第7話 ユリアナ嬢の夏休み。
なんの代わり映えもしない別荘暮らしを早々に切り上げて、寮に戻る。
家族は一応揃ったが、みんなソワソワしていた。
一緒にいるべき人が、みんな違うから仕方ないのかしらね。身の置き所が無い。
家族…ねえ…。そんなものかしらね。まあ、子供でもないし。
自宅には少し立ち寄った。裏庭には相変わらずあの鶏がいたけど、流石に暑いのかしら?木陰で寝ていた。
使用人たちが可愛がって、いろいろ、野菜の切れ端とか、お料理の残ったものとかをあげているらしく、貰ってきたときより丸々していた。
・・・アウラが見たら、美味しそう、って言いそうね。
暑さは少ししのぎやすくなったけど、木陰と日向のコントラストはまだはっきりしている。木陰のまん丸い一つの白い塊を眺めて、くすりっと笑ってしまった。
*****
帰って来て、女子寮の2階の部屋から外を見ていたら、中庭に倒れている人がいる?寝てるの?
あらあらあら、アウラじゃないの?顔には読みかけの本が乗っかっている。その端から覗く太い三つ編み。
侍女と一緒に中庭に行ってみた。
「アウラ?」
「あ、ユリアナ様、お帰りなさい。」
肩を揺すってみると、ぱさりと本が落ちて、アウラの真っ赤な顔が見えた。
「ああ、って、あなた顔が真っ赤よ?熱があるんじゃないの?」
「暑いから、木陰で寝ていたんですけど、寝ている間に日影が動いちゃったらしくて。あははっ。」
え?鶏なみね??
侍女と3人がかりでアウラの部屋まで運んで寝かせて、ひたすら冷やす。
驚いたわ!誰にも見つけてもらえなかったらどうなったかしら??
呼んでいた医師が来た頃には、寝息が穏やかになっていた。
「暑気あたりですね。風通しを良くして、冷やして、水分を取らせてくださいね。」
「はい。」
医師に聞いた通りに、砂糖と塩とレモンを絞ったのを水に入れて、せっせと飲ませる。
*****
「そう言えば、ハルユラ犬を王都に連れてきた人がいて、犬が夏バテしてしまって、泣く泣く返した、という話を聞いたことがあります。」
なんとか起き上がれるようになった頃、アウラが思い出したように言う。
ハルユラ犬?ああ、あのしっぽくるんの犬ね?
あなた…犬なみなのね??
「そうね、身体が雪国仕様になっているのかしらね?」
「んですねえ…。いつかこの暑さに慣れるんでしょうか?」
「そりゃあ、ずっと住んでいたらね?あなた、国元には帰りたくないんでしょ?」
「・・・・・」
「そのうち私がすてきな殿方を紹介して差し上げますわ。うまく行ったら、田舎に帰らずに済みますでしょう?」
「・・・暑いのは無理かも、です。」
「まあ、いろいろな地域から皆様来ていますもの。領地は涼しいかもですわ。」
「んですか?」
アウラの部屋で本を読んだり、アウラとハルユラ犬の刺繍をしたりして、残りの夏休みを過ごした。少し涼しくなるころには、元気になってきたみたいだわ。
「なあ、ユリアナ様?冬休みになったらな、おらの家に遊びに来ませんか?」
「は?」
「おら、とんでもなく世話になったがらなあ。ものすげえ雪が多いとこだけど、歓迎すっからよ。雪まつりに招待するからな。な?」
な?って…。
「ハルユラ犬の犬ぞりで迎えが来んだ。ユリアナ様、犬、好きなんだべ?」
寝込んでいたら、ところどころなまりが戻ってしまいましたのね。
犬は…好きよ。
「おとなしい犬だから、もふもふできるし、遊べますよ?」
もふもふ。
「ま、まあ、行って差し上げてもよくってよ。」
12月の大舞踏会に親と出かけて…年末年始も家にいるよりはいいかなあ…。
なんだかんだと両親の客がやって来ては、私に見合い話を持ってくる。
欲しいのは《《私》》ではなくて、家同士の付き合いよね。毎度毎度めんどくさい。
雪国かあ、2メートルぐらい雪が降るってどんなのかしら?
まあ、アウラがどうしてもって言うならね。仕方がありませんわね。
行こうかしら?
まだまだ続く残暑の中で、2メートルの雪の壁を思うと、なんだか暑いのか何なのか分からなくなって、くすりっと笑う。
この子といると、退屈しないなあ。




