第5話 ユリアナ嬢の新入生歓迎会。
新入生歓迎会用に頼んでいた新しいドレスが届いた。
ピンクのフリフリ。可愛らしいわ。王都の一番の仕立て屋で仕立てさせた。
ネックレスと揃いのイヤリングも新調した。
髪をきっちり巻いて、今日も完璧ですわ。まあ、巻いてくれたのは侍女ですけど。
自称お友達の皆さんも、褒めてくださいます。
会場に着くと、男子生徒に囲まれる。まあ、いつものことですけどね。褒めそやされるのって悪い気はしない。たとえ口先だけでもね。
人をかき分けてふわりと歩いていると…なんなの?
あの地味な恰好は?アウラ?ドレスが無かったのかしら?そう言ってくれたら、貸してあげたのに。
「まあ、見たことのないデザインね?どこの?」
「ああ、ユリアナ様、新入生歓迎会があるって言ったら、母が作って贈ってくれました!」
「・・・ああ、そう?少し地味…ああ、シンプル過ぎるんじゃない?」
「んでしょうか?結構気に入ってます。私。」
アウラの今日のドレスは、ハイウエストの淡いグリーンのワンピース。切り替えに白いリボンが付いている。地味!まさか、お母様の手作りだったりして??
髪飾りはいつもの三つ編みに、緑色の葉っぱの飾り??を差し込んでいる?地味!!地味すぎでしょう???この子、いろいろとわかってる?ここの学院の事とか。貴族用の学院よ?
「あら、アウラちゃん、素敵!この夏の隣国のデザインじゃないの?早いわね。私も狙ってたんだあ!!生地もいいわねえ!」
え???公爵家のエリザベト様?何の話ですか?
「母が隣国で工房をしているお友達に頼んでくれたらしくて。軽くてきつくなくて着心地いいですよ?」
「まあ!ぜひ紹介して!夏用に作りたいわ!間に合うかしら?」
「後で工房の連絡先を渡しますね。一見さんお断りの所なので、うちの名前を出してくだされば大丈夫ですよ?」
「あら、よろしくね。アウラちゃん。髪型も今度真似してみていい?かわいいわあ!」
「もちろんです。エリザベト様なら宝石ですか?髪飾り。エリザベト様の金髪にブルーの小さい石を散りばめたら綺麗そうですよね?」
「いいわね!!」
なんなの?
隣国?新作?友達の工房?何者?
そ、そうね、知ってたけど?アウラが着るとイメージが違って見えるのよ!
ま…いいわ。
エリザベト様とアウラの会話を知らんぷりして、耳だけ向ける。
お友達や上級生の男子に囲まれる。
ちらちらアウラを見ていたら、エリザベト様とお茶をしている。楽しそうだ。
ま…いいわ。
*****
自称お友達の一人から、
「あの子が喜びそうなものを用意しましたよ?」
と言われたのは、その1週間ぐらい後。
綺麗な箱にリボンまでついている。なあに?
「うふふっ、田舎者にお似合いの、ミミズと毛虫の詰め合わせですわ。最近、少し思いあがっているのではありませんか?あの子。」
ミミズと毛虫?こんなにたくさん集めたの?暇なの?だいたい…どこにいるのよ?そんなに。
「そうですわ。ユリアナ様が放課後に言葉の矯正までお手伝いしているというのに。」
もう一人の子が言う。
放課後に捕まえて、国元のお話を聞いてたりするだけだけどね。暇だから。ついでに発音とかイントネーションとかは直してはいるけど。
「開けたら喜びますよ?」
そう言って笑っている。
そう?
よくわからないけど、アウラが喜ぶならいいかと、放課後渡してみた。
早速、箱を開けたら…
「ありがとうございます!!!!」
「ひっ」
箱いっぱい入ったミミズや毛虫や芋虫にかなり引いたけど…そんなに喜ぶものなのね?なにが???これの何がそんなに嬉しいの???
「いやあ、ユリアナ様、私がこの間、迷子の鶏を保護したのご存じだったんですね?」
「・・・・」
いや、知らないし。
「庭を管理している用務員さんのとこで飼っているんですけど、」
何ヤッテルノ?あなた?
「都会は虫もミミズも少なくて。鶏も喜びます!ありがとうございます!!!!」
「・・・そう?」
あらあら、自称お友達の皆さんは、ちゃんとアウラの今欲しいものをご存じだったのね?凄い情報通ね。私は存じ上げませんでしたわ、鶏。
そのまた後日に、綺麗なリボンを付けた鶏を連れてやってきたアウラから、
「あ、ユリアナ様!先日はミミズと毛虫ありがとうございました!この鶏、食べごろになったのでお礼に差し上げます。」
「・・・え?」
「あ、捌いてからのほうがいいですか?」
「さば…?」
「羽根を剝く場所があればなあ…どこかないですかね?血も飛びますから汚れてもいい場所。」
「は、ね?」
「美味しそうに育ちましたでしょう?」
「え…いいわ。捌かなくても。」
「え?ご自分で捌きますか?」
「え?いえ…ペットで、ペットで飼いますわ!!」
「そうですか??」
「そ、そうよ。可愛いわ…。」
もう大きい鶏は、首に結んだリボンを引っ張ると、赤いとさかをぶるんと振って私の後に付いてくる。
可愛い…くはないけど…。
捌く?捌くって?なくない?
実家から馬車を寄こしてもらって、鶏を連れ帰ってもらった。
後でこっそり見に行ったら、裏庭でミミズを探して楽しそうに暮らしていた。よかった。
*****
お休みの日に寮のラウンジでお茶を飲んでいましたら、あの子が普段着で外出許可を取っていました。
「あら、お出かけなの?」
「ああ、ユリアナ様、おはようございます。そうなんです、兄が学院時代に立ち上げた工房が郊外にありまして、そこに刺繍したハンカチを買い取ってもらおうかと思いまして。ユリアナ様も行きませんか?」
まあ、あなた一人で郊外まで出かけたら危なっかしいですわよね?
仕方ありませんね。
「いいわよ。」
二人で乗合馬車に乗り込んで、郊外まで。乗合馬車、初めて乗るわ。
その工房はオルゴールの修理をするところらしい。本当に王都のはずれの職人町みたいなところ。初めて来たわ。
ドアを開けて入ると…森の匂いがした。不思議。
「やあ、おじょう、きたが?」
「ん、ハンカチ持ってきた。」
「んだが。」
「???」
一生懸命聞き取ろうとしたけど…。
お国言葉はさっぱりわかりませんね。
職人さんとアウラが話している間、お店に飾ってある小物なんかを見て回る。
薄くした木を曲げて作ったランチボックスや小物入れ。こんなふうに曲げれるものなのね?
いろんな木目で模様を作ってある小箱?あら、オルゴールになっているのね?
これは?犬?この木は見た目より重いのね。ペーパーウェイトになるの?
これはポーチ?あら、この刺繍も同じ犬ね?
耳がぴんと立って、しっぽがくるんと巻いている。か…可愛い。