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異世界小説家  作者: キクメン


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87:使者

 二人と二匹で宿屋へと戻ると、受付カウンターにはウォルゼル婆さんが出ていて「それがワイバルンの赤ちゃんかね」と聞かれたので「はい、名前はヨクリューと言います」と応えると「変わった名前だけど覚えやすくてその子に合ってる気がするね」と言ったので「ヨクリュウというのはワイバルンのように翼を生やした大きな爬虫類のことを指す私の田舎の言葉です」と説明すると納得した様子で頷いた。


「大丈夫かね?ポルル、うまくやれそうかね?」


 ポルルはコクリと頷き、トラも「ギャウ!」と鳴きヨクリューも「クェェ!」と鳴いたので、ウォルゼル婆さんは「それならいい」と頷いて、奥の部屋へと入っていった。


 なんとなくこの中ではウォルゼル婆さんが最もヒエラルキーの頂点にいるような気がした。


 いったん部屋へ戻ってから早めの夕食を取りにまた外出したが、高級料理店に行く前に冒険者ギルドに行って、何か短期間でこなせる依頼がないか見てみることにした。


 何もないようであれば美味しい食材を獲りに前回行った北東のダリウム大洞窟に個人的に行ってみてもいい。本当は大地溝帯に行きたいがまだ何日かはポルルのサポートでヨクリュウを見てあげないといけないと考えている。


 そうしてギルド建屋に入って掲示板を確認した。今後ポルルがトラとヨクリュウを従えて冒険者デビューをするかもしれないと思って、1等級冒険者の掲示板を見てみたが、1等級冒険者の依頼は討伐に関するものはなく、調査関連や植物採取やお使いやあまり危険性のない生き物の駆除がほとんどだった。


 6等級以降の依頼は依然として例の大地溝帯から紫ヒスイを探せの一つしかなく、5等級のものについてはまた幾つか増えていたが、護衛であったり、遠方地域のものだったりして、昼までに帰って来れそうなものはなさそうだった。


 その後高級料理店に行って夕食を食べていたところ、どうやらワイバルンを町と冒険者ギルドが買い取って、高級料理店や飯屋や肉屋に配って盛大に町のお祭りをして盛り上げるという話しが出ているらしいことを聞いた。


 こうして無事ヨクリューが卵から孵って、なんとかうまくやっていけそうな感触を得てホッと一安心した私は、明日は午前中に帰って来れそうな食材探しでもしようかなどと考えながら宿屋に戻り、その日を終えた。


 翌日、朝食を食べに飯屋への道を歩いていると、いつもより町が賑わっている感じがしていて、良く観察してみると何やら皆ポスターのようなものを壁や店の入り口などに貼っていた。


 飯屋でも看板に何やら貼り付けていて、近づいてみると次のように書いてあった。


-------------------

【大感謝祭】


 建町記念日に合わせて

 今回のワイバルン討伐を祝って

 特別な感謝祭を開催します


 各料理屋にてワイバルンの肉を使った

 料理が特別価格で提供されます

 果実酒も1杯10デンで提供されます


 また、各店にて販売されている商品が

 特別割引で提供されます


 その他にも中央大陸からやってきた

 商人達が露店を出店します


 さらに町の会館前広場にて

 バザー広場を提供し個人売買を許可します


 詳しくは町の会館、冒険者ギルド

 お近くの出張所にてお尋ねください


-------------------


 わっ!これはスゴイ!お祭りだ!建町記念日って、なんだか建国記念日みたいだな。


 早速朝食を注文するときに店の人に「建町記念日っていつですか?」と尋ねたところ「5日後だ」と教えてもらった。しかも今回ワイバルンの肉は町と冒険者ギルドが買い取って、この町にある料理店に無料で提供してくれたとのことだった。


 随分太っ腹なことをするなぁと感心したが、恐らくそれでも十分元が取れる程これから大いに交易が発展して経済効果と町やギルドの収益が見込まれるのだろう。


 ちなみにワイバルンの肉は私が採取してきた大量のアイスクリスタルのおかげでばっちり鮮度管理されているそうだ。しかも中央大陸からやってきた大魔法協会の代表の人によってさらに強化されて冷凍保存されているらしかった。


 その後宿に戻り、トラに加えてヨクリューも一緒に風呂に入って大いに心と体が癒されて、部屋に戻ってみると机の上に置手紙が置いてあり、ウォルロッドから冒険者ギルドに来てくれと書かれていた。


 すぐにとんぼ返りで宿屋を出たが、途中で裏庭に寄ってポルルに「これから冒険者ギルドに行ってくる、もしかしたら今日はモウム達のところに行けないかもしれない」と言っておいた。


 すぐに冒険者ギルドに到着すると、いつものVIPルームの扉にいつもお茶を持って来てくれる女性職員がいて、お互いに目が合ったので頷いて、そちらに向かって入室した。


 個室にはウォルロッドの他に見慣れない服装の人が二人ソファーに腰かけていて、私が入室するとこちらを振り返り二人とも一瞬驚いた顔をして立ち上がって礼をした。


「おお、来たかタダノ、こちらは中央大陸の大魔法協会からやってきた使者の方々だ」


「初めまして、冒険者の多田野(ただの) (ひとし)です」


「初めまして、私はヴァルヘルムと申します、タダノさんの御高名はこちらにも届いております、この度はこうしてお目にかかれて光栄に存じます」


 白に近いグレーのローブに身を包んだ理知的でスリムな北欧系の顔立ちを感じさせる男性が丁寧に挨拶してきた。


「初めまして、私はトゥルリィーンと申します、タダノ様からもたらされたロックゴレムの魔法宝石が完全に無傷という信じられない程に素晴らしい状態で、私達はとても感激していますわ、皆を代表して御礼申し上げます、有難う御座いました」


 わっエルフだ!耳が長い!そしてなんという美しさ!透き通るような白い肌、ゴレムの魔法宝石のようなエメラルドグリーンの瞳、輝く黄金の髪、すごい!本物だ!


「いやっ、そのっ、ど、どうも、恐縮です」


「さらに凄まじい量の黒水晶に加え、これまで記録にない程に大きく純度が高い漆黒水晶までご提供なされて、大魔法協会では大いに喜びに包まれております」


「そしてさらに此度のワイバルン討伐、まさに町の英雄に相応しい見事な働き、私共からも重ねて御礼申し上げますわ」


「えっ、いや、そんな、自分なんて、どうにも、ホント、恐縮です!」


「ハッハッハッ!なんだタダノ、大分緊張しているな!」


 こんな風に人から褒められた事が生まれてこのかた一度もないので、どう対応したらいいのか全く分からず混乱してどうにもしまらないフヌケた返答になってしまった。しかもどう見ても自分よりも人間的にはるかにレベルが高そうな人からの賞賛なのでなおさら恐縮してしまった。


 その後いつもの女性職員がいつもの美味しいシナモン入りミルクティーを持って来てくれて、一口口にしてホッと一息ついてどうにか落ち着いた。


 大魔法協会からの使者としてやってきた二人は、交易ルート開通の確認と町長と今後の交易に関して本格的に再開することを協議し、冒険者ギルドにも依頼を再開することを話し合いに来たとのことだったが、それについては実の所書簡でやりとりするだけでも良く、本当の目的は冒険者タダノという人物が、どういう人物かを確認するために来たということだった。


「タダノさんには大変失礼ながら、これまでのご活躍から筋骨隆々で豪放磊落(ごうほうらいらく)な人物を想像していたのですが、大分想像と異なるお方なので、正直とても驚いています」


「タダノはこう見えて力持ちの才があるのだ」


「なるほどそうでしたか、あのダリウム大洞窟からたった一人であれほどの黒水晶を持ち運んでこれたのも力の才あってのものなのですね」


 その後もロックゴレムの魔法宝石をどうやって無傷で手に入れることが出来たのかなどを説明し、その度に目を丸くして驚かれ、是非とも一度その様子を拝見してみたいものですと言われ、つい安請け合いしていつでもいいですよと応えてしまった。


 後でこれが厄介なことになるとも知らずに。

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