第23話 雪まつり 一日目。
雪まつりはここの長い長い冬の、唯一の楽しいイベントだ。
村人たちは、せっせと準備をする。
年末に帰ってきた人たちや、お隣りのリクハルドの領民たちが遊びに来たりするので、にぎやかになる。
地鶏の焼き鳥、地鶏の煮物の鍋は絶品。川魚の焼いた奴。揚げた奴。
お土産用の燻製の肉。パンと一緒に食べると美味しい。
山ぶどうの蔓の籠。木工品。外に出荷はしないが、木工品の食器もでる。
酒。リンゴ酒、ベリー酒。
ベリーのジャムで作ったタルト。リンゴのパイ。もちろん、ジャム。
綺麗に刺繍が入ったキルティングガウン。
ここで暮らしている人々には珍しくもないが、よそから来た人に売れる。で、秋口に注文が入ったりするわけだ。
リクハルドも来た。
お土産は、腰を痛めた父に湿布薬。母には頼まれていたらしいフライパン。
祖父母には暖かそうな靴下。
「ありがとうね、リク。ゆっくりしていって。部屋はいつもの部屋を用意してあるからね。」
「ありがとうございます。お世話になります。」
慣れたものである。
今日は当番でアウラとユーリと母が雪まつりの手伝いに行っている。
明日は俺と父親なんだけど、腰が心配だから、リクを連れて行こうと思っている。
もはや、客扱いじゃないな。
最終日はみんなで出掛けられそうだ。
「で、どうなの?あの伯爵家の御令嬢は?」
「ああ、ユーリ?なんか思っていたのと違った。なんか、普通。もっとわがままお嬢さまなのかと思ったんだけど。」
「ふーーーーん、愛称呼びなんだあ、へえええ。」
「え?だって、あいつはいきなり呼び捨てだよ?」
「へーーーーー。」
リクハルド、にやにやしてもいい男って、ちょっとずるくない?
イラに生姜入りの紅茶を出してもらって、並んで座る。
「そうなんですよ。リク様、なかなかいい感じです。ぐふっ。」
イラ?まだいたの?
「いつも二人で雪かきしてます。村の人たちも温かい目で見ておりまして。取んねえでくだせえな、リク様!この前、雪まつりの準備の時なんか、ユーリ様の手袋外して、手を温めてたんだと!このぼんくら坊ちゃんが!!!」
「取るって?僕が?僕はもう心に決めた人がいるから、大丈夫だよ?」
「え?」
「んですかあ。よがったな、坊ちゃん。」
「え?何の話?なんでユーリの手を温めてたとかイラが知ってんの?それで、なに、リク、婚約したの?」
「これからするの。うふふっ。」
「え???」
それでも、ユーリはリクハルド狙いなんだから、リクが婚約するってわかったら、帰っちゃうか…。
まあ、どっちにしろ、3週間の滞在予定だったしな。
雪まつりが終わったら、帰るのか。そう言えば。
そう、バカみたいに子供と一緒に雪合戦してたユーリの手袋が濡れて、広場の真ん中の焚火で乾かした。手も真っ赤になっちゃって、しもやけになるといけないから、こすって温めていただけ。雪かきしたからかな、マメだらけだった。お嬢様なのに…。
楽しそうだったから、途中から俺も参戦したけど。
まあ、春になったらマメも消えるだろうし、しもやけも治る。
ここのことも忘れちゃうかな。
そんなもんだ。
「へえ、去年の君の恋人よりまともじゃないか?」
「は?」
「いや、だって考えて見ろ。滞在予定ってことは、家の人たちはそれなりに準備して待ってたわけだろう?それを、挨拶もなしに帰るなんて、なんて考えなしの子なんだろうと思ってたんだ。」
「え?」
「それに、付き合っている男に家に呼ばれるっていうことなら、もっと相手のことを考えてしかるべきだろう?おとなしくて控えめ、とかお前は言っていたけどね、なかなか面の皮の厚い女だったと思うよ。ね?」
ね?って…。
俺の理想は、おとなしくて控えめな子、なの!
「ユリアナって子は、お前が考えていたより素直な子だったんだろう?噂は噂だ。大体、王都の子がみんな気が強いわけでもないし、化粧の濃い子がみんなわがままなわけじゃないよ?お前の偏見なんじゃない?だってアウラが友達だっていうんだから。」
アウラの事、信用しすぎじゃない?
まあ、そうね、あいつらが帰って来て、リクへの態度を見ればわかるさ。
なんか…いや、まあ、見たいわけじゃない気もするけどね。
ダイヤモンドダストを捕まえようとしてた。
.
犬に押し倒されて笑っていた。
子どもみたいに雪合戦にはしゃいでいた。
・・・まあ、俺には、関係ないけどね。
*****
その日の夕食は賑やかだった。
「私が焼いたんですの!」
と、ユーリが当番で焼いたという、地鶏の焼き鳥が食卓に出た。
「あら?さっき食べた時のほうが、美味しかった気がしますね?」
そう、雪まつりで食べるから美味いんだよ。
驚くことは、食後にみんなで温めたリンゴ酒やお茶を飲んでいるときにおこった。
「皆さん、僕とアウラは結婚することにしました。お許しいただけますか?」
俺は思わず、飲みかけのリンゴ酒を吹き出しそうになった。咳き込んでいる俺の背中をユーリが大笑いしながらさすってくれる。
「そう言うことで、学院を卒業したら、リクと結婚します。」
アウラ?え?どういう訳で??
「あら、まあ、おめでとう!」
「近くでよかったね、アウラ。」
え?
「え、ま、だってお前、雪国生活が嫌になって出て行ったんじゃないの??」
「お兄様、だってリクの所はこんなには降らないわ。それに、夏涼しいし。」
「・・・・・」
俺の隣に座ったユーリが、くすくす笑っている。
「シスコン?」
「ばっ、」
「アウラの理想のタイプはね、領地が夏涼しくて、自分を大事にしてくれるのと同じくらいに自分の家族を大事にしてくれる人、なんですって。意外と近くに居たのね?」
「あ?」
「背が高い、とか、顔がいいとか、身分が高い、とかじゃないところが、あの子らしいじゃない?うふふっ。」
まあ…それはそうかもしれないけど。
「お、お前は良いのか、それで?」
「私?アウラがお嫁に行っちゃうのは寂しいけど、ずっとお友達ね、って言ってくれたから。私の初めてのお友達よ。」
は?だって、お前、いつも取り巻き見たいな女の子がいたんだろう?
リクとアウラはおじいさまとおばあさまとにこやかに話している。
父も上機嫌だ。遠くに行かなかったのがよほどうれしかったんだろう。
母は…もうウエディングドレスの心配をしているみたいだ。再来年ですから!!
ユーリは…二人のことを嬉しそうに眺めている。
「ぐふふっ。次はお坊ちゃまですね!」
イラ…まだいたの?




