第17話 ようこそ。
荷物の積み込みで時間を取られたから、出発が少し遅れてしまった。
家の明かりが見えて来て、ようやくほっとする。
帰るって言わなかったな。こいつ。
まあ、いいか。
俺にとっては通りなれた道だが、こいつはなんだか楽しかったらしいし。
ただ…あんまりくっいてくるから、化粧の匂いがな…そんなにしなかった。ん。
家の前でそりを止めると、家じゅうの人が出て来て荷物を運び入れてくれた。
こいつに羽織らせた毛皮を取って、雪を払う。帽子の雪も払った。
そりから降りようとしたので、少し止める。
「え?到着でしょう?」
「ちょっと待て。足を出せ。」
「足??」
いい仕上げのロングブーツだ。
でもな、ほら、やっぱりソールがな…つるつる。
「都会のブーツでは滑るんだよ。」
一応説明して、ポケットから持ってきた縄を取り出して、ブーツに巻き付ける。
「ほら、もう片方出せ。」
意外なほど素直に足を出した。
「あ、ありがとう。」
まあ、いいか。手を取ってそりの椅子からゆっくりと立たせる。
そのまま、危ないので…信じられないことだが、都会の人は雪道を歩けない場合が多い。重心の掛け方なんだろうか?すぐ転ぶ。
手を取ったまま、玄関への階段に向かう。縄を巻いたから、そうそう滑ったりはしないはず。
玄関は三重になっているので、最初の所で雪を十分に払い、次の間でコートを脱いで、靴も脱ぐ。部屋履きに履き替えて、その次でようやく広間に入る。
コートを脱いで掛けていると、まじまじと俺を見てくる。
あ…なに?コートを自分で脱げないのか?こいつ…。
「コートは脱いでここにかけろ。侍女はいないんだから、自分で出来るか?」
「もちろんです。」
そう言って、さっさと自分のコートを掛けている。
「靴もここで脱げ。出来るか?」
編み上げブーツの紐にてこずっているようだ。手が、凍えているんだろう。中の暖気が流れ込んでほんのり暖かいが。
用意してある長椅子に座らせる。
仕方ないから膝をついて、手伝ってやる。こいつがスカートじゃなくてよかった。
ここにしばらくいるんだと…もっと簡単に脱げるブーツを手配するか?おばあさまのブーツを借りるか?
ブーツを脱がせて、ついでにお客様用の部屋履きを履かせる。
な、何見てんだよ?あ?
帽子とマフラーも取る。
いつか見た縦ロールがこぼれ落ちる。
「お迎え、ありがとうございました。お兄様?」
「ああ、アハトだ。」
「アハト様?」
「様は要らない。」
「アハト?」
いきなり呼び捨てかよ???
「ユリアナと申します。では、私のことは、ユーリとお呼びください。」
「ん。ようこそわが家へ、ユーリ。」
広間の大きな暖炉が良く燃えている。あったけえ。
アウラが走って迎えに来る。まだ部屋着だな。元気そうで何より。
*****
着換えて下に降りていくと、アウラと暖炉の前のソファーでお茶をしていたらしい。長旅だったからな。
ホントに…よく来たな?こんなお嬢さまが…こんなとこまで。しかも冬に。
妹達と並んでお茶、もなんなので、夕食の用意が進んでいるダイニングテーブルの端っこでお茶を出してもらう。リンゴ酒が入っている。
「・・・坊ちゃま、」
「ん?」
「むふふ、可愛らしい娘さんだな?」
「そう?」
「ハルユラに冬に遊びに来てえなんて、こんな子逃したら、後がねえぞ?けっぱれ。」
「何の話だ?」
お茶を出してくれた、女中兼コック長のイラがこそこそ耳元で囁く。顔が盛大ににやけている。
「妹の友達だから!俺は関係なくない?」




