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僕と犬が異世界へ!?  作者: 夏谷崚
訓練編
12/22

ドキドキ訓練!3

6/10 段落の追加

 スカルクラッシャーが纏っていた黒い気配は吹き飛び、そこには体格は四メートルほどにまで巨大化した異形の姿があった。仮面の(つの)は螺旋を生じさせながら鋭く伸び上がり、角の間で黒い稲妻が音を立て火花が弾けた。


腕は筋肉がはち切れそうなほど肥大化し、太い血管が浮き、生命の強さを思わせる。特に右腕は硬化して斧のような形へと変化し、それは暴力性そのものを表したよう。


背中は棘のような物が飛び出して、ぐにゃりと曲がり、不完全な四足歩行のような体勢をとっている。


「俺、ユメノ、ミロカが妖蛇の処理、その他は本体だ」


「もう逃げられんぞ!!」


 スカルクラッシャーは唸るように叫び、引き続き蛇を生み出す。蛇の口は大きく裂け、鱗は金属のように光り、より黒紫の輝きは増す。赤い蝶の輝きは燃えるように激しかった。


「来るぞ…!」


 蛇は一度大きくうねり、宙を這う。その迫り来るスピードは上がり、剣がなかなか当たらない。更にその硬い表面が傷をつけることを困難にしている。


 ジユンは目の前の蛇を斬るので手一杯で、前衛のことを気にかける余裕はなくなっていた。ユメノは魔法を何発も飛ばし、弱った蛇をミロカが断ち斬る。自然連携が出来あがっていった。


(クソ…このままだと俺らが先に落ちる…!)


 ジユンは神経が張り詰めていたが、ふとした拍子にミロカは足がもつれ倒れてしまった。すかさず赤い蝶がミロカの頭に止まる。


「ミロカ!!避けろ!」


 ジユンが叫ぶのと同時に蛇は加速し噛みつく。ミロカは致命傷を免れたが、肩を噛みつかれ負傷した。


 そして目を離したジユンは蛇に体当たりされ、地面を転げた。蝶がゆっくりと頭の周りを舞う。


(まずい…!)


 蛇は頭を目掛け一直線に突撃する。


「ウッ…!」


 咄嗟に左腕で受けてしまい骨は砕かれ肉が千切れる。なんとか右手の剣を突き刺したが、深く傷を負ってしまった。更に彼の視界には無数の蝶が映っていた。


(こいつら…弱った俺に狙いを集中させている…!?)


 前方から蛇が加速してくる。ジユンは立ち上がる隙もなく、蛇達は何度も噛み付く、地面を這いずりながらもギリギリのところで避けていた。すると一匹がその勢いのまま地面に激突し、土が舞い上がり視界を奪う。


「ジユン!!」


 ミロカが叫ぶが、その土埃は厚くまるで声を通していないように反応はない。ただ蛇も獲物を見失ったようで、動きは鈍っていた。そうしてジユンはその土の中で息を殺していた、赤い蝶が過ぎ去るまで。


その間──晴樹たちもまた苦戦を強いられていた。


 六人はスカルクラッシャーを取り囲んでいる。その異形の放つ威圧感に晒されて、六人の足はすくみそうになる、だが負けてはいられないと彼らの決意も堅かった。一歩動くと地面が揺れヒビが入り、黒い瘴気が噴き出す。互いに見合い、沈黙が訪れる。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。


 その沈黙を破ったのはまずスカルクラッシャー。硬化した右腕を大きく振り回すと、岩が破壊され、木々が薙ぎ倒されていき、辺りには土煙が舞い、破片が飛び散る。異形はナオに突進し、ナオは地面と衝突を繰り返し転げ、何箇所も傷を負った。すかさず異形は迫る、その右腕を振り上げ頭部に狙いをすます。


「あ──」


 ナオは思わず声が漏れる。その一瞬でナオは死を意識させられた。しかし晴樹とナツキが正面から同時に斬りかかり、クレハが魔法で生み出した岩塊を重々しく投げつける。異形は僅かに体勢を崩した。


「ナオっ!!動けるか!?」


「なんとか…」


 ナオを庇った晴樹とナツキは剣を構え直す。


「クレハさん!強化頼みます!」


 二人は駆け出し、崩れた体勢のスカルクラッシャーに斬りかかるが、剣の軌道を正確に読まれ、右腕で受けられる。金属がぶつかり合うような音が鳴り響く、異形はその腕で薙ぎ払いをし、二人は跳ね飛ばされた。


 立ち上がろうとする晴樹を異形は左手に持った武器で横から殴りかかり、晴樹は勢いよく壁に激突、口内は血の味で満ち、呼吸が止まる。


「有馬さん!!」


 ナツキが立ち上がり再び斬りかかるが、異形は足を地面に埋もれさせ蹴り上げる。岩や木の破片が混ざったその土は刃物の嵐、気がつけばナツキの腹部や腕、脚には血が滲んでいた。


「──こっちだバケモン!!」


 イズミが叫び異形は振り向くと、そこではイズミとシュージは魔力を溜めていた。


冷たさと熱さが混ざり合い、空気が振動する──


「「ヒョウソウエンマ!!」」


 轟音と共に形が生み出されたそれは、特大の鋭く尖った氷の槍で、周りに炎が巻き付く。炎が空気を歪ませ、冷えた空気が衝撃波をうみ、地面をえぐる。氷と炎の不和が作り出す破壊力、赤と青は渦を巻きながら飛来した。


 スカルクラッシャーはそれを受け止めようと試みる。地面に足がめり込み、溶けた氷が飛沫をあげる。鼓膜を突くような激しい音が鳴り響き続け、槍は異形の肉を削り、血が飛び散り、その身は炎に焼かれていた。


 スカルクラッシャーの全身は炎に包まれ、炎がバチバチと音を立てて、熱を放ち、皆の心と同じように燃えていた。


──いける!


 皆がそう思っていた。


「──ククク、今のは少し効いたぞォ!」


 炎の中で低く笑い、身体に移った炎を振り払う。そしてスカルクラッシャーは右腕を天に掲げ、その焼け(ただ)れえぐれた傷を堪能するように眺めていた。


「うそ…だろ…」


「俺らの一撃が……」


 二人は突然力が抜け、地面に伏した。


「こんな力があるとはなァ!誇れ、このスカルクラッシャーにここまで傷を与えたことを」


 スカルクラッシャーの周りは魔力で揺らぎはじめ、闇の力が空気を冷やす。


「ククク、光栄に思え、このスカルクラッシャーの最終奥義を受けられるのだからなァ!!!」


 六人は剣を構えた。地が大きく揺れ始め、魔力の揺らぎが空気を振動させ、空は黒い雲に覆われる。


「来るぞ…!」


 異形はただ低く呟く。


「ノウシン──」


 突如として六人は頭に無数の槍が突き刺さるような、激痛に襲われその場に倒れ込んだ。


「ぐあああああああああああああ!!!!!!」


 吐き気に襲われるほどのその鋭い痛みに視界が揺らぎ、立ち上がることも困難。殺されることを避けるように、小さくうずくまることしかできなかった。


「クッ…クハハハハハ!さあ苦しめ!騎士のガキ共!もっとその恐怖に怯える顔を見せるのだ!」



「──妖蛇が消えた…?…終わったのか?」

 ジユンは一息ついて、辺りを見渡した。


「──ぐあああああああああああああ!!!!!!」


「なんだ!?みんなの声か!?急ぐぞ!」


 ミロカとユメノは不安を押し殺すように強く頷き、ジユンについていく。近づくにつれ異様な空気感を感じ取り、心臓が強く鼓動し、汗が滝のように流れでていた。


「みんな!!」


 六人は頭を押さえて悶え地面にうずくまっていた。立ち上がろうとしても身体が動かない。


「く……る、な」


 晴樹は必死に手を伸ばし声を出して伝えようとしたが、身体が痛みに耐えられず拒絶。


「…そうだ、まだガキが余っていたな…貴様らも味わえ!ノウシン!」


「ウッ…グあああああああああぁ!!!!!」


 すると三人の頭に鋭く激しい痛みが走り、頭を抱え膝から崩れ落ちる。やはりその痛みに耐えられず倒れ込んでしまった。身体の力が上手く入らない。天と地の分別すらまともにつかなかない中、痛みという感覚だけは、鮮明であった。


「…あ………あ……」


 もはや声も出ず喘ぐだけであった。


「クハハハハハハハ!なんと美しい光景だろうか…!」


 異形は頭を押さえながら高く笑う。


「さあてそれでは…お楽しみの時間といこうか!」


 スカルクラッシャーの足取りは不思議と重かったが、彼らにとってはどうでもいいことであった。意識が朦朧とし始める。


「まず…赤髪の貴様からだ。よくこのスカルクラッシャーに火傷を負わせた。存分に喜べ…あの世でなァ!」


 スカルクラッシャーは右腕を重々しく振り上げる。狙いはやはり頭。腕が真っ直ぐ落ちていく。


「シ、ュ….…ジ」


 イズミが息のような声を漏らす。



────キンッ!



 鋭い金属音が鳴り響いた。


「お前たち、よくここまで耐えた。あとは任せろ」


「──ワン!!」


 スカルクラッシャーの体に水の弾が鈍い音を立てながら衝突し、異形は体勢を崩し膝を地面についた。


「ぐっ…なんだ!?」


「総員に告ぐ!新人を保護し、魔王軍幹部であるスカルクラッシャーを討伐せよ!」


「は!」


 鎧を纏った騎士がぞろぞろと現れ、倒れている九人を介助する部隊、スカルクラッシャーを囲う部隊に分かれた。


「団…長…?」


「ああ。シュージ、もう安心しろ」


 クインクは力強く励ますように言い、シュージは安心しきったような顔をして、全てを預けるように兵士とその場を離れた。 


「小癪な真似をしよって!貴様らは必ず殺してやる!行け!妖蛇ノ蠱よ!」


 蛇がまた生み出され、蝶は怒ったように燃え盛り、騎士に襲いかかる。しかし熟練の騎士たちはその硬い身体を難なく斬り、大量の魔法が空を飛び、素早く一掃してく。


(俺らが手こずっていた妖蛇を一瞬で…)


ジユンはそのレベルの差に息を呑んだ。


 そして九人には治癒魔法がかけられ、全員の傷は癒やされていった。


「もう大丈夫だからね。怖かったでしょう、でも私達が来たから安心して!」


 と治癒班の人間がしきりに言って回る。


「ワン!ワン!」


 ペックが尻尾を振り耳を下げながら晴樹に突撃した。


「ペック!?どうしてここに?」


「団長が連れてきたのよ。晴樹君の危機だからって」


 晴樹は不思議に思ったが、何はともあれ助かったのだからどうでもよく感じた。


「さ!君たちには最後の仕事をしてもらうよ!」


 騎士の女がそういうが、彼らはきょとんとするだけだった。

お読みいただきありがとうございます!

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