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異世界小説家  作者: キクメン


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67:荒野の虎

 宿へと戻った私はいつものルーティーンで、現実世界に戻ってシャワーを浴びて歯を磨いて下着を取り換えて髪を乾かして、ポルルが干してくれた布団に潜ろうとしたのだが、思いとどまって現実世界で少し時間調整をする必要があるかと考えた。


 寝るにはまだ結構早い時間でもあったので、丸一日こちらで過ごしても異世界では2時間半程度しか時間は進まないし、明日は予定があるから依頼は休みになるので、こちらで過ごして異世界の夜遅くに戻ってからゆっくり寝てもいいだろう。


 そういうわけで、図書館から借りてきた本を読むことにした。まずは動物の本を開いてロックタイガルについての記述がないか探してみたところすぐに見つけることが出来て結構詳細に習性などが記載されていたので大いに参考になった。


 他にもこれまで倒した動物達や、まだ出会ったことのない動物達のことも沢山記載されており、最後の方に数ページ程かけてワイバルンについての記載があり、多くの冒険者達の証言や推測という注釈付きで様々な事が記載されていた。


 そろそろ眠くなってきたので、ステンレス製の水筒に入っている泉の水を沸かして、そのまま白湯として飲んだところすぐに眠くなり、久しぶりの現実世界の布団で寝ることにした。


 目が覚めると午後1時で、腹が減ったので何か作ろうとして冷凍庫にまだストックしてあるピラフを目にしたのだが、どうにも異世界で美味しい物ばかり食べているものだからかなり残念な気持ちになり、まだ異世界では1時間も経過しておらず恐らく夜の8時前ぐらいだろうから、ワンチャン飯屋か高級料理店のラストオーダーが間に合うかも知れないと思って異世界に戻ることにした。


 まず先に飯屋に行き、その隣にある肉屋でまだ肉を売っていれば大ラッキーということで、人様に迷惑にならないように可能な限り早足で向かった。


 飯屋に行くとまだまだ店じまいの気配はなく、多くの仕事帰り冒険者達で賑わっていた。隣の肉屋も明日以降、或いは夜間にしか出来ない依頼の人向けのためにまだ営業していた。


 私は大喜びで肉を大量に買い込んだ。こんなに買い込んで遠征にでも行くのか?と聞かれて、即座にロックタイガルをおびき寄せるのに使う、もったいないがこれ程いい肉でつれば、警戒心が強いロックタイガルもおびき寄せるだろうなどと、我ながらスラスラと実にうまい嘘が出てくることに大いに戦慄してしまったが、まさにその通りうまいこと肉屋の店員も大いに納得してその作戦なら間違いないと言って私の嘘を信じ切ってくれた。そしてロックタイガルを討伐できれば小麦の仕入れで多くの人が助かるから是非よろしく頼むと言ってくれて、肉のおまけもしてくれた。


 それから飯屋で、オスの大サソリのから揚げとパンと果実酒を飲食した。私にとっては朝食であり、朝からから揚げに酒を飲むというていたらくだった。そして帰り際にはナンに似たパンを大量に買い込んだ。ここでも遠征にでも行くのかと聞かれ、ロックタイガル討伐でもしかしたら張り込みになるかもしれないと応えると、すぐに信じてくれて肉屋の時と同じように小麦のためにも是非頼むと言われた。飯屋に居た他の冒険者達からもよろしく頼むと言われて飯屋を後にした。とうとう大勢の前で嘘をついてしまった。


 大満足して宿へと戻り、もう一度現実世界へと戻って、読書の続きを行うことにしたが、果実酒がいい感じに効いていて、頭に入ってこないので1ページ目からスマホ撮影していくのに切り替えた。静止画像なので大したファイルサイズではないが、いずれ大容量の外付けハードディスクを買おうと思った。


 さらにこれから現実世界で40時間過ごせば、異世界では大体夜中の0時になるので、その時に戻ってお爺さんの腕時計を0時にセットしようと考えた。


 そうして現実世界でおよそ2日ほどかけて、借りてきた本を全てスマホで撮影した。撮影した画像はタブレットPCに移動させて本ごとにフォルダ分けして整理した。ひたすらスマホで写真を撮ってタブレットPCで整理するだけの作業なのだが、これが思いのほか結構疲れた。


 時間調整も済んで疲れて眠くなったので、異世界に戻ってポルルが干してくれた布団の中に入った途端とても気持ち良く眠りに着くことが出来た。ありがとうポルル。


 翌朝、お爺さんの腕時計を確認すると朝8時近かった。冒険者としてはかなりの寝坊である。しかし今日は依頼には行かないのでいいのだ。そういうわけでまずは誰もいない風呂場を独り占めすることにした。もちろん枕の上には10デン硬貨を置いてから部屋を出た。


 今日も誰もいない貸し切りの湯舟で思いっきり足を延ばしてゆっくりと風呂に浸かった。入浴後は心身ともに大いにリフレッシュした気持ちで風呂場を出ると布団を抱えて通路を歩いて行くポルルの後姿が見えて、今日も有難うと声をかけるとポルルは振り返って頭だけをペコリと下げて出ていった。ありがとうポルル。


 風呂からあがって部屋に戻り現実世界に戻り髪を乾かしてからまた部屋に戻って飯屋に朝食を食べに行くことにした。


 飯屋に行って雑炊を注文すると「あれ?今日はロックタイガルの討伐に行かないのか?」と言われ内心でしまった!と思いつつもすぐに「防具屋に預けている防具がこの後仕上がるので、それを受け取ってから行く」と即答した。我ながらどんどん嘘で塗り固めていくことに心が痛む。


 結局弁当も買って、ポーズだけでも依頼に行くことになってしまった。嘘をついた罰だ。


 その後いったん部屋に戻って槍を手にして防具屋に行き、既に防具は手入れされていたのでその場で着込んで大門へと向かって行った。


 大門ではどうやら昨日の夜料理屋に門番もいたようで、これからロックタイガル討伐に行くことが知られていて、小麦粉のためにもよろしく頼むと言われて見送られた。


 仕方がないので、町と南東のペシシ村を結ぶ街道の中間地点まで向かうことにした。今日は夕方にウォルロッドとの約束があるので、適当に切り上げてどこかで油を売ることにしよう。


 移動用のブーツを履いてそこそこの駆け足で進むこと3時間、どうやら中間地点らしいところまで到着したので、地図を拡大して小さな泉とやらを探してみると確かに北側の地点にそれらしいものがあるのを見つけた。


 今日は討伐する気はないので周りの地形把握と偵察をするだけに留めることにした。誰もいないことを確認して双眼鏡を取り出して辺りを見回してみた。


 ペシシ村では小麦が取れるということで、街道周辺にも少しずつ緑地のある場所があるのが確認出来た。近くに泉があるということからこの辺りには水源があるのだろう。


 本によるとロックタイガルは体毛がこの辺りの岩肌に溶け込むような色なので、そろりそろりと近づかれると気付きにくいそうだ。それっぽい岩の塊もあちこちにあるので余計分かりにくい。しかし今はこの辺りにはいないようだ。


 また、ロックタイガルは鼻や耳が良いので人間が近づくと匂いや音で分かるそうだ。冒険者達が複数人で行けば逃げたり隠れたりするのはそのためだ。


 今の自分には双眼鏡があるので、遠くからでも様子を見ることが出来るからロックタイガルの察知距離圏外からでも確認出来るかもしれない。この辺りにはロックタイガルはいないので、泉へと向かうことにした。


 泉が近いということで緑地がポツリポツリと出現してきた。大分背が低く幹も枝も細いがこの地に来て初めての木も見えた。


 そろそろ泉に着くころだということでロックタイガルに気付かれないように少し進んでは双眼鏡で確認しながら慎重に近づいて行った。


 低い木がそれなりに増えてきて、数は少ないが一応雑木林のようになっており、地面は背の低い芝生で覆われてきた。自分は林の中に隠れるようにして少しかがんでさらに近づいた。


 そうして慎重に進むと双眼鏡で泉を確認出来る所まで到達した。しばらくそこでじっとしていると、草むらから2頭のロックタイガルが姿を表してきたのが見えた。周りは泉の青と緑地の緑なので、ロックタイガルの体毛の薄茶色がハッキリと分かった。


 2頭はガブガブと美味しそうに水を飲んで、それから水の中に入って行水してからまた草むらへと入っていった。

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