俺は異世界多言語マスター〜「異世界の言語がわかるだけの無能」と勇者にバカにされ追放されたが、実は全ての種族や時代の言葉がわかる有能通訳だった。美人達から超頼りにされてるので今更帰る気はないです
「伝田、てめえをこの勇者パーティから、追放する」
俺の名前は【伝田 健吾】。二九歳。
俺にパーティ追放を言い渡したのは、この勇者パーティのリーダーである、【諏訪 カスオ】。十六歳。高校一年生だ。
俺たちは半年前、異世界に召喚され、国王の命令で勇者として、魔王を倒しに行く最中。
四天王の一人を倒し、街に戻ったその日、俺はリーダーであるカスオから追放を言い渡された次第だ。
「は……? 追放……? どういうことだ?」
「わかってんだろ、伝田。てめえはこのパーティのお荷物だからだよ」
……お荷物、か。でも、仕方ないことだ。
今回異世界に、勇者として召喚されたメンツは、この場に居る四人。
そのうち三人は、高校生で、しかも全員俺よりステータスが上(この世界には、剣と魔法が存在し、ゲームのような法則が適用されてるのだ)。
そのうえ、勇者召喚の儀式で呼び出される勇者は……通例三人とのことだ。
そう、三人。でも、呼び出されたのは俺を含めた、四人。
その中でも一番、数値が低いのは、俺。
「お荷物って……そんな言い方酷いですよ、カスオさん」
「天音ちゃん……」
俺をかばうような発言をしたのは、【聖高原 天音】ちゃん。
今回召喚された勇者の一人で、女子高生。唯一俺に優しくしてくれる娘だ。
ハーフらしく、亜麻色の長い髪をしている。
「天音よぉ、わかってんだろ。この伝田のおっさんがよ、巻き込まれた一般人だってことはよ」
……巻き込まれた一般人。
そう思われても、仕方がないことだ。他三人のステータスと比べると、俺の数値はあまりに低い。
全員がレベル50を越え、全ての数値が三桁(二桁いってればこの世界では英雄扱いされる)。
一方で、俺のレベルは、1。
ステータスの数値は、全て一桁なのだ。
召喚勇者は、代々、強い力を女神から付与されて、召喚されるらしい。
けれど俺のステータスはこの世界の一般人と同等だし、それに、【優れた力】を付与されたわけじゃあない。
「おれことカスオ、サン汰、天音。この三人が本来召喚されるはずの勇者だったんだよ。それぞれ固有の聖武具も持ってるしな」
そういって、カスオは自分の腰に差してある剣に手をかける。
「おれは勇者の剣、サン汰は杖、天音は弓。……でも伝田、てめえは聖武具なしのカスじゃあねえか」
この場にいる四人、諏訪 カスオ。大町サン汰。坂城 天音。その三人には、勇者固有の武装が、召喚された直後に、天から配布された。
聖武具。
古来より、勇者に天から与えられる、特殊な武器のこと。
彼らが持つ聖なる武具を、しかし、俺は……俺だけが、与えられなかったのだ。
「で、でも……健吾さんは聖武具がない分、わたしたちの代わりに、サポートをやってくださっていたじゃあないですか」
「はっ! サポートって聞こえは良いが、ようするに雑用じゃあねえか! 雑用なんてだれでもできる仕事だろうがよ。おれだってできるぜ。わざわざ雑用【しか】できねえ屑を、パーティに置く意味ねえだろ」
……屑、か。まあ実際戦いにおいて、俺は全く役に立たない。
いざ戦いが始まると、俺は足手まといだ。
「それに! 伝田のおっさんのせいで、天音、てめえが死にそうになってたじゃあねえか!」
「そ、それは……」
……仕方ないのだ。俺は弱い。パーティの穴なのだ。
弱いやつから攻めるのは戦いのセオリー。
魔物と遭遇するたび、敵は俺を真っ先に狙ってくる。
その都度、俺は天音ちゃんに守って貰っているのだ。今回の四天王との戦いでも、相手は俺を狙い、天音ちゃんが俺をかばい、重傷を負った。
回復薬があったので、なんとか死なずにすんだ。けど……危なかった。
俺のせいで、彼女を殺してしまうところだったというのは、事実だ。
「聖武具はない。持っているのは、アイテムボックスと鑑定。それに、【異世界言語】だっけ?」
……召喚勇者には、聖武具のほかにも、アイテムボックスと鑑定スキルが天より与えられる。
俺も彼らと同様に、アイテムボックスと鑑定は持っており、そして、なぜか俺だけ、【異世界言語】っていうスキルが与えられていたのだ。
他の子らのステータスには、異世界言語スキルがなかった。
俺にだけ特別与えられた力だと、思ったのだが……。
「つーかよ! 別に異世界言語スキルなんていらねえだろ。こっちに召喚されて、言葉で困ったことなんて一度もねーし。なぁ、サン汰!」
「そうでやんす、こっちの世界も、ぼくらと同じ言語を使ってるってことでやんすよね」
……そう。俺たちを召喚した、このゲータ・ニィガ王国では、日本語がなぜか普通に話されていたのだ。
だから、別に異世界言語スキルがなくとも、普通にカスオたちは、現地人と会話できていた。
……ゲームやアニメで、異世界に転生するとき、天から異世界の言葉がわかるように調整される描写が多々見られた。
地球とは別の世界なのだ、言語が違うのは当然。
……だが、運が良いのか悪いのか、俺たちの来たこの世界では、日本語が普通に話されていたらしい。
だから、異世界言語スキルなんて、無用の長物なのだ。
「聖武具もない、持ってるスキルも役に立たない、それどころか味方の足を引っ張る。伝田のおっさん、てめえはうちのパーティには不要だ。とっとと出て行けよ」
……こうなるんじゃあないかって、ずっとそう思っていた。
若い子らが、勇者としてガンガン活躍する一方、なんの力も持たない、ただの荷物持ちの俺は、戦闘中なにもできていない。
足を引っ張ることしか、してない。
この半年ずっと、引っ張り続けてきた。守られ続けてきた。……俺は年上なのに、非常に……情けなく、ふがいなく思っていた。
「健吾さん。出て行く必要なんてないですよ!」
天音ちゃんが、俺をこのパーティに引き留めようとしてくれる。
なんて優しい子だろう。でも……。
「ありがとう。でも……天音ちゃん。やっぱり……俺、出て行くよ」
俺のせいで、この子が怪我するのは、耐えられない。俺が出て行けば、お荷物を守る必要がなくなる。彼女が怪我しなくて良くなる。
「……もっと早くに、この決断をしていれば良かった。ごめん」
「そんな! いやです、健吾さんが抜けるなんて……」
「いや、天音ちゃん。俺は抜けるべきだ。カスオが言っていたとおり。俺は……役立たずのおっさんだからさ。持ってるスキルも【異世界言語】……異世界の言葉がわかるスキルだけなんだし」
「で、でも……」
「俺が怪我して、死んでもしたら、後衛である君に責任がかぶせられてしまう。……それは、耐えられないよ。だから……抜けるね」
「…………」
俺がそう言うと、カスオが天音ちゃんに言う。
「天音よぉ。おまえもわかってんだろ? この先の戦いに、伝田のおっさんはついて来れない。命を落とす危険性もあるってよぉ……?」
魔王の住んでいるのは、ここから遙か遠くにいった先にある、魔界と呼ばれる場所。
まだ、旅も序盤も序盤だ。この先魔王の本拠地が近づくほどに、強い敵が増えてくるだろう。
今でさえ、俺のせいで天音ちゃんは余計な怪我を負っているのだ。
この先強い敵が出てきたら……最悪……俺たちは全滅してしまう。
「天音ちゃん、かばってくれてありがとう。でも……俺抜けるよ。俺一人のわがままで、君たちに迷惑はかけられない」
彼女はきゅっ、と唇をかみしめてうつむく。長い沈黙の後、絞り出すように、彼女は言う。
「わかり……ました……。健吾さん、今まで、お世話になりました」
彼女は、俺に深々と頭を下げてきた。
「ううん、天音ちゃん。俺の方こそ、お世話になりました。これから……俺でもできる仕事を探して見るよ」
潤んだ目で、天音ちゃんが俺を見上げてくる。一方で、カスオたちは別に泣いてる様子はない。
しょうが無い、俺はお荷物だったんだ。
同じ勇者として召喚されたよしみで、仕方なく俺を仲間に入れてくれていただけの、お荷物。それが居なくなるんだ。彼らからすれば、せいせいしてることだろう。
「じゃあな、カスオ、サン汰、天音ちゃん」
かくして、勇者召喚された29のおっさんは、パーティから追放されたのだった
☆
伝田 健吾。二十九歳。ブラック企業に勤めるサラリーマンだった。
半年前のある日、帰り道突然、謎の光に包まれる。
気がつくと異世界もののアニメでよく見る、王様の住むような豪華な城のなかにいた。
俺を呼び出した王様(妙に太っててハゲてた)から、俺たちが勇者として召喚されたことを告げられる。
この世界には、魔物も、魔族もいて、それらを率いる魔王が人間界を支配せんと攻めてきているらしい。
現地の人たちで立ち向かったが、魔王の軍勢は強くて、とても適わなかった。そこで、異世界から勇者を召喚することになった。
俺が、俺たち四人。
しかし勇者は通例、三人現れるものであり、四人目が召喚されたのは今回初だったらしい。
戸惑いつつも、別に称号とかがある(勇者的な)わけでもないので、俺も勇者としてカウントされた。
地球に帰るためには、魔王を倒し、彼の所有する特別な本を手に入れる必要があるんだそうだ。そこに、こっちから向こうへと、送り返す魔法が書かれてる……とのこと。
魔王はその本を決して手放さない。だから、手に入れるためには魔王を倒す必要がある。ようは、魔王を倒すまで、俺たち異世界人は、向こうの世界に帰れないってことだ。
高校生達は家に帰りたがっていた。彼らはまだ16。輝かしい未来が待ってるのだ。家に帰りたいって気持ちは理解できる。
一方、俺は特に現実に返りたいという願望はなかった。
半年無断欠勤したので、どうせ、俺は仕事はクビだろう。
両親、祖父母ともに他界してるので、俺がいなくなっても悲しむ人はいない。
むしろ、異世界で人生をやり直せる、チャンスだとさえ思っていた。……まあ、勇者パーティクビになっちゃったけどさ。
☆
さて。
俺がいるのは、ゲータ・ニィガ王国の国境付近の街。
国境であるここには、ゲータ・ニィガへやってくる旅人や商人たちが、たくさん集まってるようだ。
人間だけでなく、獣人やエルフなど、多種多様な種族がいた。
……そういや、見かけたことはあったけど、話しかけたことはなかったな。
勇者としての活動で忙しかったからな。
「これからどうするかなあ」
金はない。パーティで所有していたアイテムや武器、金は、全部彼らに返した。
……そういや、なぜみんなアイテムボックス持ちなのに、俺が荷物持ちをしていたのか。
その答えは単純。ボックスには、キャパ……つまり、入れられる量があらかじめ決まっていたからだ。
カスオたちは、回復薬や、スペアの剣など、戦いに必要となるものを優先的に、ボックスに入れていた。
食糧や、魔物の死骸などは、戦いに参加しない俺のボックスに入れていたというわけだ。
……まあ、もう全部返しちゃったんだけども。
「どーすっかな……ま、なんとかなるか」
俺は、戦いの才能はない。が、アイテムボックスと鑑定スキルがあるんだ。
これらを使って、価値のあるものを安くしいれ、高く売れば……。
いやまて、そもそも仕入れのための金はどうやって稼ぐ?
……詰んだ。
「こんなことになるなら、見栄を張らず、天音ちゃんからお金もらっとくんだった」
退職金として、天音ちゃんがいくらか渡そうとしてきたのだ。
でも、俺はかっこつけて、その金は受け取れになんて言ってしまったのである。
「バイトでもするかなぁ。どっかで募集してないかな?」
そもそも異世界でバイトなんて募集してるんかね?
キョロキョロ、周囲を注意深く見ながら、バイト募集の張り紙を探す。
……ん?
「あった」
二階建ての、ちょっと大きめの店。その壁に、【接客バイト募集】と書いてあった。
接客バイト?
看板には【武器屋・八宝斎】と書いてあった。
「はっぽうさい……? 料理屋じゃなくて、武器屋……?」
武器屋が接客のバイトを欲してるってことか……。
接客なら、いけるか。俺、大学のころ、飲み屋とか、コンビニでバイトしたことあるしな。
よし。
「すみませーん」
俺は武器屋の扉を開く。……壁やら、ショーケースやらに、たくさんの武器が飾ってあった。
どれもなんか、高そうな武器……や、そうでもなさそうなもの混じってる。
「あのー」
すると、奧からのそり、と小さな女の子が現れた。
『またか……』
日に焼けた、小柄な女の子だ。歳は10くらいだろうか。
赤銅色の長い、ぱさぱさした髪の毛を三つ編みにしてる。
ゴーグルをかけており、レンズの向こうには、不機嫌そうな顔があった。
『悪いが、帰ってくれ。武器は、ふさわしいものの手に渡るべきなのじゃ。雑魚には譲れんぞ』
「いや、バイト募集の張り紙見てきたんですけど」
くわ、と女の子が目を剥く。
『おまえ……山妖精語がしゃべれるのか?』
「どわーふ……語? なんだい、それ?」
女の子がブツブツとつぶやく。
『こやつ……人間。なのに、ドワーフの言葉をしゃべっておる……ううむ……』
「どうしたんだい?」
『いや、なんでもない。おぬし、わしの言葉がわかるようじゃな?』
「ああ。わかるよ。バイト募集の紙を見てきたんだ。店長さんいるかい?」
すると女の子がむすっとした顔で言う。
『店長はわしじゃ』
「え!? そ、それはどうも失礼しました……!」
まさかこんな、ちっこい女の子が店長だなんて……。
『まあ、わからんくもない。わしはドワーフじゃ。ドワーフの女は若く見られがちじゃからな』
「あ、そうなんですか……」
『うむ』
しかし、ドワーフ……か。
アニメやマンガだと、ずんぐりむっくりな、ひげもじゃおじさんなイメージがあった。でも、よくよく考えると、ドワーフって種族にも女子がいてもおかしくはない。
ひげもじゃのおじさんは、男ドワーフ。このちっこいのが、女ドワーフってことか。
「本当にすみませんでした」
『いい。貴様、人間のようじゃが、なぜ山妖精語がしゃべれるんじゃ……?』
「何故って言われても……」
俺にもわからないが……。
あ、もしかして……。
「俺の持つ、スキルが関係してるのかもしれないです。【異世界言語スキル】って言うんですけど……」
異世界の言葉は、日本語だったから、無用の長物なんだけどもね。
『!? 異世界言語……ま、まさか……!』
ドワーフ店主が慌てて、店の奥に引っ込む。
そして、その手に一本の刀を持って現れた。
刀を抜いて、刀身を俺に見せる。
刀身はボロボロのさびさびだった。
さびた刀の刀身には、文字が書かれていた。
【ほのお せいれい やど】
炎 精霊。
やど……?
最後の文字が、かすれていた。やど~と書いてある。
『何と書いてある?』
「炎 精霊、やど……って」
『!? ルーン文字すら読めるのか!?』
「ルーン……?」
俺の目には、日本語で書かれた文字にしか見えないが……。
『この刀は、我が祖父がつくりし炎の魔刀』
「へえ……おじいさんが作られたのですね、これ」
『ああ。かつては炎をまとっていたのだが、ルーンがかすれてしまい、炎がでなくなっての』
なるほど……。
『もしやおぬし、この最後の文字、刻めるのではないか?』
「文字を? どうだろう……」
炎、精霊、やど……ってことは……。
宿れとか、宿せとか、そういう文字にすれば、意味が通る……かな?
『これを使って、ちょっと文字を書いてみてくれ』
なんか、ピック? のようなものを渡してきた。
なんだこれ?
『それでこの刀をなぞってみろ。その通りに、文字が掘れる』
なるほど……。
俺は刀の表面に、【やどせ】と、続きを書いてみた。
その瞬間……。
ぼっ……! と魔刀の刀身が燃えだしたのである。
『やはり! おぬし、ルーンが読めるうえ、使いこなせるのだな! すごいぞ!』
ど、どういうこと……?
『おぬしの異世界言語スキル、それは、【異世界にある言語全てを理解できる】というスキルなのだろうよ』
炎の魔刀を鞘におさめ、ドワーフが言う。
「異世界にある言語……全て。え、言語に種類があるの?」
『あるに決まっておろうが。種族、時代、国によって、使われる言語は異なる。その中には、ルーンのような、力を持つ文字も存在する』
……まじか。
異世界系のアニメだと、みんな同じ言葉をしゃべっていた。だから、言葉に種類があるとは思わなかった。
が、考えてみれば、現実の世界でも、海の外にちょっと出れば、違う言語が使われてる。
それは、異世界でも同じなのだ。……って、あれ?
でも、じゃあなんで、異世界言語スキルのない、カスオたちは、この国の人たちと普通に会話できていたんだ……?
『おぬし、採用じゃ。今日から働くといい』
「え、いいんですか?」
『うむ。正直、おぬしのように、どんな言葉もわかるやつが来てくれて、すごくたすかるよ。わしはドワーフで、ドワーフ語しかしゃべれん。それで困っておったのだ』
「そうなんですね……」
『うむ。じゃから、これからよろしくな。ええと……名前はなんというのじゃ?』
「あ、ケンゴです。あなたは?」
『タチアナじゃ。よろしくな』
☆
こうして俺はドワーフ少女、タチアナのもとで接客バイトをすることになった。
このときの俺は、まだ知らなかった。
タチアナが、世界最高峰の鍛冶職人の孫娘であったこと。
ゲータ・ニィガ王国の共通語が、なぜか日本語で、この国の外では日本の言葉が一切使われていないこと。
そのせいで、元パーティメンバー達は、言葉が通じず、大変苦労することになるのだが……。
それはまた、別の話である。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
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