52:ウォルロッド家にて
宿屋に戻ると受付カウンターには宿主のウォルロッドの母はおらず、仕事帰りだと思われる幾人かの冒険者の後姿が各々自分の部屋へと向かって行くのが見えた。
3階まで行く冒険者はなく、私は自分の部屋に戻り槍をアイテム格納バッグにしまおうとしてやめて、盗まれたらかなり困ることになるがそのまま部屋に置き、リュックの中から棒を入れる袋を取り出し、立てかけていた棒を袋に入れて持って部屋を出て鍵をしめた。
そこまでしてアイテム格納バッグの性能を隠す必要はないかもしれないが、既にかなり有名人になってしまったらしいので、自分の素性や持っているアイテムを知られないようにするためにより一層気を付けなければと心に固く誓った。
宿屋を出るまでにまた何人かの冒険者とすれ違った。お互い軽く頭を下げて会釈した。この宿屋を利用する冒険者の人達は結構常識的な人が多いように思えた。
大抵この手の異世界モノにありがちな、余所者に絡んでくる輩などとは今の所出会っていないし、夜中に酒に酔って大声を出すとか他の利用客同士で揉め事を起こしているような光景も今の所まだ見ていない。
この良心的な料金の宿はウォルロッドの紹介でもあるし、そもそも宿主がそのウォルロッドの母親ということでもあるから、実はしっかりとウォルロッドのお眼鏡にかなって認められた冒険者しか利用出来ないのかもしれない。
ゆっくり歩きながらギルド建屋に到着すると、表の入り口扉は閉じており、夜間緊急窓口の方の灯りがついていた。裏口からギルド職員達が出て来たので会釈するとギルド長は間もなく来ますよと教えてくれた。
程なくしてウォルロッドが出てきて、「待たせたな」と声をかけてきた。一緒について歩いて行ったが本当に3分も経たないところでウォルロッドの家へと到着した。
一緒に中に入ると恰幅の良い女性と、元気そうな子供達が出迎えてくれた。ウォルロッドの家族ならばこうだろうというイメージ通りの家族達だった。
ウォルロッドの妻もなんというか実に豪放磊落な人物で、ウォルロッドがまるで二人いるかのようだった。子供達も全く人見知りすることなく好奇心の塊といった体で、自分に近づいて元気よく挨拶してきた。
そのうち一番小さい子が足にしがみついて両手を万歳してきたので、棒を床に置いて抱っこしてあげると大喜びで抱き着いてきた。その様子を見てウォルロッドもその妻も咎めることなく、「あらあら、大分気に入られたわね」と快活に笑っていた。
他の子供達は棒に興味があるらしく、ガン見していたので触ってもいいよと言うと大喜びで棒を持ち上げようとしたら、「わっ!重いよ!」「ホントだ!重たい!」と言いながらも嬉しそうに二人で持ち上げていた。「中見てもいい!?」と言ったので、いいよと答えてあげると、二人とも目をキラキラさせて、袋から棒を取り出して「スゲェ!」「ホンモノの武器だ!」と言って喜んでいた。
それから果実酒と前菜のサラダとサラミソーセージのような味のつまみが出てきて、ウォルロッドと飲みながら雑談した。
「お前さんがゴドルム村の凄腕二人と一緒にやって来てからというもの、わずか3日ですっかり有名人になっちまったな、おかげで毎日楽しくて忙しくて仕方ないぞ」
「すいません、なるべく目立たないようにしようとはしているんですが、腕試しの相手が目の前に現れるとつい挑んでみたくなるんです」
「分かる分かる!オレもそうだった!もうこの歳と今の身分だから昔のようにはいかねぇが、正直オレもデスクワークなんぞほっぽり出して討伐依頼に行きたくなることが何度もある!正直お前さんが羨ましい!」
「なんだいアンタ!こっちはいつでもギルド長なんてもん止めちまったって構わないんだよ!昔みたいに二人で冒険者に戻るかい?」
「クゥ~ッ!そう言うな!オレだってそうしたいが、今となっては沢山の部下や可愛い後輩達の面倒をみてやらなければならん、冒険者同士のいざこざやら、町の商売連中が安心して商売出来るようにしっかり目を光らせていなけりゃならん」
「分かってんじゃないか、なら冒険者に戻りたいなんて泣き言言ってんじゃないよ」
「オレが父ちゃんの代わりに冒険者になる!」
「オレも!」
「アタチも!」
「ワッハッハ!そうか!そうか!それは楽しみだ!このお兄ちゃんみたいに強くて優しい立派な冒険者になれよ!」
「「「 ウン! 」」」
最初ウォルロッドの家に入る前に少しだけ緊張したが、裏表のない実に気持ちの良い家族達のおかげでとても居心地が良く、楽しい団らんのひと時を大いに楽しんだ。
「今日防具屋と武器屋の店主が来て、お前さんのことを大層褒めていたぞ」
「そうなんですね」
「それにな、滅多に人のことを褒めないオレのお袋もお前さんの事を褒めていたぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、かなり見どころのある若者だと、大層褒めていた」
自分は嬉しくなると共に、どこで誰に見られているか分からないものだなと、今後も立ち居振る舞いには気を付けるよう気を引き締めた。
その後最初に抱っこしてあげた子供がうつらうつらし始めたのをきっかけに私も宿に戻ることにした。帰り際に「明日ぐらいはゆっくりしろよ」と言われたが「体が疼いてそうはいかないかもしれません」と応えると大笑いして見送られた。
それから宿に戻り、部屋の鍵を閉めてからすぐにポータルゲートを取り出して、現実世界に戻りトイレで用を足してからシャワーを浴びて下着を着替えて歯を磨いて髪を乾かして、また異世界の部屋に戻って早めに寝ることにした。日よけの窓は閉めずにそのままにして寝た。
目論み通り翌朝は日の出とともにかなり朝早くに目が覚めた。私はすぐにポータルゲートを取り出して、現実世界へと戻った。
現実世界はまだ昼前どころか朝のモーニングショーの時間で、今日はこのまま夜になるまで現実世界で過ごすことにした。
ここ数日異世界で過ごした時間の方が長いが、まだまだ誤差の範囲なので問題ないけれども、一応出来るだけ現実世界の夜中の間に異世界で過ごそうと考えた。
そうしてここ数日で起きた出来事や考えるべきことなどを異世界記録テキストファイルに追記していった。
色々と考えるべきこと、確認するべきことが思い浮かんだが、今最も知りたいことはと言えば、防具のことである。今回防具屋で頭から一式防具を揃えたのだが、全てを装備するとスライム部屋で獲得したプロテクターの能力を超えることになる。
果たして、防具屋で購入した防具一式を装備した場合、ちゃんと各装具の防御力は加算されるのだろうか?さらに情報ステータスだが、防具や武器を装備した上での数値についても確認出来ないものか思い浮かんだ。
これまではスライムやモンスターとしか戦ってこなかったのでうかつにも気付かなかったが、ゴドルム村の狩人達に会った時も、ズール族の待ち伏せに会った時もウォルロッドと会った時も私と同じ基本スペック情報しか確認出来なかった。
これでは今後、武器や防具やアイテムを装備した敵と戦うことになった際に非常に危険である。早急に装備状態の情報も確認出来るように試してみる必要があった。
私はお爺さんの家の庭に立って、ブーツ、プロテクター、二本の槍を装備して「情報」と念じ、それからさらに「武器と防具を装備した詳しい情報」と念じてみた。
すると、目の前に複数の情報が表示された。まるでPCの画面に複数のウィンドウを表示したかのようだった。




