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  作者: 春月桜
2/10

愛2


 決して許されない。


 大きくて重い罪。


 もし、あなただったらどうする?






 本当の気持ち


「ただいまー。」


 いつでも暗い家の中。

 冷たいフローリング。

 電気をつけても、温かいとは思えない。

 それは、私の心が冷たいから?

 それとも、この家の広さ?

 すべてが蒼く見える。

 学校じゃ、友達もいる。

 何よりも一人じゃない。

 家の中での一人なんてなれてるのに。

 いざ、一人になると、やはり寂しい。

 大きいソファの上で膝ごと体をまるめる。

 全然温かくない。

 私は惨めになりながらゆっくりとテレビをつけた。


 翌日…


 朝礼であの男は紹介された。

 名前は東正とうせい 聡介そうすけ

 整った顔はみんなに人気だ。

 明るく気さくな性格らしい。

 でも、たまにクールになるときが癖になると評判だ。

 私も結構いい先生だなと思っていた。

 人気になることなんて想像していた。

 でも、少し残念に思っている。

 何で?

 私は自分の胸が苦しいのがつらかった。





川風かわかぜ 美有香みゆか。この子って!!!」


 俺は驚いた。

 なぜかって?

 そんなこと決まっている。

 体育以外オールA。

 体育はB。


「ああ、川風はすごいですよね。頭はいいいいですし、運動もできないわけではないんですが…。ただ…体が弱いんですよね。」


 俺の十歳くらい上をいっているおじいさん先生が苦笑いをしながらボソッとつぶやいた。

 そういえばあのときも顔色があんまりよくなかったかも。

 俺はあのときのことを思い出した。

 白い肌。

 緩くカールしている黒髪。

 綺麗な黒と茶色が混ざった濃い瞳。

 細い手足。

 本当に人形のようだった。

 あんなに綺麗な子は初めて見た。

 「ひねくれものだからね。」あの子の言葉が少しだけひっかかった。

 全然ひねくれてるもののような顔をしていない。

 むしろ、誰よりも人のことを考えてるように思う。

 この子はどんな子なんだろう。

 俺は写真を見ながら考えていた。




 夜の1時を過ぎた頃。

 いきなりだった。


 ガチャガチャッ


 黒い生地に黄色の星がいっぱいちりばめられているカーテン越しにその音がはっきり響いた。

 私はつばを飲み込んだ。

 体中が震えた。

 でも、その音は聞こえなくなった。

 私は「風だ」と自分に言い聞かせた。

 だって、そうしないと怖いから。


 このときに気づいていればよかったんだ。

 鍵が開けられていたことを。


 翌日…


 私はいつものように学校に出かけた。

 いつものように授業を受けて。

 いつものように友達としゃべって。

 なんにも変わったことはなかったのに…


 ガチャッ


 私は目を見開いた。

 リビングがグシャグシャになっていた。

 吐き気がした。

 息が止まった。

 体中が震えだした。

 考えもしなかった。

 家があらされるってこんなに恐怖感がわいてくるんだ。

 私は外に出た。

 あんな家にいたら落ち着けない。

 私はずっとふらふらした。

 携帯を見たら、もう七時を回っていた。

 夏だから、まだ周りは明るい。

 まだ大丈夫。

 また少しふらふらしている途中だった。

 携帯を見つめた。

 九時になっていた。

 さすがに周りは暗くなっている。

 どうしよう。

 私はまだふらふらしていた。

 あの部屋が頭から離れない。

 寒気がした。

 夏のはずなのに。


 そんなときだった。


 私の靴の音ともう一つの足音がした。


 ドクンッ


 胸が大きく脈を打った。

 血の気が一気に引いていったのがわかった。

 私は早歩きをした。

 でも、その音は一緒の速度で歩いている。

 怖い。

 その言葉が頭の全部を包み込んだ。


 そのときだった。


 ガシッ


 いきなり腕を掴まれた。

 体が大きく反応した。


「何で、こんな時間に一人でいるんだ?」


 息を切らしながら聞き覚えのある声が私の耳にしみこんだ。

 私は掴まれた腕のほうに振り向いた。

 その瞬間腰が抜けた。


「あ、おい。」


 地面に座り込んだ私の顔を覗きこむ東正先生。

 私はホッとした。

 涙が出てきた。


「どうした?何かあったのか?」


 先生は心配してくれている。

 私は先生のスーツの袖を握った。

 安心。

 その言葉が私の体中に巡り回った。


「来い。」


 先生は私の腕を掴んでいきなり先生の私物らしき車に連れ込まれた。


「東正先生???!!!」


 私は焦りながら先生を呼んだ。

 でも、先生は何も言わずに車を発進した。

 驚いたけど。

 でも、すごく落ち着いた。

 この人が近くにいると。

 目に映る世界が変わる。

 そんなふうに外を眺めているうちにいつの間にか、どこかのマンションに着いた。

 私は首を傾げた。

 その光景を見てか。


「ここは俺の家。安心しろ襲ったりしないから。」


 その先生の顔はどことなく真剣だった。

 数日見た先生の顔つきと全然違った。

 陽気に笑ってることが多いのに。

 月の光に照らされた先生の髪の毛は艶を放った。

 綺麗。

 私は見とれていた。

 そんな私に先生は気づかないまま歩きだした。

 私は先生の広い背中を見つめながら、ついていった。


「入れ。」


 先生は笑みも浮かべずにそう一言発した。

 部屋は片付いていて、あまり物がなかった。


 茶色い暖かな光が私を包んだ。


 温かい。


 そう感じたときには自然と頬を涙が伝った。


「何があったか言ってみろ?ちゃんと聞いてやるから。」


 先生は私のことを大きい体で包んだ。

 温かい。

 私は先生の背中に手を回した。


「本当は…怖いよ。寂しいよ。」


 いろんな言葉があふれ出た。

 何が私をこんなにしたんだろう?

 私ってこんなに弱かったんだ。

 先生は頷いてくれた。

 「うん」

 その声がとても優しくて。

 その声がまた涙を溢れさせた。




 温かいぬくもり。

 それは、決して許されない恋の鍵。





 続きます。

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