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異界で、犬と。  作者: 夏谷崚
スカルクラッシャー編
14/30

その後

7/18 一部修正

 スカルクラッシャーの死体は、元の大きさに縮み、色は薄くなり生が失われた感じを印象づける。


 戦いの後騎士団は速やかに裏庭へワープした。


 死体は騎士団に持ち帰られ、解剖され解析が済んだら火葬される手筈となった。マス、ヒトハ、リオの遺体も回収され、遺族に渡る。


 本部ではユータス、マリニカ、エレナにグゼル、男子二十人、その他職員が大勢待っていた。ユータスは晴樹達が帰ってくると大きく頭を下げた。


「申し訳なかった…俺が不甲斐ないばっかりに大変な目に遭っただろう…俺は教官失格だ…」


「まったく…あまり大きな男が弱音を吐くんじゃないよ、みっともない」


 マリニカはユータスの背中を叩いたが、その目は赤かった。


「教官達が無事でよかったですよ」とジユンが慰めるが、


「いやよくない!俺がもっとちゃんとしてたら…!みんなが戦っている間俺らは眠っていた…」


 ユータスは自分の顔面を平手打ちした。


「まあまあ、ユータスさん、一回落ち着きましょ」


 エレナが優しく肩に触れた。


「──グゼル!スカルクラッシャーの死体を運ぶのを手伝ってくれ!」


「はいはーい!」


 クインクの声が響きグゼルは駆ける。グゼルはその死体を見て興奮していた。生物学者の彼は未知の魔物に対して興味津々で、解剖なども彼のチームが行う。


「──有馬さん、大変でしたね」


 ナツキが微笑んで話しかける。


「いや、本当にそうですね。ナツキ…さん」


「ふふ、もうナツキでいいですよ。ついでにタメ口も」


「え」


「私も晴樹さんって呼びますから…」


 ナツキの顔は紅潮していたが、夕日に照らされてより赤く見えた。


「…うん!これからもよろしく!ナツキ!」


「はい!晴樹さん」


「おやおや〜ん?お二人ともなんだかいい感じじゃないかい?」


 ニヤニヤして話しかけてくるはナオ。


「げ、ナオ…どこから聞いてた…?」


「最初からね。いや〜いいねえ青春って感じで!二人を見てるとキュンとくるねぇー」


「もー、握手の件もこれも同じ組織の中で一緒に頑張っていくための必要なコミュニケーションの一つであって特別な感情があるから必要以上に仲良くしてるとかそういうことではないですからね」


 ナツキは大袈裟な身振り手振りと早口で捲し立てる。


「分かってるよ〜」とナオはナツキの肩に腕をかけバシバシ叩く。


「分かってないじゃないですか!」


「何?二人ともまたナオに絡まれてんの?」


 そこにイズミがジユンとシュージを連れてやってきた。


「お、いいところに来たね。今なっちゃんと晴樹きゅんの距離がねすーごく縮まったんだよ」


「お、付き合うの?」


「違うよ、ただタメ口と呼び捨てしてもいいよってだけ!」

晴樹はしっかりと否定した。


「なんだよ〜付き合っちゃえよー!お似合いだと思うよ?」


 イズミは笑いながら冗談っぽく言う。


「うん、さっきの最後の攻撃も息ぴったりだったし」


 ジユンが頷きイズミと顔を見合わせた。


「そうだよね?」


「まったく…ほんとにお前ら恋愛脳すぎ!」


 夕日は空に溶け始めていたが、その光は彼らを優しく包み込んで、暖かく見守っていた。


 少しして一団は海の近くにある慰霊碑の元へ向かった。騎士団では戦いが終わると毎回祈りを捧げる慣習となっている。


 慰霊碑は無機質なデザインの直方体の石で、光を鋭く反射している。


 石の前にクインクが花束が添えると、一団はその前に跪き、右手を心臓にあて、低く体勢をとった。


 潮風が優しく流れ、感傷的な心をくすぐる。


「──今回の戦いで、我々は大きな一歩を歩んだ。しかしながら我々は惜しくも、ヒトハ・タケ、マス・ニトラウト、リオ・ヴィーゲルの三人の仲間を失った。彼女達の犠牲のもと我々は勝利を手にすることができた。


また、敵であったスカルクラッシャー。過去にも多くの殺戮を繰り返し、その残虐は到底許されるものではない。だが彼もまた一つの生命であり、我々はそれを奪ったのも事実だ。我々は彼らの屍の上に立っている。そのことを忘れないためにも、彼らの魂に敬意を込め、黙祷を捧げる──総員、黙祷」


 遠くから波の音が微かに届く。誰一人言葉を発さず、頭を垂れて目を瞑り、祈っていた。


 風が吹くたび花束のリボンがなびかせ、海の匂いが間を走る。


 粛々とした中、彼らは自分の心と向き合っていた。


 それは亡くなったものに対しての同情。


 未来に対する決意。


 死ぬ前に交わした約束。


 一人一人の想いは心に刻まれる。


 ナツキは拳を強く握り締め、ミロカは込み上げてくるものを必死に堪えるが、溢れたものをそっと拭った。


 晴樹は以前ユータスが言った言葉の意味を完全に理解した。事実だった。死者に対してできることは祈ることしかない。ただこれは同時に贖罪でもある。命を奪うという行為を決して肯定することなく、それでも歩いていくための儀式であった。


 クインクがゆっくりと顔を上げると、それに倣い団員も起立した。


 感傷に浸る時間は済んだが、その記憶は心に刻まれた。そして各々は未来に向けて歩み始める。


 儀式が済めば次は食事の時間。食堂ではすでにたくさんの料理が用意されて、食欲をそそる美味しそうな香りがすでに漂っている。


 普段は新人や職員のみが利用するだけでガラガラであるが、今日は一変し、四つあるテーブルは端から端まで使われている。


「こんな人がいるの初めてだな」


 イズミがシュージに話しかける。


「ああ、しかも団長もいるしな」


「ほんとだ、レアじゃん」


 机の上には肉料理が並び明かりに照らされ輝いている。周りには緑や赤、黄色といった色とりどりの野菜が盛り付けられ、見ているだけでも美しい。籠に焼きたてのパンが小麦の匂いを漂わせながら盛られ、スープの湯気と合わさりなんとも腹の虫を刺激する。


「それでは、諸君、スカルクラッシャー討伐を記念し──」


 クインクの演説が始まったが、晴樹はフタバ村での宴の様子を思い出していた。なるほど村での宴は騎士団由来だったのだと気がついた。ヒロナリも騎士団長だった故にあのようなことをやっていたのであろう。


 しかし前回のレッドミル、今回のスカルクラッシャーといい、魔王軍幹部と出会いやすいのは何故なのだろうか。そもそもあいつらの目的はなんだったのか、現れて何をしたかったのか。などと考えていたら、クインクの話が終わる。


「──それでは、乾杯!」


「乾杯!」


 同時に皆グラスで十字を切ってから杯を合わせる。この世界の慣習であるということは前述のとおりである。


 宴は賑やかなムードで進められた。


「──ごべんな!ほんとうに!!!俺のせえでよ!」


 と酔っ払ったユータスが五班の元に泣きついて、後ろから腕を伸ばし四人全員を抱えようとした。


「いやいいっすよ別に。あの強敵相手に三人だけで済んだのは──」


「うわあああああああん!!!そうだ俺が不甲斐ないばっかりにぃ!!!三人も死なせてしまったんだ!!!!クソォ!俺はダメな教官なんだよぉ!」


「おいシュージ!余計なこと言うんじゃねえ!」


「いや最後まで聞けし!あの強敵相手に三人だけで済んだのはあんたの指導がよかったからなんじゃないですか?それに入団して二週間ちょっとの晴樹とナツキが生きてるのも、あんたがちゃんと指導してたからっすよ」


「シュウジイイイイ!!!お前ェいいやつだな!!!」


 ユータスは涙をさらに流しながらシュージに強く抱きつき、口を近づけてくる。


「うおおおおお!やめろおおおおおお!助けてくれえええ!」


「まあまあ教官!あ、そういえば六、七班のところには行ったんですか?」


 晴樹が咄嗟に矛先を変える。


「ああぞうだ…六、七班にもあやばでぃにいがなげれば…ごめんよミロカ……」


 顔面をくしゃくしゃにしながら去っていくユータス。


「あいつやべーな」


「酒が入るとあんな変わるんだな」


 シュージが悪態をつき、イズミは面白そうにユータスの後ろ姿を眺めた。


「というかシュージ。前から思ってたけど、よく僕らのこと見ててくれてたんだね?」


「は?」


「だってさ、僕が五周走ってバテたのも、ペックの魔法も知ってたし、それに僕とナツキが入って約二週間ってのも覚えててくれたじゃん」


「あとこいつ、晴樹がペックの訓練してたのもずーっと見てたんだぜ」


「あ、おい!」


 シュージはイズミの言った言葉に顔を赤く染め、


「べ、別に見てたんじゃなくってたまたま目に入っただけだし!!」


「ふーん、じゃあ晴樹が傷だらけになったの心配して、きず薬用意したのもたまたまだった?」


 ジユンがニヤリとしながら詰める。


「あはは、そうだったの?でもありがとう、ちゃんと見ててくれたんだ。嬉しいよ」


「うるせー!!心配なんてしてねえから!!」


 シュージは反論できずに、ぷいっとそっぽを向いた。


 食堂では笑い声が響き、温かな雰囲気が流れていた。


 外は穏やかに晴れ、夜の静けさの中に、宴の明るさが一つ灯っていた。

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