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異世界小説家  作者: キクメン


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95:大感謝祭

 翌日、私にとっての始まりの町、その名前もまさに始まりの町の最後の日、大感謝祭の日の朝は、太鼓のような音とほら貝を鳴らしているかのような音が盛大に鳴り響いた。


 日本なら花火の音がするところだが、この世界にはまだ火薬はないのだろうか?


 まずはいつも通り飯屋に行って、早速ワイバルンサンドと雑炊を一つずつその場で食べて、さらにワイバルンサンドを3っつ買ってから宿屋に戻り、脱衣所で待っていたトラとユクリューにすぐ戻るからちょっとだけ待っててと言って部屋に戻ってすぐにワイバルンサンドをアイテム格納バッグにしまって、最後の独り占め風呂に入った。


 今日はとりわけ大感謝祭ということでこんな朝から風呂に入る冒険者など誰一人としていなかった。そしていつもより少しだけ長湯をしてトラとヨクリューと一緒に過ごした。


「一月に一回は帰ってくるから寂しがらないでね、二人とも仲良くしてポルルの言うことを良く聞くんだよ」

「ギャウゥ!」

「クェェッ!」

「ホントに良い子だね、大好きだよ」

「ギャウゥ~」

「クェェ~」


 あぁ癒される、むしろ寂しくなるのはこっちの方だと思った。


 そうして風呂から上がり、部屋に戻ってモウムのミルクとチーズを取り出して裏庭に行ってトラとヨクリューに食べさせた。


 その後またしても飯屋に行ってしれっとした顔で今度は雑炊を2つ買った。午前中だけで合計4回程行ってワイバルンサンドを10個に雑炊を8個も買った。人ごみに紛れながらと、店員が入れ替わったタイミングを見計らって行くというかなりセコイ作戦までするという涙ぐましい努力の成果だった。


 午後は高級料理店の屋台でも同じような作戦を実行しステーキを10皿シチューも10皿ゲットした。しかしながらこちらの方は多分気付かれていたようだった。気を使って給仕の人も素知らぬふりをしてくれていたようだ。


 さらに肉屋に行ってワイバルンの高級部位の塊を5つも購入しさすがに高級部位はこれ以上は勘弁してくれと言われて通常部位を10個も買って、目を丸くして驚かれた。


 他にも青果店に行って以前町の南西にあるボルグド村の農園からもらった美味しい果物が売られていたので、数種類の野菜と一緒に大量に買い込み、宿屋に戻って速攻でアイテム格納バッグにしまい込んで、もう一度食材を仕入れに行こうとして宿屋の玄関に向かうと、トラとヨクリューを連れたポルルとウェンデルの後姿が目に入り、玄関の外にはモウム達の世話をしている少女もいるようだった。


 3人とも普段あまり見たことがない程の嬉しそうな笑顔だったので、自分も凄く嬉しい気分になり、邪魔しちゃ悪いと思って立ち止まって彼女達が祭りに行くのを見守った。


 その後も時間差を付けて飯屋と高級料理店を交互に行ってまだ買うのかと我ながら呆れる程に追加で買い込んだ。タダノの食い意地と胃袋はどうなってるんだといううわさが広まろうがどうせ今日を最後にこの町を離れるので一向に構わなかった。


 飯屋と高級料理店と宿屋をピストン輸送しているうちにポルル達と出くわして、ウェンデルからお小遣いのことで凄く感謝されて、ポルルもペコペコ何度もお辞儀をした。モウム達の世話をしている少女にも千デン硬貨を無理矢理渡し、その代わり明日朝イチでリュックに入るだけのミルクとチーズとバターを買いに行くから用意してくれと言って、なんとか受け取ってもらうことに成功した。


 ちなみに3人とも何やら美味しそうな甘い香りのする何かを手にしていたのでそれはどこで売ってるのか聞いて、早速その売店に行ってそこでも大量に買い込んだ。


 多くの冒険者達は飲食も楽しんでいたが、それよりなにより防具や武器や道具や衣服や薬品が特化セールで売られているので皆とても真剣な眼差しで物色してあれこれ買い込んでいた。


 もちろん中央大陸から持ち込まれた貴重な品々にも多くの人だかりが出来ていて、その反対に中央大陸から来た人達は始まりの町の様々な品々を物色して数多く買い込んでいた。


 また、個人売買のバザーも大盛況で、とりわけ孤児達が作ったと思われる手作りお菓子や石鹸やロウソクや手拭いは全部購入し、子供達にはそれとは別に一人100デンをあげた。


 本当は千デン、いやそれどころか1万デンを上げたいくらいだったがそれはかえって迷惑になると思ったので100デンにした。それでも物凄く喜んでおり、嬉しさのあまり泣き出す子もいて、こっちまで泣きそうになった。


 商品が全部売れたのでお祭りに行って楽しんでおいでと言うと皆満面の笑みで頷いて店じまいをして手を繋いで祭りに向かって行った。


 やがて、何やら大門の方が賑やかになり、どうやら中央大陸からの使節団がやってきたようだという声が聞こえてきた。


 使節団はメインストリートを移動し、町長と挨拶をするため町の会館に向かってきたが、ちょうどバザー会場は町の会館前広場だったので、使節団を目にすることが出来た。


 町の職員と思われる先導の元、4人の白いローブを着た人達とその後ろにはヴァルヘルムとトゥルリィーンの姿も確認出来た。


 自分が立って見ている場所と彼等との間には割と距離が離れていて、ヴァルヘルムとトゥルリィーンはこちらに気付いていない様子だったのだが、白いローブを着た人の中で髪の毛も真っ白い一人が、立ち止まってこちらを真っ直ぐに見つめてきた。


 そこでヴァルヘルムとトゥルリィーンも私に気付いて手を振り、髪の毛が真っ白い人物に向かって何やら話しかけていた。恐らく私のことを説明しているのだろう。これからお世話になる人なので私は一礼してから彼等に近付いて行った。


 互いの顔が分かる程に近づいて私はもう一度今度は深くお辞儀をしてから名乗った。


「お初にお目にかかります、私はこの町で冒険者をしている多田野(ただの) (ひとし)と申します」


「丁寧な挨拶を有難う、私は大魔法協会会長をしているハルケンロルグという者です、ヴァルヘルムとトゥルリィーンから聞いた通り、そなたからは膨大な魔法力を感じる、後ほどゆっくりと話しを聞きたいと思うが、これからこの町の町長と話しがあるので、いったんこの場は失礼する」


「はい、お言葉有難う御座います、どうぞいってらっしゃいませ」


 大魔法協会の会長というくらいの人物なので尊大な人物かと思っていたのだが、私のような若造相手でもとても丁寧な対応をしてくれたので驚いた。


 ハルケンロルグ会長は白髪が美しい老人で、確かに深く刻まれた皺と長い白髭から高齢な人物だと思われるのだが、背筋はピンとしており、威圧的ではなく柔和な優しい目なのだが何故かその眼光は鋭く感じた。


 その後宿屋に戻ってアイテム格納バッグの中を確認してみたところ、料理だけで50か所以上も占領しており我ながら店でも開くのかと呆れてしまったが、肉屋で買った肉などはクーラーボックスに移し替えて、バザーで買った石鹸やロウソク等はコンテナボックスに入れて整理した。それでもまだ100箇所以上は空きがあるので問題ないだろう。


 もう一度メインストリートに戻って祭りの様子を見に行くと、ゴドルム村の村長のドルバ達がいたので声をかけて再開を祝った。


 飯屋で腰かけて果実酒を飲みながら語り合い、明日からしばらく中央大陸の魔法の町に行って留学することを伝えた。


 他にも互いの近況を話していたところ、一緒にロックワーム狩りに出かけた時の一番若い狩人の槍が折れたので良い槍がないか探しているというの聞いて、それならば自分がサブで使っている槍をあげると言って、宿に戻ってサブの槍を持ってきて若い狩人に差し出した。


 こんな素晴らしい槍を自分のような未熟者がタダでもらう訳にはいかないと断ってきたが、これから本格的に魔法を学びに行くので二本も槍は必要がなく、それよりも前途有望な狩人に使ってもらう方が槍も喜ぶだろうと言うと、村長のドルバも同意して有難くもらっておけと言い「お前がいらないっていうのならオレがもらうぞ」と狩人のベルムが言ったので、若者狩人は慌てて「いえ、オレが有難く頂戴します!」と言って、皆で笑いあった。


 相変らず実に気持ちの良い人達だと思っていたところで、ヴァルヘルムとトゥルリィーンがやってきて、町役場の会館へ来てくれと言われたので、ドルバ達に別れを告げて会館へと向かうことにした。


 途中私は礼服に着替える時間はあるかと聞くと、それくらいの時間はあると言ってくれたので、急いで宿屋に戻って礼服に着替えた。せっかく100万デンも出して調達した礼服だ、こういう時に着ないともったいない。


 自分では果たしてサマになってるかどうかサッパリ分からないが、ヴァルヘルムとトゥルリィーンの反応ではかなりの好印象を持ってくれたようで安心し、私達は足早に会館へと向かって行った。

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