ」

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