友達
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祝いのムードは数日続き、労いの意味もあり、訓練は休みとなった。
晴樹は五班と一緒に商店街へ遊びにいくことに決めた。この二週間晴樹は本部から出歩くことは、訓練以外の時間ではなかったため、自分の知らない世界の街並みに対してとても興味が湧いていた。
彼らは騎士団の制服を着て、街中を闊歩する。というのも、騎士団員であると店によっては割引を得られるメリットがあるからである。もちろんそういう打算的な意味だけでなく、何か問題があればすぐに騎士団員を見分けられるようにする目的でもある。
本部の目の前に商店街があり、街はすでに多くの人間で賑わっている。道の両端に店がずらっと並び、威勢のいい呼び込みの声が飛び交い、庇が伸びて売り物に影を落とす、その店の豊富さに目が色々なところへ奪われていく。
「すごいな…」
思わず声が漏れた。一見すると普通の商店街のようだが、どこか違う。それは置かれている商品や、店主の見た目のせいであろう。例えば、うねうねとまるで自我を持ったかのように動く植物や、青色の肉や野菜が並んでいた。日本ではなかなか見られない武器防具店や、人形が店員を務める服屋など非日常が溶け込んだ日常がそこにはあった。
「どこか行きたい場所ある?」
「俺、魔導書を見に行きたいな」
ジユンのその目はどこか光っていた。
「言うと思ったわ。じゃあコーガ魔導書店行くか」
魔導書店は商店街に入ってすぐにある。ドアを開けると鈴が鳴り響き、薄暗い店内に光が入り宙を舞う埃を照らす。積まれた本はどれも古く、ツーンとカビ臭い店内に店員は見えない。
「本当にやってるの?」
「開いてたから大丈夫」
ジユンの言葉に少し迷いながらも、各々勝手に見て回る。店内にはギチギチと本棚が詰まって、晴樹が適当に手に取ってみるが、どれも難しそうな内容ばかりである。
棚に布がかかっていたため晴樹はそれをめくってみた。
「うわああ!」
「どうした!?」
近くのイズミが駆け寄る。
「ほ、骨が……」
晴樹が恐ろしそうに指を指す。めくった布の裏には白骨化した人間の骨があった。それをみたイズミは「ああ、コーガさん!」と一言。
「え?」
「ここの店主」
「いやいや、骨じゃん」
晴樹が理解できずドギマギしていると、
「そうそう、私、骨なんですよ」
骨は動き出して、喋りだす。
「やあイズミこんにちは」
「え!?」
「カカカ、あなた初めまして、私の名前はコーガと申します。大体四百年くらいここで本屋の店主をやっています」
カツカツと音を鳴らしながらコーガは口を動かし、おもむろにメガネを拾いかける。晴樹はびっくりして言葉が出なかった。
「何してたんすか、そんなところで?」
「シュージ、私はここで寝てたんだよ」
「ベッドとかじゃなくても寝れるんすか?」
「カカカ、骨になると疲れだとか、快適だとかそんなものはもうないのだよ。それで…あなた名前は?」
「は、初めまして、有馬晴樹といいます」
「カカカ、有馬晴樹君かいい名前だ、新しく騎士団に入ったのだね。うちでは魔導書、まあ見ての通り古い魔導書を主に取り扱ってるよ、新しいのは入り口の方。好きなのがあったら是非、安くしておくよ」
コーガはフランクな喋り方をして、その見た目の不気味さを打ち消しているよう。
「あ、コーガさん、いた。この本ほしいんですけど」
ジユンが三つ本を手にもってやってきた。
「おおジユン。もう新しい本か、相変わらず読むのが早いな。勉強熱心なのはいいことだよ。それは合わせて二イェンデと五ビントだな」
コーガはレジに歩いて行った。
「びっくりした…」
「まあ最初は誰でもそうなる」
「アニメとかでよくみるけど、本物はなかなか迫力あるね」
「ん?ああそうだな」
「と言うかあれどうやって動いてるの?」
晴樹の問いに二人は「分からない」と口を揃える。
「──お待たせ、次行こうか」
会計を済ませジユンとコーガが戻ってくる。
「よし、じゃあ行くか。ありがとうコーガさん」
「うん、気をつけてね」
四人は出て行こうとすると、
「あ、晴樹君、ちょっといいかな?」
コーガが呼び止める。
「はい?」
「今度は一人でやって来なさい、君に見せたいものがあるんだ。まあ全然急ぎじゃないから、それに訓練で忙しいだろうし。いつでもいいからね」
「はあ」
そう言うと店の奥へ行ってしまった。
「──何だって?」
「いや別に、また来なさいって」
「ふーん」
晴樹は少しはぐらかすように答えた。
「次どうしようか」
「俺おっちゃんの武器見にいきてえな!」
シュージが目を輝かせて言った。
「武器!僕も見てみたい!」
「よしじゃ行くか!ここから真っ直ぐだよな?」
「うん、交差点を二つ渡ってすぐ」
ジユンの記憶通り交差点を二つ越えるとその店は現れた。
「あれ、ドルマンの武ってやつ?」
晴樹が看板を指さし声を上げる。
「ああ!晴樹、あそこはすげえぞ。男なら全員楽しめるに違いねえ!早く行こうぜ!」
そういいシュージは晴樹の手を引き走っていく。
「本当にあいつ二週間前に『晴樹は班に入れない!』って言ってたやつかよ」
笑いながらイズミがツッコミをいれた。
「ふふ、可愛らしくていいじゃん」
扉を開けると、金属と油の香りが鼻につく。壁には剣から槍、大鎌、盾、棍棒など、用途の分からぬ武器まで様々なかけられている、更に目を引くのは大人の身長ほどある大剣で、その重厚な見た目は圧倒的な威圧感だ。小窓から入る日に照らされ、そのよく手入れの行き届いた武器はますます輝きを放っていた。
「すげえ…!」
晴樹は思わず呟いた。店の奥では大きな男が一人剣を研いでいた。その声に気づいたか振り返る。
「いらっしゃい!おお、シュージじゃねえか!よくきたなあ!そいつは新人か?」
「うん!晴樹ってんだ!」
シュージが元気よく答える。
「そうか!よくきた!俺はヘヴィルカ・ドルマンだ。この店は親父が始めてな、今は俺が店主をやってるってわけ。騎士団にある武器は大体うちが請け負ってんのよ!」
「こんにちは、有馬晴樹です。じゃああの剣も──」
「ああ、あれを倒した時の剣もおっちゃんのやつだ。聞いてくれよおっちゃん!おっちゃんの作った剣がな!魔王幹部を倒したんだよ!」
「がっはっはっは!そいつは嬉しいな!」
「しかも晴樹が!」
ヘヴィルカは目を丸くして晴樹を見た。
「本当かお前!?大したもんだな!何か一個持ってくか!?」
「いえいえ!もちろんシュージ含めて、みんなで討ち取った敵ですから」
「シュージも頑張ったのか!」
ヘヴィルカは嬉しそうに笑い、そうして二人は話し込んだ。後からイズミとジユンが入ってきた。
「──おお!イズミとジユンも!いらっしゃい!」
「こんちは!ヘヴィルカさん!」
イズミも元気よく挨拶して、ジユンは「どうも」と一言。
「お前ら頑張ったんだってな!魔王幹部と戦って勝利したって!」
「──ヘヴィルカさん、ちょっと来て!」
店の奥から女がヘヴィルカを呼ぶ。
「おう!すまんな、まあゆっくりしてけ!試し斬りしたかったら勝手にしていいから。シュージが案内してやってくれ」
そう言い残しヘヴィルカは奥へと入って行った。
「ずいぶんと懐いてるんだね」
「んまーおっちゃんには昔からよくしてもらっててな」
シュージは腰に手を当て胸を張って答えた。
それぞれが店内を見渡していると、晴樹は一つの剣に目が止まった。その刃は細長く赤黒く輝き、鍔は一般的なものよりも大きく、装飾が施され、グリップには黒い革が巻かれ、その色合いと見た目が彼の厨二心をなんともくすぐる。
「これいいな」
「おお、分かってんね。これは貴重な赫鉱で作られた剣なんだ。切れ味は抜群で、血を浴びるとより強度と切れ味が増すっていう恐ろしい一面もあるんだぜ」
シュージは晴樹の隣に立って得意げに解説をする。
「怖いけど、そういうダークな雰囲気めっちゃいいね」
「試し斬りしてみたら?」
ジユンが提案する。
「そうだな、おっちゃんもいいって言ってたし行こうぜ」
半ば強引に隣の試し斬りスペースへ連れて行かれる晴樹。
「その木を斬ればいいよ」
そこには藁人形や木の杭が並んでいた。晴樹は剣を構えて一歩前へ出た。
晴樹は軽く素振りをし様子を確かめる。そうして木を斬ってみる。スッと刃が通り抜けると、その木はまるで斬られたことに気づいていない、少しの間形が崩れなかった。
そうして皆の集中が向く中、思い出したかのようにコトッと落ちた。
「すげええ!」
シュージは歓声を上げた。
「本当に軽く斬ったのに、普段の何倍も切れ味がいい…」
「本当にすごいな!晴樹それ買おうぜ!」
イズミが興奮して提案する。
「これは夢だね!いくら?」
「一万二千イェンデって書いてあった」
「………」
「まあ……本当に夢だな…」
少し落胆しつつ、晴樹は剣をゆっくりと大事そうに元の場所へ戻す。そうして四人は店を出て行った。
「腹減ったなー。そろそろ飯にしようぜ!」
イズミが手を腹に当てながら提案する。
「そうだね、時間もちょうどいいし」
「──誰か!!ひったくりよ!!そいつを止めて!」
女の叫ぶ声が聞こえ、全員の注意がそちらに向く。すると男が勢いよく走って逃げるのを見つけた。
「流水!」
イズミがすぐさま水弾を飛ばすとその男に衝突し、男は背中から倒れた。その間に他の三人が捕える。周囲では歓声と拍手が巻き起こった。
「クソッ!はなしやがれ!」
「ふん、盗ったものを返しな!」
シュージとジユンが腕を掴み体を抑え込み、晴樹は男から袋を取り上げる。袋にはお財布やアクセサリーが入っていた。
「──はい、これ。盗られたものですよね?」
「ありがとうございます!はあ…よかった…助かりました。これ友達に渡そうと思ってたんです」
女は安堵した様子で深々と頭を下げた。
「それは取り返せてよかったです!」
「騎士団の方々、本当にありがとうございました!」
「いいのいいの!次は気をつけてくださいね!──それで、こいつどうしようか?」
「まあ衛兵にでも任せようぜ」
「うん、そこの通りに詰所があったはず」
すると街の人が衛兵を二人連れてやってきた。
「お、こりゃ話が早い」
「騎士団の皆様でしたか。この度のご協力心より感謝申し上げます。後は我々が引き受けます」
そうして二人の衛兵は男を抱えて連れて行ってしまった。
「よし、いいことしたらもっと腹減ったな!早く行こうぜ」
「何食べる?」
「肉!!」
「美味いトコいこーぜ!ジユン知ってねえか?」
「いい場所があるよ」
四人は活気を取り戻し、ジユンの案内で次のお店に向かった。
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