愛9
お母さん。
お父さん。
ありがとう。
愛
私はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
相変わらずの先生の家。
でも、この日は変わったことが起きた。
ブー…ブー…
いきなり携帯のバイブが鳴った。
私は躊躇することなく携帯を開いた。
「お母さんだ!!!!」
そこには何ヶ月ぶりかわからないほど懐かしい文字だった。
急いで通話ボタンを押した。
「もしもし??!!」
私は元気に電話に出た。
すごい久しぶりの電話。
最近は特に忙しかったらしく全然メールもしていなかった。
「あら、元気みたいね。」
懐かしい声に今にも泣き出しそうになった。
すごく大好きなお母さん。
いつも傍にいなかったけど、必ず胸の奥にはいてくれた。
「うん!!!仕事順調なんだね。」
顔がどうしても緩む。
あたたかい。
そう思えた。
「ええ、忙しいくらいね。でも、嬉しいわ。お父さんもいるしね。仕事に間ができたから明後日、家に戻るからね。」
お母さんの一言に呆然とした。
え?
「え?待って?明後日?」
私は頭の上にはてなを並べた。
「ええ。明後日よ。ちゃんと片付けてね。それじゃあねー。」
お母さんは強引に通話を切った。
なんて母親なんだろうか。
いつも突然だから困る。
家はきっと泥棒が入ったままかもしれない。
それに戻るの怖いな。
お母さんにどう説明しよう。
それに先生には?
どうしよう。
私は色々と考えていた。
ガチャッ
「ただいま。」
先生が帰ってきたらしい。
どう説明しよう。
やっぱりあの家に戻るか。
あ、でもそういえば、先生があの家の鍵預かってるんだっけ?
どうしよう。
「ん?どうしたんだ?」
先生が私の頭に手を置きながらそう尋ねてきた。
優しくてあたたかい先生の手。
大好き。
すごく頼りがいのある先生にはやっぱり話せちゃうもので。
「先生。明後日にお母さん達が帰ってくるの。でね?一回あの家に帰ろうと思って。」
私はうつむきながらそう言った。
本当は帰りたくないんだよね。
怖いし。
でも、お母さん達が久しぶりに帰ってくるし。
「本当は家に帰りたくないんだろう?」
先生の言葉に小さく頷いた。
「でもね。お母さん達が久しぶりに帰ってくるから…」
私、今どんな顔してるだろう。
先生。
わがままでごめんね?
「川風。俺と結婚する気はないか?」
あまりにも突然の言葉に唖然とした。
目が点になっていたかもしれない。
「やっぱり考えたことないよな。」
寂しく笑った先生に私は思いっきり首を横に振った。
ねぇ、先生?
今の言葉もう一回言って?
「私でいいの?だって、頼りがい無いし、年齢違うし。」
私ね。
本当はすごく不安だったの。
年齢って大きな壁があって。
いつしか乗り越えられない壁になりそうで。
でも、今の言葉で壁が全部消えていった。
「お前がいい。つうかお前しかいないんだよ。」
私の体ごと大きく包み込んでくれる先生。
愛ということを教えてくれた。
「じゃあ、明後日はここに呼べ。俺から話をしてやる。」
当日…
「何でもっと早く言わなかったのよ!!美有香。心配もしてやれないなんて親として失格じゃない。」
先生に家の説明されてやはり落ち込む親達。
だから本当は言いたくなかった。
「お母さん達が大事にしてた家だから。」
私は小声でそう言った。
「家よりあなたが大事よ!!!」
お母さんは怒っていて泣きそうなよくわかんない顔で私を怒っていた。
本当に愛されてると感じられるのはやっぱり先生がいるからもあるのかもしれない。
「すみません。うちの娘が居候してしまって。」
お母さんは頭を深く下げた。
そして、何故かお父さんは無言で頭をさげない。
私はその変な様子のお父さんを見つめた。
「全然。いつもおいしいご飯を作ってくださるのでとても感謝しています。それはいいのですが。あのお母様とお父様にお伝えたしたいことがあるのですが。」
先生が真っ直ぐにお母さん達を見つめて話そうとしたときだった。
「娘はやらんぞ。今の教師は生徒に手を出すのか。」
一言もしゃべらなかったお父さんが口を開いた。
お父さんは見たこともない顔で先生に言葉を突きつけた。
「すみません。でも、必ず幸せにしますから。」
先生が深く頭を下げた。
私はじっとしていられなくて。
「お父さん!!!」
私はお父さんに必死で呼びかけた。
わかって欲しい。
お父さんとお母さんみたいな夫婦になりたいの。
でも、それは先生じゃないといけないんだよ。
「お前達が夫婦にでもなってみろ。世間に白い目で見られるんだぞ?!そこのどこが幸せだと言うんだ。好きな人がいるから大丈夫なんて甘い考えは通じないんだぞ!!!!」
お父さんの言葉が胸に突き刺さったことがすぐにわかった。
わかるんだ。
お父さんが心配なのは。
でも、誰にも譲れないんだ。
先生へのこの気持ちは。
いつまでも冷めることなんてない想い。
「私は」
私が話そうとしたときだった。
「あなた、認めてあげましょうよ。この子が決めたことでもあるのよ。いいじゃない。ちゃんと支えてくれる人が傍にいて。この子の体も心配でしょ?」
体?
私は驚いた。
「お母さん達。私が体弱いの知ってたの?」
私は目を見開いた。
完璧に隠してきたつもりだった。
先生にだって気づかれないようにしてたのに。
「先生からいっぱい話を聞いたわよ。時々ふらふらしているときがあるとか。元気がないときが多々あるとか。あなたが一生懸命私達を心配させないように隠してたの全部知ってたのよ。」
頬に涙が伝った。
瞼が熱くなった。
鼻の奥がツーンとした。
「ごめんね。辛かったよね。」
お母さんが優しく抱きしめてくれた。
温かくて、懐かしい香りがした。
私はお母さんを抱きしめ返した。
「お母さん。ありがとう。」
私は鼻声でそうつぶやいた。
お母さんはその言葉に一回頷いた。
そして、お父さんを睨んだ。
「認めるわよね。」
お母さんは鋭く言った。
お父さんはため息をつきながら。
「勝手にしろ。」
お父さんはふてくされて口をとがらせている。
でも、どこか優しい口調で。
本当に嬉しかった。
「娘をよろしくお願いします。」
お母さんが先生に深く頭を下げた。
親に認めてもらえる婚約はとても嬉しい。
誰よりも隣で支えたい。
笑ったり泣いたりしたい。
その想いは伝わるみたい。
ねぇ、先生。
きっと先生が隣にいるならすごい幸せだろうね。
もっと。
もっとあなたを知りたいよ。