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異世界小説家  作者: キクメン


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83/383

83:英雄タダノ

 町の北にあるロックマウンテンの山頂にて、あっけなくワイバルンを討伐した私は、町で心配している人々にすぐに吉報を知らせるべく、青い色の発煙筒を二つに折って青い煙の狼煙をあげた。


 すると1分も経たないうちに大きな低い音のラッパというか笛というか戦国時代の歴史ものドラマなどで良く出てくる法螺貝を吹いた時のような音が麓から鳴り響いてきた。


 双眼鏡で麓の辺りを見てみると、何やら小さな風船のようなものが少しづつ膨らんでいて、どうやらあれが気球に違いないと思った。


 気球はみるみる膨らんでいき、やがて宙を浮き始めたので私は双眼鏡をしまって、ワイバルンの方へと近づいた。


 ワイバルンの尻尾を持って引きずってみると、かなりの重量であることが分かるのだが、問題なくワイバルンの死骸を移動させることが出来て、ワイバルンの巣を観察してみることにした。


 惨たらしい状態のロックジャガルを遠くに引き離してから巣に近付くとその真ん中に驚くべきものが存在していた。


 よく見る形、楕円状の球体、それは紛れもなくワイバルンの卵だった。大きさは1メートル近くはありそうだった。


 これはどうしたものか、どうするべきか、どうしたらいいのか、結構混乱していたようで、アイテム格納バッグを開いて卵に押し当ててみたが、バッグには入らなかった。つまりこの卵は生きていた。


 私はとりあえずリュックの中に入れてしまった。


 他にも巣の中には槍の穂先と思われるものや、剣が何本かと盾と宝石が埋め込まれた杖の先端部分があるのを確認した。恐らくキラキラ光るものを集める習性でもあったのかもしれない。それらを巣から取り出して綺麗に並べた。


 他にも何かないか巣をくまなく調べたが、それ以外は何もなく犠牲になった冒険者の人骨なども見つからなかった。


 そうしてもう一度山の麓を見下ろすと、気球がかなり近づいてきているのが分かった。さすが気球、地形や足場など何にも束縛されずに真っ直ぐ最短距離を登ってくるだけあってあっという間に近づいてきた。私は大声で手を振り槍を振り気球に呼びかけると気球からも声がしてきた。


 やがて気球は上昇速度を落として近づき、人が乗っているカゴを目にした。中に乗ってる人が重そうな砂袋をくくり付けた縄を3っつ程地面に向かって投げた、恐らく係留させるためのものだろう。


 ゆっくりとカゴが地面に着陸すると、真っ先に中から飛び出てきたのはウォルロッドだった。


 ウォルロッドは私を一目見て大きく頷き、私も頷き返して互いに歩み寄り、固い握手をした。


「驚いた、お前さんまったくの無傷じゃないか!」

「ええ、運よくワイバルンの食事中の隙を突くことが出来ました」


 さらに3名の冒険者と思われる人達が降りてきて、口々にスゲェ!とかデケェ!とか信じられねェ!と言ってワイバルンに縄をくくり付けていた


 ウォルロッドもワイバルンの前に回って確認すると「オイオイ、ウソだろ!?ワイバルンも一撃で倒したというのか!?」


「他に目立った外傷はないですぜウォルロッドのだんな!」


「どうやったのかは分からんですが、脳天を一刺しで仕留めたようですぜ!」


「信じられん・・・一体どうやればそんなことが出来るんだ?」


「えぇと・・・こんな具合にやったんです」


 私はもう隠すこともないだろうと思い、皆の前でジャンプして見せた。気球のてっぺんよりも高く飛んで着地してみせた。


 全員口をあんぐりと開けて唖然とした表情で私を見た。


「お前さんは身軽の才も持っているのか!?それとも何かの魔法道具か?」


 なんと身軽の才などというものまであるのか。


「道具屋でザラの足という装飾品があり、その魔法石をこのブーツに縫い付けています、そして私の故郷では小さい頃から何度も山に登って足腰を鍛えているので脚力には自信があります」


「なるほど!大門から出ていったとき全員でお前さんの足の速さにたまげたのだが、そういう理由があったのか!いやしかし、それでも普通は思いつかないぞ、まさか空を飛ぶワイバルンを空から攻撃するなんてな」


「ええまさに運が良かったんです、ワイバルンはロックジャガルを食べるのに夢中で、背中から近づいた私には全然気付きませんでした、だから思い切っていっそのこと空から脳天めがけて飛び降りてやろうって思ったのです」


「なんという度胸だ!恐れ入ったぞタダノよ!やっぱりお前さんは凄い冒険者になる男だ!」


 その後、ワイバルンをしっかり固定して、これまで戦いに敗れた冒険者達の遺品でもある武具や防具をカゴの中に全て入れて、私も一緒にカゴに入って下山した。さすがの私の脚力も全く敵わない程の早さであっという間に山の麓まで辿り着き、そのまま低空飛行で町まで進んだ。


 カゴの中には魔法使いの冒険者がいるようで、風魔法で進行方向とは逆向きに風を放っていた。そして気球の中央には魔石が置いてあり、その魔石に込められた火魔法を調整して空気を温めて気球を膨らませていたようだった。


 町に近付くと太鼓の音が聞こえてきて、大勢の人が大門の前に集まっていた。人々は大きなワイバルンを指さして驚き、そして喜んでいた。


 やがて大門前にゆっくりと着陸すると大勢の人によって気球は取り囲まれ、辺り一帯は歓喜の渦に包まれた。そして私がカゴから降りて槍を高らかに掲げると一際大きな声援に包まれ、私はワイバルンを倒した時のように空高くジャンプして槍を突き刺す仕草をして、それからワイバルンの脳天を指さすと、一瞬辺りは静まり返ったが、すぐにまた大歓声に包まれた。


 いつしか声援は「冒険者タダノ!」から「英雄タダノ!」に変わって何度も繰り返された。


 その後二頭のザラに牽引された大きな荷車が運ばれてきて、力自慢の冒険者達によってワイバルンが乗せられて、さらに私にも荷台の上に乗るように言われたので乗り、大歓声の中、町の中まで運ばれていった。


 町の中も大勢の人が沿道で手を振っていて、私も多くの人に手を振って槍を振って応えた。飯屋も肉屋も道具屋も防具屋も武器屋も薬屋も八百屋も服屋もザラ小屋も裏通りの高級料理店や住人達も、とにかく町中の人が沿道に出て手を振ってくれた。


 それからは結構大忙しで、ウォルロッドに引き連れられて初めてこの町の代表である町長に面会することになり、立派な町役場の会館に行っていつもの冒険者ギルド建屋内のVIPルームよりもさらに豪勢な部屋にて町長にワイバルン討伐を報告した。


 町長は全く偉ぶるようなところがなく、どちらかというと物静かな感じのする人物だったが、ウォルロッドの態度からとても尊敬されている人物であることが伺えた。


 町長からはいつかは故郷の村に帰るのかと聞かれたが、年老いて最期を迎える頃に帰るかもしれないが今はまだ分からないと応えると、この先二十年程後にはウォルロッドに町長を継いでもらうが、さらにその後の町長候補として私を有力視していると言った。


 町長の耳にも私のうわさは届いているようで、ウォルロッドからの報告はもちろんのこと、道具屋や防具屋や武器屋や高級服屋や高級料理屋、そして宿屋のウォルゼル婆さんや孤児達や図書館員や、近隣の村長や村人達、果ては普通の一般通行人からもタダノの普段の行いは実に素晴らしいという声が届いているとのことだった。


 また今回のワイバルン討伐で、今後町の交易が盛んになることは間違いなく、町の経済的発展にも大いに貢献することを町を代表として感謝すると言って頭を下げられた。


 後日正式に町に多大なる恩恵をもたらしたことを称える賞の授与式を行うことを報告されて、いったん町長との面談を終えた。その報は町中にすぐに行き渡り、授与式の際には町全体でお祝いの祭りを開こうという機運が高まっていた。


 その後は飯屋で大勢の冒険者達と一緒に昼間から宴のような状況で楽しく飲食した。午後3時くらいまで盛り上がり、その後宿に戻っていったん休憩することにした。


 宿屋に戻ると受付カウンター奥からトラがすっ飛んでやってきて胸に飛び込んできた。その後ウォルゼル婆さんとポルルと洗濯をしてくれるウェンデルが出てきて出迎えてくれた。


 私の元気な姿を確認するとポルルは大粒の涙を流してウォルゼル婆さんに抱き着いて、ウォルゼル婆さんはポルルの頭を優しく撫でた。


「すごい男だねアンタ、大したもんだ」


「ご無事のお帰り、おめでとうございます」

「ありがとう、結構汗をかいたからまた洗濯お願いするね」

「はい!」


「大分疲れたから今日はポルルの布団で寝るのが楽しみだよ」

 ポルルはコクリと頷いた。


 その後部屋へと戻って普段着に着替え、夕食は冒険者ギルド貸し切りの高級料理店に行って盛大な祝勝会となった。


 こうして目まぐるしくも楽しい1日を送ったので、リュックの中にある卵のことなどすっかり忘れてしまったのであった。

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