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異界で、犬と。  作者: 夏谷崚
17/30

店長

7/9 段落の追加

 女は顔を真っ赤にしている。イズミはその勢いに気圧(けお)されながらも言い返す。


「な、なんなんだよあんたは!?」


「ここの店長リロキャルだし!お前のセンス壊滅的すぎるし!クソだし!」

 リロキャルは普段接客をしないのだが、イズミのその壊滅的センスがリロキャルを呼び出した。彼女の忖度ない意見にイズミは顔面を白くする。


「百歩譲ってトップスとパンツだけならまだしも、その靴はなんだし!普通黒か赤で揃えるし!上のコートも意味分かんないし。そんなのどこにあったし」


「あっちの棚の──」


「うるさいし!そもそもパンツとコートはサイズ合ってないし!質感も全部バラバラだし!気持ち悪いし!」


 イズミはもはや灰のよう。

「ったら……だったらあ!この俺を完璧にコーデしてみろよ!」

 ヤケクソのように吠えるイズミに、


「いいし。持ってくるし」

 と余裕そうに答えるリロキャル、すると呼応するようにぬいぐるみたちはせっせと動き出し、服を運んでくる。


「お前はそのダサい格好を早くやめるし」


 そう言うとぬいぐるみたちは服を試着室に持ち込む。


「え、ちょっと──」


 カーテンが閉められるとぬいぐるみたちは問答無用でイズミの服を脱がしていき、運んだ服を着せていく。


 数分してカーテンが開かれる。


 その姿を見た瞬間晴樹は思わず声を上げた。

「え、めっちゃいい!」


「うん、すごくかっこいいよ」


「そ、そう?」


 デニム生地のセットアップに、中はシンプルに白シャツ。シャツはインして茶色いベルトがちらりと見える。デニム生地のジャケットは大きなシルエットを作り、シンプルながらも程よいバランス感で、着こなしの格を引き上げている。


 ボトムスは裾に向かってゆるやかに広がるフレアデニム。所謂ストレートではなく、あえてフレアにすることでオシャレ上級者感を演出する。


 靴は茶色のローファー。艶のある表面が清潔感を高め、ボリューム感のあるパンツとバランスよく調和していた。


 首元には金のネックレスを下げ、程よいアクセントを付け加えている。


 イズミの水色の髪にもよく似合い、先ほどのおかしさが嘘のようであった。


「お前はセンスが終わってるからまずシンプルに始めるし」


 リロキャルは最もらしく言う。イズミはまじまじと鏡で自分の姿を眺めた。


「これが…俺……すっげえええ!超かっこいいじゃん!!」


「ふん!リロにかかれば当然だし」

 リロキャルは胸を張りドヤ顔。


「リロキャルさん、いや、師匠と呼ばせてください!」

「ふん、別に構わないし」


「師匠、これ買います。買わせてください!」


「六点でお会計七十七イェンデと三ビントになりますし!毎度ありだし〜!」

 リロキャルは満面の笑みを浮かべている。


「は!?たか!!」


「いやいやトータルコーディネートでこれは安いし!おにいさんかっこいいしよ〜!」


「俺そんな持ってねえよ!…あ、じゃあ靴とこのネックレスなしだと?」


「はあ?ッチ…それなら三七イェンデと五ビントだし。買うの?買わないの?どっちだし」


「買います、買いますよ!」

 イズミの顔は引き攣っていた。


「文句あるしか?」

 リロキャルが睨みつける。


「いやいや!レジ行きましょ!師匠!」


 そうしてイズミは三七イェンデと五ビントを、晴樹は七ビント、ジユンは二十四イェンデを支払った。


「──遅かったな」

 シュージが不満を漏らす。片手にドリンクを持っていた。


「ごめんごめん。色々あってさ」


「シュージも来ればよかったのに。イズミの面白──」


「おおおい!!やめろ!!!」

 ジユンが言いかけたことを察知したイズミは強く制止する。

「おいなんだよ、教えろよ!」


「ふふふ、やっぱ内緒」


 ジユンは悪戯っぽく言う。日差しは傾き始め、街全体は黄色い光に照らされ始めていた。


──そうして休みを満喫した晴樹達の日常は再び訓練の日々に戻っていく。


「──今日は一対一の練習だ。二人一組を作って木剣で戦え」

 ユータスの声はどこか冷めたように芯がなく不確かであった。


「イズミ、やろうぜ」とシュージが誘う。


「おう」


「じゃあ俺とやろうか、晴樹」


「うん」


 そうして裏庭にはカチカチと木刀がぶつかり合う音が響きはじめる。空には薄く雲が広がり、太陽を隠す、少し湿った空気が辺りに満ちた。


「──晴樹、もっと俺の動きを観察して」

「うん…!」


 ジユンは攻撃の最中も冷静にアドバイスを出す。大柄なジユンは晴樹の上から容赦なく襲いかかり、晴樹はそれを防ぐのに手一杯。晴樹も身長は百七十六センチと日本人にしては大きな方であるのだが、やはりその威圧感とリーチの差は彼に負けている。ジユンの力強い一撃を受けるほど手は痺れていく。


「くっそ…ッ……!」


 晴樹はジリジリと後ろへ追いやられていく。晴樹はジユンの言った通り彼の動きを観察することに専念する。すると彼の剣は一定のリズムで攻撃が放たれていることに心づいた。


(トン、トン、トントン、、トン、トン、トントン、、四撃目の後に隙が生まれる…!)


「ほら、次は右からいくよ」


 ジユンは宣言通り右斜め上から斬りかかる。晴樹はそれを受ける。


(──今だ!)


 四撃目の後、一瞬生まれる力の緩み──そのタイミングで晴樹は深く踏み込み、ジユンの懐へ入り込む。


「ッ…!」


 ジユンが気づいた時にはすでに剣は脇腹に届きかかっていた。


「ハアッ!」


 カツンッ!という音が響く。見事ジユンの脇腹へ一撃を決めた。


「やるじゃん」


「まあ、リズムが分かったからね」

 もちろん晴樹はジユンが手を抜いていたことを知っている。


「いいね、やっぱり晴樹は観察タイプだね。あの二人なんかは気にせず力だけで押し込んできたから」


 ジユンはイズミとシュージの方に目を向けた。


「あと晴樹の反応速度はかなりいいと思うよ」


「ほんと?」


「うん、俺が速度上げても正確に受けてたし。なんかやってた?」


「いや、特には。しかしジユン、力強いね。手めっちゃ痛いよ」


 晴樹はほんのり赤くなった手を見せつけて、ジユンは照れくさそうにメガネを直す。


「まあ、体がデカいからね。でも晴樹みたいに正確に防御されると、力だけじゃ押し切れないってのを再確認できたよ」


 二人はお互いを尊重し合い褒め合う。


「一応冷やしておくといいよ、少し休んでまた再開しよう」


 ジユンは魔法で氷を生み出し、ハンカチに包んだ。


「ジユンってさ女にモテるでしょ」


「ふっ何急に、そうでもないさ」


 ふと視線をずらすとまた激しい一戦が繰り広げられている──イズミとシュージの二人だ。


「オラ!」


 シュージが力任せに木剣を振るが、その軌道は単純で、イズミに受け止められた。


「お前は分かりやすいんだよ」


「ふん!」


 ただその力は凄まじく、イズミの握力が耐えきれずに剣をどかされてしまった。


「やっべ!」


「へへーん!やっぱお前力弱えな!ガラ空きだぜ!」


 シュージはその空いた体に右真横から斬りかかった。イズミは体を捻りながら咄嗟に後退する。


「ふー!あぶねえあぶねえ」

 イズミはわざとらしく額を拭った。


「チッ」


 お互い何度も戦って来たため、自然相手の癖や得意不得意を心得てはいるものの、二人の力は拮抗して両者一歩も譲らない。


 二人の激しい戦いに気がつきナツキは、そちらをチラリと見た。


「──どこ見てんのさ!なっちゃん!」


「…ッ!」


 ナオはナツキを咎めるように剣を振い、ナツキは焦りながらも剣を受けた。


「すみません、少々気になってしまって」


「まったくもー!集中してよね!」


「すみません。では…次はこちらから!」


 若干不意を突くようにナツキは詰め寄る、ナオは普段から突っ走るタイプであるから、攻められ慣れていないだろうという考えで。


「うわっ!」


 ナオは少々面食らった様子だが、ナツキの攻撃を的確に避ける。ナツキの予測とは裏腹にナオは攻守ともに優れていた。ナツキのしなやかで鋭い攻撃は、どれも決定打には至らない。素早い一閃が肩を目掛けて突き進む。だが──


「あぶね!」


 ナオは身体を少し逸らすだけで、容易く避けられてしまう。そうして手を止めてナオに直接聞いた。


「何故私の攻撃は当たらないのでしょう?」


「まあ全部見えてるからね」


「え、全部ですか?」


 当然のことのように言うナオに、ナツキは目を丸くした。


「うん。ウチかなり目がいいからさ、全部分かっちゃうんよね」


(ただ目で避けていたなんて…)


 ナツキはただ驚くだけであった。ナオのその驚異的な感覚に、さらにそれに応えられる身体能力に。


(それを上回る速さが必要か)


「んまーなっちゃんもなかなか悪くないけどね。狙いはとにかく正確だし、隙もな…あいやさっきあったか」


「むー」


「あはは、まああれ以外はなかったし。だからやっぱあとは速さだよね、もっとキレよく、こうシュッと」

 ナオは空を突いて見せる。


「緩急っていうの?がいいんじゃないかな」


「なるほど、ありがとうございます!」


「んじゃ続き行くよー」


「はい!──」


 そうして各々が自身の欠点などを見つけだし、互いに高め合う。

 ユータスはその光景をただ呆然と眺めているだけであった。

 その後班と班で模擬戦を行ったり、その班の分析を行ったりした。


「──今日はこれで終わりにしよう。各自、しっかり休むように」

 相変わらずの曇り空で、既に暗くなっていた。


「ありがとうございました」


 それぞれは寮に戻っていく。


「──なんだ今日のあいつは?」

 とシュージが歩きながら小声で話す。


「スカルクラッシャーに三人殺されたのが相当なショックだったんだろうよ」

 イズミもまた小声で答える。


「しかしあそこまで腑抜けた様子になるか?」


「本当にな、こっちまで調子狂うわ。三人と同じ班だったミロカでさえもう頑張ってるってのにな」


「あの感じが続いたらぶん殴ってやろうぜ」


「お、いいなそれ」


──その一方女子寮では。


「あ………おかえり…」

 乱れた髪のユメノがソファーで座って待っていた。


「おかえりじゃないでしょ、あんたまたサボり?」

 ナオが呆れ気味に尋ねる。


「うん……ねてた…」


「ったくもー」


「まあまあユメノちゃんは“特別”だから」

 とクレハが一応擁護するが、


「だとしても体力つけないと、前みたいにすぐにバテちゃうでしょ」


「まあそれもそうなんだけどね」


 そんな二人の光景をユメノは笑って見ていた。


「な〜に笑ってんのよ〜」

 ナオは軽くユメノのほっぺを引っ張り回す。


「なお……ひたひ…」


「ははは、サボったお仕置きだ!」


 そこにミロカとナツキが一緒にやって来た。


「なにやってんの?」


「お、二人とも、今ねユメノにお仕置きしてたのさ」


「なんで?」


「今日も訓練サボったからさ」


「へえ、また?」

 ミロカはソファーに腰掛け、片眉を上げてユメノを見る。

「まー確かにユメノは剣ってタイプじゃないもんね。でも見るのも大事だよ?」


「…外…あつい……」


「おいおい」


「しかしそうしたらユメノさん、体力つかないですよ?」

ナツキが声をかけながら、ユメノの髪をといてやる。


「そうそう、なっちゃんからも言ってやってよ」

 ナオは頷きながら同調する、それにユメノは頬を膨らました。


「わかった…次はでる……」

 不服そうに弱く呟く。


「偉い偉い」

 クレハが微笑みながら頭を撫でる。


「偉くない!」

お読みいただきありがとうございます!

よろしければ、評価、感想いただけると大変励みになります!


訓練シーン絶対スカルクラッシャー前に書くべきだった。

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