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好奇心が黒猫を殺す時  作者: 瞬々
第1章 黒猫赴くままに。
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3 黒猫、不在

 三が日もあっという間に、1月5日金曜日。21世紀になっても日常に大きな変化が起きるわけでもなく。人々はいつもの生活を続ける。『現・陰陽寮』とかいういかにも怪しい団体にいる土御門銀とて、それは変わらない。


 そもそも彼は怪しい団体員以前に大学生でもある。そう、彼自身は沖夜宵や星見桜と年齢的にそこまでの大差はないのだ。


 それがいかにも枯れたおっさんみたいに、年下に説教しないといけないとは。

 今のところ『適合者』に覚醒する人間の大半が十代、若い世代に集中しており、世間から見れば若造で未成年の銀でさえ、この中では貴重な「年長者」枠に入るのだ。


 そんな彼だが、今日は大学の講義を終えて、桜と夜宵の通う高校まで来ていた。都内私立の高校に2人は通っている。中学も小学も同じ、所謂幼馴染というやつらしい。桜曰く「ずっ友」なのだとか。


 夜宵がなぜあんな行動をとるのかとか、組織に入ろうとしないのかとか知っているであろうと、桜に何度か聞いた事があるが、「夜宵ちゃん、オカルトっぽいものに目が無いのでー」と、はぐらかされてしまった。


 その程度で、命を捨てるような真似ができるわけがないと、銀は誤魔化されなかったが。


 先日落としていったプリクラ写真を返すついでに、彼女のことを色々明かして貰おうと、銀は考えていた。


「あれー、銀さん?」


 校門で待っていると、間延びした声で名前を呼ばれる。星見桜だ。部活帰りらしく、周りに数人の同級生がいるが、夜宵の姿は無かった。


「落とし物を渡しに来た」とプリクラ写真を見せると、桜は疑わし気に見つめ返してくる。


「えー、それだけじゃないですよねー?」


 この少女、普段おっとりとしている癖に妙に勘が鋭い。そして、この性格で見た目はお嬢様のような容姿――ふわふわとした桜色の髪と、健康的で真っ白な肌、庇護欲を誘う柔和な瞳――だ。男共が放っておくわけが無いだろう。現に、周りからの男子の殺意に満ちた視線が刺さって痛い。


 どこの馬の骨とも知れない男が学園のマドンナ的存在と気安く話してる!と嫉妬と憎悪と羨望の気配が押し寄せてくる。対照的に桜の同級生らしい女子達は恋愛の波動を勝手に感じて、勝手に騒ぎ出して黄色い歓声が上がっていた。


「その通りではあるんだが……、ここじゃない場所で話そうか」


「え、私は構わないですけど……」


 当の本人は鈍感そのもので、周りがなんか騒がしいなーくらいの調子だ。


「……お前って告白されたことある?」


「え?ありますけどー、は! 銀さんは私の好みの対象外なのでごめんなさい……」


 謎の勘を発揮して、桜が急いでぺこりとお断りのお辞儀をする。何気なく聞いただけなのだが、面と向かって言われるとなんとも言えない気持ちになる。


「見当違いに察して、勝手に振るな……」


「え、違うんですか? よかったー……」


 これは大勢の男の心を粉々にしてきた女の対応。振られた男共の魂に冥福を祈りつつ、本題に入る。


「夜宵の件だ――恋愛ではなく」


 夜宵の名を出した瞬間、自分の事以上に警戒する目をされたので、釘を刺しておく。


「あー……もしかして、いつものやつですか? 夜宵ちゃんがどーして『鬼』にこだわってるのかーとか」


「そうだ、ここ最近、彼女のことを調べて回っていてな。情報が合っているかどうか答え合わせと行こう」


 2000年4月1日、すなわち『四・一異変』の際、沖夜宵の父である沖蒼夜が、行方不明になっている。『鬼』の手で『彼方の世界』に連れていかれ、そのまま帰ってくることは無かった。


 その際、沖夜宵も父と同じように『彼方の世界』に連れていかれたらしいが、彼女だけは元の世界へと戻る事が出来た。


「え、その……銀さんが知っていること、夜宵ちゃんは知っているんですか?」


「勿論知らない。だから、この事は内密にな。後、この話は夜宵君の爺さん婆さんから聞いた」


 夜宵の祖父母は骨董品屋を営んでおり、失踪中の父に代わり、夜宵の保護者となっている。銀は2人に自分が『現・陰陽寮』なる組織の者であること、これまでの夜宵の行動を話し、彼女の話を聞き出したのだった。


「あわよくば、夜宵に危険なことをしないよう、説得して貰おうかと思ったんだがな」


「お爺さんもお婆さんも夜宵ちゃんが止めても聞かないって知ってますから」


 危ないから止めろと言い聞かせても、その場限りでは分かったと言うが、守った試しがなく、こっそり『彼方の世界』に行ってしまうのだと困り果てていた。


 どうやら、あの性格は外でも家でも一緒らしい。


「今のとこ、あいつ迷惑行為しまくるヤバい不良少女なんだが……」


 可能ならば、彼女が『穴』を通る前に阻止したいところなのだが、不思議なことに彼女は、銀や桜が『穴』や『鬼』の存在を探知する前に見つけだし、常に先に『彼方の世界』へと到達している。


「その、昔はもっといい子だったんですよ、あの子。信じてください……」


「お前はあいつのなんなんだ……」


 お母さんが悪ガキの擁護をするがごとく。彼女曰く、中学時代までの彼女はもっと明るく、どんな子とも仲良くなれるような子だったとのこと。それが、中学の3年になってからおかしくなったという。同級生からの酷いイジメがあり、彼女はクラスで孤立していったのだと。


「皆と仲良くできる子だったのに……」


「……よくある話だ」


 本人が「いいコ」か「悪いコ」かはさしたる意味は無い。何故なら、虐める側の視点からすれば「いいコ」とは「周りにいい顔ばかりしてるムカつく」「周りからちやほやされて調子に乗っている」奴に見えるものだからだ。


 或いは「皆と仲良くできる子」という桜の認識が彼女視点の物でしかないのかもしれない。「皆と仲良くできる」は本人の美点に見えるかもしれないが、それが表面上だけの物でしかなかったり「皆」の中に仲間外れがいる可能性だってある。


「……それで、卒業までは元から好きだった『オカルト』系の話にのめり込んで行って、あっという間に友達との交流も無くなって行ったんです」


「自分から周りとの交流を絶って行った感じか……」 


 これもよくある話だ。人間関係のトラブルがあって、自分から人との繋がりを遮断していく。


「けど、お前が友達のままで良かったな」


「その……、実は高校に入るまでは私もあまりお話できなかったんです」


 この話はどうやら桜にとっても重い話になりそうだ。歩きながらするような話では無さそうだ。ふと看板が銀の眼に入る。


「その話、長いか? 喫茶店でも入って話を聞こうか」

現・陰陽寮

土御門銀が所属している「ボランティア組織」。実は太古の昔からこの世ざる物と戦ってきた組織の今の姿……なんだとか噂されているが、真相やいかに。四・一怪異の時にも迅速に対応できた霊能者が創設者となっており、銀はその身内。最近はバイト感覚で辞める『適合者』まで出る始末でとにかく人材不足なんだとか。

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