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異世界小説家  作者: キクメン


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94:寄付

 冒険者ギルド建屋内にあるVIPルームにて、依頼達成後の打ち合わせでこの部屋を利用するのも恐らくこれが最後だろうという報告を行った。


 大魔法協会の使者二人はすぐに伝書鳥にてこの件を現在こちらに向かっている会長と中央大陸にある大魔法協会本部に知らせると言って退室した。


 ウォルロッドからはこの後ウチで飯を食わないかと誘われたので喜んで了承し、いったん宿に戻って防具を脱いで休憩してから夕暮れ時にウォルロッドの自宅に訪問することになった。


 宿に戻るとちょうどポルル達がモウム達のいる場所から帰ってきたところで、トラとヨクリューは勢いよく私の胸に激突してきた。防具の上なのでいくらでも平気だ。


「ギャウゥ!」

「クェェッ!」

「ただいま!っておかえりでもあるかな、ホントは明日戻ってくる予定だったんだけど、紫ヒスイを見つけたから戻ってきたんだよ」


 ポルルも頷いて皆で玄関に入って宿に戻った。部屋に戻って防具を脱いで、防護服やその他の洗濯物を明日洗濯してもらうためにカゴに入れて100デンを乗せて、現実世界に戻ってアイテム格納バッグの中身を整理してゆっくりと休憩したあとで異世界に戻ってウォルロッドの自宅へと向かった。


 ウォルロッドの自宅に招かれると、ウォルロッドの子供達が駆け寄って来て、前回抱いてあげた子供が勢いよく胸に飛び込んできたので受け止めて抱っこした。まるでトラやヨクリューのようだった。


 ウォルロッドの妻も相変らず快活で元気よく大きな声で出迎えてくれた。前回も思ったがまるでウォルロッドが二人いるようだった。


 大いに会食での話が盛り上がり、これまでこなしてきた依頼の話しに子供達は夢中になって喜び「オレ絶対に冒険者になる!」とか「アタチもなゆ!」など目をキラキラ輝かせながら宣言し、ウォルロッド夫妻もとても嬉しそうな顔で笑っていた。


 食後ウォルロッドから真顔で「お前さんの預り金がとんでもない額になっている」と言われ「大魔法協会のおエライさんが来て、これまでの魔法宝石や黒水晶に漆黒水晶、さらにトドメの紫ヒスイまで、多分全部中央大陸の大魔法協会が買い取ると言うと思うが、恐らく少なくとも2億デンは軽く上回るだろう」というとんでもない金額を口にした。


 そうなるとすぐに現金で渡すことなど当然出来ず、恐らくどの町でも使用可能な手形として報酬を受け渡すことになるだろうとのことだった。


 そこで私はこの町には孤児院のようなものがあるのかとウォルロッドに聞いた所、町全体で孤児を受け入れてくれるお店や、一般家庭に大して支援金や税の優遇措置をとっているため、孤児院のような施設はないと説明した。


 例えばウォルゼル婆さんの宿やザラ小屋などでは住み込みで働いて、しっかり給料も払っているとのことで、小さい子供についてはしっかりと調査をした上で子供が欲しいという家庭に対して補助金を出しているとのことだった。


 それを聞いて大いに安心し、何かそういった孤児達への支援金制度のようなものはないのかと聞いた所、冒険者ギルドの収入の一部や、町の税金の一部がそういった子供達のために含まれていると言い、個人献金も可能かと聞くと、もちろん可能だと言われたので、これまでの報酬が入ってきたあかつきにはその半分を寄付したいと言った。


 ウォルロッドも妻も驚きの表情でしばし無言でこちらを見つめ「タダノ、お前さんは何故にここまで孤児達のことを気にかけて、いつもとても良くしてくれるのだ?」と聞いてきた。


 私は少し下を向いて考えた後で真っ直ぐにウォルロッド夫妻の目を見つめて正直に打ち明けた。


「私は14歳の頃に事故で両親を亡くしました、私は運よく助かり両親がしっかりとお金を残してくれたおかげで不自由なく生活してこれました、だからポルル達のような子供達を見るとどうしても何かしたくなるのです」と答えると、二人とも涙ぐんで頷き、すぐに涙を鼻水ごと飲み込んで「今日は飲もう!」と言って果実酒を飲んだ。ちなみにウォルロッドの妻が一番飲んでしかも酒に強かった。


 いつもよりも相当深夜、といってもお爺さんの腕時計をコッソリ確認したところまだ夜の11時前に、棒を杖代わりにして宿へと戻った。ウォルロッド夫妻からは泊まっていけと言われたが、宿屋にある温泉を独り占め出来るのもあとわずかなのでなんとしてでも帰ると言って断ると笑って見送ってくれた。


 翌朝いつもより遅い起床、といっても午前8時前に起きた私は飯屋に行くとなんと昨日獲った魚を使った朝食が出ており早速注文して食べた。魚の雑炊と書かれていたがどちらかというとパエリアかリゾットに近い味でモウムのチーズも入っていて実に美味しかった。


 帰りの肉屋も見てみると、魚の切り身とワニの肉も売られていたのですぐに沢山買い込んだ。これでますます時間調整のために現実世界で過ごす時の食事も大いに楽しみになった。久しぶりに新鮮な魚の刺身も味わえそうだ。


 そしていよいよ明日は大感謝祭ということで、メインストリートは食べ物屋台と露店売り屋台で埋め尽くされており、あちこちで飾りつけも行われていた。子供達も大勢手伝っている姿が見えた。


 明日を楽しみにしながら宿に戻って、今日の楽しみの独り占め風呂へと向かうとトラとヨクリューが待ってましたとばかりにやってきて、一緒に温泉に浸かって最高のひと時を味わった。私が入浴して「ハァァ~ッ」と声を漏らすとトラとヨクリューも「ギャウゥ~」と「クェェ~」と声を漏らした。まさに癒される至高で至福の時間だった。


 その後昼食を食べに行く途中で、受付カウンターの呼び鈴を鳴らすとウォルゼル婆さんが奥から出てきて「どうしたね?」と尋ねてきた。


「明日は大感謝祭ですが、ポルルや他の子どもたちもお祭りを見に行けますか?」


「ああ、午前中の仕事を終わらせたら皆自由だからお祭りに行けるよ」


「この宿屋には何人の孤児達が働いていますか?」


「泊まり込みは3人だが、通って来ている子も含めたら全部で5人だ」


「そうですか、余計なおせっかいで申し訳ないんですが、これを子供達に渡してくれませんか?」


 千デン硬貨を5枚ウォルゼル婆さんに渡した。


「・・・有難うよ、タダノ、本当に有難うな」


 ウォルゼル婆さんはお金を受け取り、初めて自分の顔を見て微笑んで涙を流した。なんだかこっちの方が気恥ずかしくなったので「それじゃお昼ご飯を食べてきます」と言ってそそくさと宿屋を後にしたが背後ではお礼の言葉が何度も続いていた。


 昼食を食べに飯屋へと行くと、ワニの肉を使ったサンドが売られていて早速注文してかぶりつくと、あっさり塩味の竜田揚げといった感じでジューシーな鶏肉のような味で実に美味しく、おかわりをしてさらに2つ持ち帰りで注文した。


 その後冒険者ギルドに入って掲示板を確認したところ、6等級と7等級の依頼はとうとう一枚もないことを確認し、その板の部分にまでそれ以下の等級の依頼書が貼られるようになっていた。


 どうやらワイバルンが討伐されたことで、中央大陸からの依頼が沢山舞い込んできたようだった。特にそれほど大きな危険性のない依頼が増えたのはルーキー冒険者にとって実に良い事で、これからはよりギルドが活発になって経済活動にも良い効果が期待出来そうだった。


 その後恐らくこれがしばらく最後になりそうなトラとヨクリューのお散歩に行って、二匹とも何かそんな雰囲気を察したのかいつもよりも多い時間遊んで、帰りもずっと私にくっついて離れなかった。ちなみにミルクとチーズとバターを大量に買い込んでおいた。


 夕食としてはこちらも恐らくこれがしばらく最後になる高級料理店にて、魚のムニエルとワニ肉の煮込み料理を堪能した。これはまさに先日給仕から渡された大地溝帯の食材と調理法の調査結果に書かれていたもので、最後にそれを味わうことが出来て非常に満足した。


 こうして大感謝祭前夜の1日が過ぎていった。

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