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第2話 新生活。

そんなこんなで、春になるとさっさと妹は王都に出て行った。


暦の上では春だが、うちのハルユラ領は3月はまだまだ雪が降る。

厳しい寒さの頃の雪と違って、暖かく湿った雪。森の木々がバッキリ折れるのはこの時期の雪。


春先から、領民が冬の間に作った、木を薄く切ったものを組んだ小物入れやランチボックスや、木目込み細工を使ったオルゴール、硬いりんごで作る度数の高いシードルや家の領ハルユラ独特の刺繍の入った小物などを隣の領地経由で王都に出荷する。

その第一便にアウラは乗って行った。


カバンは2つ。夢と希望が詰まってるのよ!と笑っていた。


笑っていられるのはいつまでかなあ。

学院は身分に関係なく学べる場、という前提だが実際は歴然とした身分差がある。

うちみたいな地方の弱小子爵家なんかは、相手にされない。成績が良くても悪くても標的にされるし、目立たず、じっと暮らすのが望ましいようだ。

俺は、たまたま隣のヤルヴァ侯爵家の息子、リクハルドが同級生にいたから助かったけど。


アウラは…妹は負けず嫌いだから何とかなるか?叩かれるか?


まあ、頑張ってみるしかないね。




【皆様へ


お元気でお過ごしですか?

入学式も無事に終わり、授業が始まりました。

何もかも新鮮です。人もたくさんいます。

皆さん、とてもお綺麗でびっくりしました。都会の人はやはり何かが違いますね!


私はおばあさまに標準語を習って、それなりに上手に話せると思っておりましたが、イントネーションが微妙になまっているらしく、まあそれも可愛らしいわ。と、ユリアナ様という新しいお友達に褒められました。田舎の匂いがする、とおっしゃっておりました。森の匂いですかね?


都会の方たちはお昼もトイレもお友達と連れ添っておいでになるらしく…混みますよ?と、心配になります。


5月には新入生の歓迎会があるそうです。

またお手紙書きますね。


                   アウラより。     】





どうも王都育ちのお嬢さまに目を付けられたらしく、田舎者丸出しね、ぐらいのことを遠回しにねちねちと言われているらしいな。本人はいたって気にしていないようだが。それどころか、なんて親切な人かしら、と思っているみたいだ。


アウラ…大丈夫だろうか?


4月。雪が解け始めた。雪で破損された橋や水車小屋の修復。雪解け水が冷たい。

一人暮らしのお年寄りの家の屋根の修復。

りんごの木は無事だった。追加の剪定が必要かどうか確認。麦は例年通り。

キャベツなんかの種まき。遅霜に気を付けなくちゃな。




*****



【皆様へ


新入生歓迎会は私服でしたので、お母様が隣国で仕立てて下さったワンピースで出席しました。淡いグリーンのハイウエストの素敵なドレスです。

ユリアナ様が、たいそう褒めてくださいました。褒め上手な方ですね。嬉しくなってしまいます。見たこともないデザインだと驚かれておりました。皆様も誉めてくださいました。是非にと言われて、エリザベト様には工房を紹介させていただきました。


そうそう、その後、ユリアナ様にプレゼントも頂きました!

綺麗な箱に、ミミズと毛虫がたくさん入っておりました!

少し前に迷子の鶏を学院の中庭で保護し、用務員さんと籠で飼っていたのですが、こんなご馳走を頂いて!とてもうれしそうに食べていました。


ユリアナ様は保護した鶏のことをご存じでしたのね!


お礼に、食べごろになったその鶏を差し上げようかと連れて行きましたところ、捌かずにペットとして飼って下さるそうです。目が潤んでおられました。なんてお優しい!王都にも優しい人がいますよ?


       アウラより。   】





新入生歓迎会では、みんなここぞとばかりに着飾ってきた所に、アウラがシンプルでいて、どう見ても質の良い隣国製のワンピースを着て行ったので、これは本当に評判が良かったらしい。なにせ、隣国はファッションの最先端。

気が付いた御令嬢がべた褒めしたらしい。で、けなしたつもりだったユリアナ嬢は立場が無かった。そんな感じ?


ふふっ。


で、頭に来たんだろう。ミミズと毛虫の詰め合わせをアウラに贈ったら、これまた喜ばれてしまった。拾った鶏のエサになるからね。で、鶏をさばいて差し上げますよ?とユリアナ嬢に言ったら、涙目で連れて帰ったらしい。


なんと言うか…いじめられて…ない??


5月。畑が乾き次第、耕す。ジャガイモの種イモの確認。希望があった通りに配分。

馬が駆けまわれるように、牧草地の柵の点検は終了。放牧。

犬たちも楽しそうだ。野菜苗の定植。花が咲きだす。




*****


【皆様へ


お兄様が在学中に開設した、オルゴールの修理工房にユリアナ様を誘って行ってきました。

街中を歩くのも楽しいですね。


工房は地元の職人が代わる代わる詰めているので、お国言葉がくすぐったいほど嬉しかったです。ユリアナ様は言葉がよく通じないらしく、眉間に皺が寄っておりました。うふふっ。


ここでは領で出しているオルゴールの修理はもちろん、他の地区で作られたオルゴールの修理も請け負っているんですね?新しい曲や新しいデザインが見れて勉強になる、と職人さんも楽しそうでしたよ。


うちの新作のオルゴールや、地元の木目込み細工の木工品、小物入れとか、リンゴのお酒とか、ハルユラ犬の刺繍の入った小物なども並んでいます。新作のハルユラ犬のペーパーウェイトもありました。


そうそう、修理の終わったオルゴールは綺麗に磨いて刺しゅう入りの大判のハンカチに包んで渡すので、さりげない宣伝になっていますね。お兄様、流石です。


暇がある時に作った刺繍入りのハンカチを買い取ってもらいました。

お小遣いゲットです!


久し振りに聞いたお国言葉の中にいると、今頃の領は新緑が綺麗だろうなあ、と、思いました。王都も公園や並木に木々はありますが…高い建物が多くて、空が狭い気がします。不思議ですね。


ユリアナ様はなんだかんだ言って、ハルユラ犬が気に入ったらしく、ペーパーウェイトと犬の刺繍入りのポーチをお買い求めでした。

ハルユラ犬はかわいいですからね。ぴんと立った耳とくるんと巻いたしっぽ。もふもふだし。そんなに気に入ってくれたなら、いつかユリアナ様に本物を見せてあげたいですね。


そうそう、6月から選択授業が始まったので、剣術を取りました。

なんか、運動不足だったので。


それでは、また書きますね。


           アウラより。     】






んんんん…ホームシック?だんだん帰りたくなってきた?ね?アウラ。


オルゴール修理工房は…店に入ると、山の匂いがする。うまく言えないけど。


それにしても、剣術を選択したんだ…ま、心配ないか。

いや、でも、絶対に男子生徒のほうが多いよね?大丈夫だろうか?



6月。麦の生育は順調。ジャガイモ作付け終了。

羊の毛刈りに駆り出される。リンゴの摘果。

森は花盛り。













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