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好奇心が黒猫を殺す時  作者: 瞬々
第1章 黒猫赴くままに。
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4 黒猫の孤独

――中学3年の秋。


 兆候みたいなのはあった。沖夜宵の周りにいた「ともだち」が徐々にいなくなり、あらぬ噂が立つようになった。それに合わせて夜宵も自分から誰かと関わるのを辞めていった。


「あいつの恋占いで人間関係が破綻した奴がいるらしい」


「近所で撮った写真に霊が映りこんでると言って騒いだ」


「怪奇現象の噂を流して、周りの反応を楽しんでる」


(……ギリ夜宵ちゃんならやるかも)


 というようなものから始まり、


「自分が目立つ為に騒ぎを起こしている」


「人を陥れて楽しんでる」


と悪意ある締めで終わる噂。


「そんなことないよ」と桜は夜宵とのいい思い出を沢山語るようにした。


 けれど、人というのは残酷なもので、いい噂よりも悪い噂の方が広まりやすい。


 当の本人が意にも介してない様子だったのが幸いだった。


――甘い考えだった。


 事件が起きた。


 その日、桜達のクラスは体育の授業があった。全員体操着に着替えてバレーボールだかをやったんだと思う。桜は夜宵と一緒のチームになった。ここ最近殆ど喋っていなかったので不安だったが、久々に話してみたら、いつもと変わらない調子で会話ができた。


「ボク球技って苦手なんだよねー……、チームワークとかからっきしだからかな?」


「ふふっ、じゃあまずは人に合わせるとこから始めましょうか」


 とりとめのない会話だったけれど、普通に話すことができただけで、嬉しかった。


(いつもと変わらない夜宵ちゃんです。周りの噂なんか気にしなくてもよかったのです)


 教室に戻り、体操着から制服に着替えようとした時だった。夜宵が自分の机の前で固まった。


「どうしました?」と聞こうとして、桜も顔を強張らせた。何が起きたのか理解するのに数秒のラグがあった。


――夜宵の制服が断ち切りバサミでズタズタにされていた。


 机の中からは恐らく制服を切るのに使ったのであろう断ち切りバサミが見つかる。


「夜宵ちゃん、先生呼びましょう」


「ん……そう、だね」


 それからちょっとした騒ぎになった。担任は夜宵を気遣い、誰がやったのかとクラスにいるであろう犯人を捜そうとしてくれた。


――最初は。


「先生、私、体育の時間の前、沖さんがハサミ持ってるの見ました」


 クラスの女子の一人が言った。彼女はクラスの人気者で、教師陣からの受けも良かった。


「先生、沖さんは体育の授業の時、一番最後に来ました」


 他の女子も発言する。そこからは雪崩のようだった。最初に発言した人と被るような証言、夜宵は普段から人の気を引くようなことばかりしているだとか、誰かに罪を着せようとしているのだとか、信憑性の無いことばかり。


(……なんでそんなこと言うの?) 


 桜は静かな怒りで血の気が引くのを感じた。言いたいことが頭の中で溢れて決壊しそうだった。

 

 夜宵はよく隙間時間に読書していて、夢中で次の授業に遅れることがあるんだとか、そもそも自分の制服を切り裂いて何の得があるのかとか。


 けれど、言葉が上手く回らない。ぐずぐすしている内に、教師がクラスを制止して、夜宵に向き直った。彼らの言っていることは本当のことかどうか確認する。


 数秒間の沈黙が流れた。


「……先生はどっち信じるんです?」


 夜宵の声は冷たかった。瞳は仄暗い。教師も周りで騒いでいた生徒も押し黙ってしまう。けれど、桜は知っている。


(強がってる時の夜宵ちゃんだ)


 自分の話を信じてくれない時、夜宵はよく人を試すというか、挑発するような言い方になる。それでもちょっとふざけてる感じというか、どこか面白がってる風な雰囲気が入っているのだが、今は静かな沸々とした怒りが籠っている。


 それから結局犯人が出てくることは無かった。


 その日の昼休みから午後まで夜宵は体操着で過ごすハメになった。誰も彼女に話しかけず、くすくすという笑いが各所で起きたし、午後の授業では、彼女の姿を見た年配の男教師が無神経にゲラゲラ笑ったりしたが、夜宵はその反応のどれにも反応しなかった。


 学校側は、事件を有耶無耶にして終わらせた。犯人は出てこず、夜宵の自作自演の可能性を疑う教師すらいた。夜宵の父が怒り心頭で学校に乗り込んだという噂もあったが、真相は定かではない。


 夜宵は卒業するまで誰とも話さなくなった。


 桜とすらも。


(私が何も言わなかったからかな……)


 桜はあの時、何も言えなかったことを後悔した。自分が何か言っていたら変わっていたかもしれない。少なくとも夜宵との仲は続いていたかもしれない。


 少し前までは夜宵が何を考えているか一目で分かったのに、今は何一つとして分からない。


 話さないといけないと分かっていてもその一歩を踏み出せないまま――、彼女たちは卒業した。唯一、希望だったのは、2人とも同じ高校に行くことが決まっていたことだろう。


 まだやり直せる。絶対に仲直りしてみせる、と桜は心の中で奮起したのだった。


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