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異世界小説家  作者: キクメン


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56:冒険者タダノ

 ようやくロックマウンテンの麓まで辿り着いたところで、現実世界の家に戻って最後のお弁当を食べてきた。


 それから駆け足で町の大門まで向かい、門が見えてきたところで、アイテム格納バッグからアイスクリスタル満載のリュックとロックジャガルを取り出し、プロテクターとマントを脱いでバッグにしまった。


 ズッシリ重いリュックを背負い、さらにロックジャガルの前脚をもって背負い早歩きして、さらに門に近づいたところで、ゴドルム村の狩人からもらった水筒を取り出して少し頭と顔を濡らして汗をかいているようにした。


 ペラペラ出てくる嘘もそうだが、この辺りのずる賢さが思いつく辺り若干嫌になる。


 いよいよ門に近付いた辺りでわざと足取りが重そうに演技して、しかもフゥフゥと苦しそうに息をしながら歩いた。


 そんなフラフラとしながら歩く演技をした自分を見た門番が、「おい!誰か!」と叫んで他の門番を呼んで私の方を指さすと、待機小屋から出てきた数人の門番が私を見るなり走って近づいてきた。


「やっ!アンタか!」

「うわ!デカイロックジャガルだな!」

「もう大丈夫だ!ジャガルを卸すんだ、今ザラを連れてくる!」

「リュックの中はアイスクリスタルか?」

「ハァハァ・・・はいそうです、ハァハァ・・・」


 私は頭を垂れてその場に座り込んで休んだフリをしていると、やがて荷車を牽引したザラがやってきてロックジャガルとアイスクリスタル満載のリュックを荷車に乗せた。


「うわ!どっちも重いぞ!」

「凄いなアンタ!良く一人で持ち運べたな!」

「立てるかい?」

「はい、大丈夫です」


 私は槍を杖代わりにしてなんとか立ち上がってみせた。冒険者ギルドまでザラの荷車に乗って連れて行ってもらい、ロックジャガルとリュックはそのまま競売所に持っていくと言って運んでもらった。


 心の中では良心の呵責(かしゃく)(さいな)まれる気持ちになった。


 当然ギルド建屋の中でも疲労困憊(ひろうこんぱい)した風に装い、依頼を終了して持ち帰った品は競売所に門番の人が運んでくれたことを伝え、宿に戻って少し休んでからまた来ると言って、受付窓口のギルド職員から労いの言葉をもらいながら、宿屋へと足を引きずるようにして戻っていった。


 道中も結構道行く人に見られるようにして宿屋に戻り、宿屋に入ると利用客の冒険者達は仕事に出かけたようで誰もいなかったので、普通にスタスタと部屋まで戻った。


 部屋に入るとまたしても良い花の香りがして、机の上をみると一輪の花が花瓶に入っていた。


 ポータルゲートを取り出して、現実世界の家に戻って風呂場で体と頭を洗って歯を磨いて下着を取り換えてから異世界に戻り、1階の共同風呂に行って独り占めの浴槽に浸かって至福の時を過ごし、また自分の部屋に戻ってからすぐに現実世界の家に行ってドライヤーで髪を乾かし、さらに異世界の部屋に戻って、日よけの内窓を閉じて部屋を暗くしてからベッドに入って寝た。


 腹が減って目が覚めたので、起き上がって内窓を開けてみると太陽は真上のあたりにあったので、どうやらお昼ぐらいなんだなと思った。


 大きく伸びをして、服を着ようとしたところで、そういえばずっと同じ服を着続けていることに気が付いた。見た目的にはそれほど汚れていないし特に匂いもないが、さすがにそろそろ着替えたいと思い、そこでふと閃いた。


 現代日本の服だと見た目からしてかなり目立つので、この世界に溶け込むためにこちらの服をいくつか買おうと思いついたのだ。


 その前にとりあえず腹ごしらえをするために、槍を置いて棒を手にして部屋を出て階段を降り始めた。するとポルルが上がってきたので挨拶すると、ポルルはペコペコ何度もお辞儀をしてきた。


「布団とても寝心地が良かったよ、いつもありがとう」


 ポルルの顔を見ると涙を流しているように見えた。あれ?泣く程?と思いながらもこんな小さな子が一生懸命働いていることにこちらも少し胸が痛む思いだったのだが、間の悪いことにここで盛大にお腹の虫がグゥ~~~ッと鳴いてしまい、大分気分が台無しになった。


「ハハハ・・・腹ペコなんだ、ご飯を食べてくる」

 空腹のせいにして誤魔化して、いたたまれない気持ちと何ともいえない空気から逃げるようにしてその場をいそいそと後にした。何となくポルルが少し笑ってくれたように見えた。


 一階に降りたところで、受付カウンターの奥から宿主であるウォルロッドの母親が出てきた。


「アンタ、良い事をしたね」

「僕が・・・ですか?」


「ああ、アンタ遺跡の大蛇を倒しただろう?」

「はい」


「アンタは多くの冒険者の仇をとったんだ、その冒険者の中にはポルルの両親もいたんだ」

「・・・」


「さらにアンタは冒険者達の遺品を全部持ってきてくれた、その中にはポルルの親の形見も見つかった、ポルルはそりゃあもう泣いて喜んでいたよ」

「・・・」


 私の目からは涙がこぼれてきた。だがそれも台無しにするかのように腹もグゥグゥ鳴り止まなかった。


「おや、大分腹が減っているようだ、邪魔したね」

 宿主はそう言ってまた奥へと戻っていった。


 自分は溢れる涙を拭きながら飯屋へと歩いた。腹をグゥグゥ鳴らしながら飯屋へと歩いた。


 飯屋に辿り着くと何やら看板に「絶品!ロックサルペンティンの雑炊200デン!」と手書きで書かれていたのですぐに大盛りで注文した。


 先ほどまでの涙はどこへやら、絶品と謳われたロックサルペンティンの雑炊を一口食べるやいなや、満面の笑みでバクバク食べた。すぐにもう一杯おかわりを注文して食べた。


 たらふく食べて至福のひと時を過ごしてから、冒険者ギルドへと向かった。


 ギルドに入って受付カウンターに向かうと、鉄格子の扉が開いてウォルロッドが出てきて、VIPルームを指差したので、一緒に付いて行った。背後からその場にいた冒険者達からの拍手の音が聞こえた。


 個室部屋に入るなり、ウォルロッドはいつになく真面目な顔でこちらを向いて深々と頭を下げて礼を述べた。


「タダノよ、多くの冒険者たちを代表して心から感謝する、タダノのおかげで多くの冒険者達の無念を晴らすことが出来た、そして全ての遺品を持ってきてくれたことに重ねて礼を言う、有難う」


 私はこういう時に良く出てくるセリフの「どうか頭をお上げください」とは言わず、「多くの冒険者達の仇を取れて良かったです、そしてポルルの両親の形見を持って帰れてよかったです」と答えた。


 ウォルロッドも私も鼻をすすって涙をこらえて、お互いの顔をしばらく見つめ合って強く頷いた。


 絶妙なタイミングでいつものシナモン入りミルクティーが運ばれてきた。


 その後大蛇討伐の報酬金額が遺品などの上乗せ込みで総額700万デンにもなったことと、アイスクリスタル及びロックジャガルの報酬と合わせて総額1千万デンの報酬になることを説明された。


 この町の物価的に下手したら生涯暮らせるほどの大金が提示されたので大いに驚いた。


 ウォルロッドからはそれだけのことをしたのだ、お前は胸を張ってこの金額を受け取る資格があると言われ、いつもならお茶を運んだらすぐに退出する女性職員も力強い眼差しで頷いていた。


 私は立ち上がり、有難く頂戴しますと言って、退室した。すると扉の外には冒険者たちが整列しており、手を差し伸べられたので、私は一人一人全員と固い握手をしていった。


 誰ともなく大きな声で「冒険者タダノ!」という声が響き、後に続いて「冒険者タダノ!」という言葉がギルド建屋内に響き渡った。

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