第14話 アハトの舞踏会。
子爵家の入場は随分後になる。
リクの馬車で一緒に来たから、王城の待合室でしばらく待つことになる。
リクの家、ヤルヴァ侯爵家は何気に王室と関係があるので、侯爵家の中では最初に呼ばれるから。
俺は初めてではないが、舞踏会はさすがに緊張する。
アウラは初めてなのに余裕?きょろきょろ周りを見回したり、調度品に感心したり、他の人のドレスを眺めていたり…。
「凄いですわね、お兄様!」
そうね。
ダンスが始まって、さあ踊るか、というときになって、リクがアウラを連れて踊りに行ってしまった。あいつ…学院のダンスパーティーでも舞踏会でも、誰とも踊ったことないのに。なに?
あれ?その周りでうろうろしているのは、ニーロ?変わんないなあ。前髪。
「リクハルド様よ!きゃああ!」
「え?踊られるの?」
「誰?あの娘?見たことない子ね?」
「次は私が…。」
相変わらずモテますな。
あれは俺の妹なのでご心配なく。リクも妹のデビュー、くらいの感じだと思うよ。
手持ちぶたさなので、壁際に下がる。
何か飲もうかな、と思っていると、派手な赤いドレスの女がぶつかってきた。
「あ、すみません。」
「え、こちらこそすみません。大丈夫ですか?」
その娘は俺の顔をまじまじと見ている。何??
なんかついてる?
「え?どうされましたか?」
「あ、いえ、探している知り合いにそっくりだったものですから…。」
化粧も濃い。宝石もでかい。金ぴか縦ロール。気の強そうな少し釣りあがった目。
俺が一番苦手なタイプだな。
まさか、こんな女が俺を逆ナンパなんてことは絶対にない。ないな。
「世の中には自分にそっくりな人が3人いるそうですよ?」
いや、そうね。
ここで出会ったのも何かのご縁ですね、とか、気の利いたことが言えてれば、俺だってダンスの相手ぐらいいたはず。でも、こんな厚化粧の気の強そうな女…絶対無理。
そう、俺の理想は、控えめでおとなしい女性…去年は逃げられたけどね。とほほ。
その子が人を探しに行ってから、給仕さんに飲み物を貰って飲んでいた。
「見ました?ユリアナさん、また男を物色してますわよ?誰をお探しかしら?」
「お父様と踊ったりして、随分ともったいぶってますわよねえ。」
「しかも、あのルビー!大きいわねえ。これ見よがし?ドレスも真っ赤で、品のないこと。」
「ねーー。目立ちますわよねえ。さすが、抜け目が無いですよね。あの人が婚約者を決めないから、いい話が来ませんよね。私たち。」
「そうよね。男たちはみんなあの子を狙ってるからね。勘弁してほしいわ。」
ん?あれがユリアナ嬢?アウラの友達の?あのぶつかった子?
あ…アウラの看病をしてくれたお礼をするべきだったな…。あの子?
しかし、よくしゃべるな。
身なりからすると、いいとこ子爵家か男爵家の御令嬢、といったところか。
お前たちにいい縁談が来ないのは、こんなところで他人の陰口ばっかり言ってるからじゃない?お前たち、性格悪そうだもん。赤いドレスは派手で目立ったけど、下品ではなかったよ。
「それより、ご覧になりました?リクハルド様、今年は踊られてますね?」
「ねえ、ダンスに誘って頂けないかしら?次とか。」
「あの、見たことない女の子と、2曲目に入ったみたいですのよ?婚約者かしら?」
「えーーーーー狙ってたのにい!」
「え?あんたが?」
「なによ?」
うーーーーーん、次は仲間割れか。大変だね。
あの二人は婚約者じゃないけどね。
リクと踊るアウラは楽しそうだ。
ダンスはおばあさまと母上からみっちり仕込まれているから、なんの心配もない。
ドレスの裾がふわりと揺れている。
いいデビューになって良かったね。アウラ。




