第19話 年の瀬。
やって来てからのユーリは、毎朝みんなと一緒に玄関先の雪かきをしたり、薪小屋から薪を運んだり、犬小屋で犬のブラシを手伝ったり、なんか、考えてたのと違った。
イラと一緒に、ベリーのタルトを作ったりもしてた。
一番想定外だったのは、侍女がいないから立巻ロールを諦めて、普通に三つ編みにしていること。アウラの真似かな?化粧もやめたらしい。日焼け止めは塗るように、母がきつく言っているみたいだ。
・・・なんか、普通。
初めて見た時より、随分と幼く見える。というか、年相応に見える。まなざしは相変わらず気が強そうには見えるけど。
うちは、働かざる者食うべからず、みたいな家訓があるから、働くのはいいけど、一応お客様だし…。どうなの?
でもまあ、本人が楽しそうだからいいか。
あとは、アウラと一緒にあちこち探索に行っているらしい。時々二人共、雪まみれになって帰ってくる。なにやってんだか。
そうそう、ブーツはおばあさまのブーツを借りている。中が毛皮だから暖かいし。
それと…髪を洗った後、暖炉の前で乾かすんだけど、おばあさまがユーリの髪を乾かしたがった。時々、くすくす笑いが聞こえてくるから、なんか楽しい話でもしているんだろう。
意外。こいつがなじんでいるのが、凄く意外。
あの派手なご令嬢がなあ。
でも、油断はしていない。こいつの狙いはリクハルドだと読んでいる。
雪まつりに来るのを知っていたし。アウラが言ったんだろうけど。
*****
みんなで屋敷中を大掃除する。
玄関に大きな毛皮を敷き詰める。
「それは?何をしているんですの?」
エプロン姿のユーリが、雑巾で窓ガラスを拭きながら聞いてきた。雑巾の絞り方をさっきイラに指導されていた。
アウラは薪を運びに行っているらしい。
「もうすぐ年の瀬だろう?精霊が来るんだよ。あいつら、遠慮なく入ってくるから、雪だらけになるんだ。だから敷いておく。」
「え?精霊が??」
「ああ。」
「え?本気でおっしゃっています?」
「ああ。来るんだよ。年末の夜に。お前も気を付けろ。」
「え?」
「悪い子はな、連れていかれてしまうんだ。むふふ。」
「え?」
からかったつもりだったのに、泣きそうな顔をされてしまって動揺する。ん…。
本番は泣くかな、こいつ。
悪い子じゃなきゃ、大丈夫なんだけどね。
*****
大晦日の日も、普通に、何事もないかのように夕食。
いつもはそれぞれ部屋に下がったり、お風呂に入ったりするけど、今日はなんだかんだとお酒とか飲みながらみんなダイニングにいる。ここにいる人数分より多いグラスと、いろいろなお酒がテーブルに乗る。
玄関前には松明が赤々と灯されている。
バッターン、と、大きな音でドアを開けて、精霊に扮したこもを被った村の男たちが、
「悪い子はいねえがあ」
と言いながら家に乱入してくる。
来たね。
片手には皮剝用のナイフ。
悪魔の面。
頭からすっぽりかぶったこも。
子どもの頃は泣かされたね。アウラも俺も大泣きだった。
遠慮なしにブーツのまま入ってくるから、玄関先は雪だらけだ。
「アウラちゃん、なんだって、べっぴんさんになってえ!」
そう言われながらアウラが高い高いされている。もう16歳だけどね。
当のアウラは大喜びだ。
わらわらと入ってきた男たちは、暖炉にあたりながら、がばがばと酒を飲む。外は冷え込んでるからね、飲まなきゃやってられないよね。
おじいさまと父親が男衆と一緒になってがばがば酒を飲んでいる。
俺も混ざろうとして…しがみついているユーリを振り返る。
「な、大丈夫だから。飲むか?お前も。」
ふるふると頭を振って、俺の後ろに隠れている。がっちりと上着の背中を掴まれている。怖いか?ん、初めて見ると怖いのかな?ナイフなんか本物だしな。
普通に王都に暮らしてて、こんな人たちがいきなり入って来たら、強盗だと思われるよな?ふふっ。
視線を感じて精霊たちを見ると、みんなで俺のことを見ている。なに?




