47:宴
2日連続で冒険者ギルドのVIPルームにて、ギルド長のウォルロッドと話していると、ギルド職員が入ってきて競売の結果を報告した。
「女王サソリが落札されました、落札金額は1千120万デンです」
「1千120万デンですと!?」
「ホウ!そこまでいったか!」
「はい、鮮度といい状態といい、これまでない程に上質で、その上子持ちだったので、女王サソリとしては過去最高落札額がつきました」
「おい、タダノ、お前さん大分損したぞ、もう誓約書にサインしちまったから撤回出来ないぞ、1千120万デンといやぁ相当ラクして暮らせる金額だぞ、こっちに献上しちまったからには7割もウチでもらうことになるんだぜ?」
「えっ?・・・えぇそれは構いません、それでもえっと、300万デンももらえるんですよね」
「そうだな、お前さん一人の手柄を7割も奪っちまうんだから、こっちは700万デン受け取ることにして、残り420万デンをお前さんに渡すのでどうだ?」
「は、はい、それで良いです」
「続けてもよろしいでしょうか?オスの大サソリの方ですが、こちらも非常に肉の鮮度が良いということで肉屋の方からは全部で50万デンで買い取るとのことです」
「50万!やった!ザラの損失分が全部帳消しになります!」
「えっと・・・ダンムさん」
「はい・・・何でしょうか・・・タダノさん」
「その・・・大サソリの依頼料なんですが、上乗せ分はなしで依頼書に書かれた通りの依頼料、1匹3千デンのままで受け取りたいのですが、良いでしょうか?」
「!!!」
「ホウ!」
「そんな!あれほどの上等な大サソリ、それもタダノさんお一人で倒したのに、1匹3千デンだなんて、安すぎます!肉屋では1匹4万デン以上の値が付いたんですよ!?」
「構いません、是非村に役立てて下さい、実は女王サソリを倒した時に、ザラの骨を沢山見ました、犠牲になったザラ達のためにも是非とも役に立てて欲しいです」
「ぐぅぅぅ!タダノさん!有難う!有難う御座います!」
「気に入った!オレはお前さんを大いに気に入ったぞ!タダノ!お前さんを今すぐに5等級冒険者として承認する!」
「えっ!?あっ・・・有難う御座います!」
そうして、私はまたしても一気に飛び級して5等級冒険者になることが出来た。
そしてその夜も昨日と同じ店でご馳走になることになった。今日は昨日の若手ギルド職員だけでなく、それ以外の多くのギルド職員達も同伴で、ダンムと早ザラの騎手二人も一緒に大勢で、ほぼ店を貸し切りでご馳走になることになった。
ウォルロッドにいいのか?と尋ねると、ウォルロッドといつもシナモン入りの甘いミルクティーを持って来てくれる女性がほぼ二人同時に「経費で落とす」と笑って即答した。
店内はほぼギルド職員で埋め尽くされ、全員に果実酒が配られたところで、ウォルロッドがこれまでのいきさつを饒舌に大きな良く通るバリトンの声で語って聞かせ、その後に乾杯の合図を高らかに宣言した。ギルド職員達も皆大声で乾杯!と叫び、宴が始まった。
前菜サラダもスープもすっ飛ばして、ジュゥジュゥと音を立てた鉄板皿の上に乗せられた分厚い女王サソリ肉のステーキが配られた。真っ先に一番のメインディッシュを食べろということである。
シュラ村で食べた肉鍋も絶品だったが、こちらは洗練された料理人によって作られた料理である。もう見るからに香りを嗅ぐからに絶品以外の何物でもないというものである。
さすがにここはお高いお店だけあって、ちゃんとフォークと一緒にナイフもあり、皆それぞれに好みの大きさにカットして口に運んでいた。私も大きくカットして大きく口を開けてガブリとひと噛みした。
こめかみの辺りがキューンとし、思わず目を閉じる程に旨かった。とんでもないジューシーな旨味が口の中一杯に広がった。
「うめぇーーーッ!」と思わず声が出たが、私だけが叫んだのではなく、ほぼ全員が叫んでいた。そして何より一番大きな声でウォルロッドが「ウメェーーーッ!」と吠えていた。その後全員で大笑いした。こんなに美味しくて痛快な食事は生まれて初めてだった。
「おい!タダノ!お前さんといると毎日ご馳走が食べられて最高だな!」
「はい!自分もこんなに美味しい物を食べるのは生まれて初めてです!」
「私も長年大サソリを食べてきましたが、これ程までに旨い女王サソリは生まれて初めてです!あぁ村の皆に申し訳ない!だがウマイッ!」
「「「 ワハハハハハ!! 」」」
その後も大いに食べて飲んで笑ってまた飲んで、夜は更けていった。宴の後ダンム達はギルド建屋近くの宿屋に宿泊するのでウォルロッドや他のギルド職員も道中一緒なので私が護衛しなくても良いと安心し、私は皆と別れてウォルロッドの母親が宿主の宿へと帰った。特に道中待ち伏せに合うことも、宿屋で誰かに絡まれることもなく、何事もなく無事自分の部屋に入った。
部屋に入るとすぐにポータルゲートを取り出して、トイレへと駆け込んだ。タップリ飲み食いしたから出るものもタップリ出た。スッキリした後はウォシュレットで入念に洗浄した。
同じく入念に歯を磨き、軽くシャワーで身体と髪を洗った後で時間を確認したところ、現実世界ではまだ朝の通勤通学ラッシュ時間にすらなっておらず、やはり時間の流れは10分の1程度だというのが分かった。
既に数日程異世界で過ごした時間の方が長くなってしまったが、これくらいは誤差の範囲だからいいかと、まだ異世界で過ごすことにした。
早速異世界に戻り、1階に降りて共同風呂をサッと覗いてみたが、やはり夜と言うことで利用者がいたのですぐに退散し部屋へと戻った。
時間の流れが異なるので、異世界で朝が来るまで現実世界で過ごすとなると少なくとも60時間程過ごさねばならず、今は異世界で過ごす方が遥かに楽しいのでこのまま今日もこの部屋で寝ようかとベッドに横になると、シーツや枕がふんわりしているのに気が付いた。
どうやら出かけている間に干していてくれたようで、食事なしの共同便所に共同風呂とはいえ1日100デンという破格の安宿にしてはかなりのサービスぶりにとても感心感激した。そんなわけで今日も異世界の安宿部屋のベッドで寝ることにした。寝る前に窓にある日よけ用の内窓を閉めて寝た。
翌朝、日よけ用の内窓を閉めていたおかげで日の出とともに起こされることもなく、昨日よりも大分ゆっくりと起きて、ベッドから出て日よけ用内窓を開けて朝日を浴びた。すると一気に部屋の温度は上昇し、肌寒さもなくなった。
窓から外を見ると宿を利用する冒険者のほとんどが外に出ていたので、自分は今なら風呂場には人はいないだろうと考えて共同風呂に行くことにした。その際枕の上に10デン硬貨を置いて、誰だか知らないが布団を干してくれた人へのお礼のチップとした。うまく察してくれれば良いが。
1階に降りると案の定共同風呂には誰もおらず、衣類入れのカゴも空だったので、お待ちかねの大きな風呂を楽しむことにした。服を脱いでカゴに入れ、奥にある扉を開けると誰もいない風呂場が目の前に広がり、すぐにオケで身体を流してから湯舟に浸かり大きな浴槽を独り占めした。
思わず「ハァ~ッ」という声が漏れて極楽気分を味わった。風呂の湯はほんのり何かの香りがして効能は分からないが間違いなく天然温泉じゃないかという気がした。
あまりにも気分が良くて結構長風呂になったが、大いに堪能して風呂から上がった。身体と髪は昨日洗っているので入浴だけを楽しんだ。
風呂から上がって体を拭いて一息ついたところで、遅めの朝食を食べに行こうかと算段しながら階段をかけあがり、部屋へと戻ろうとしていると、自分の部屋の扉が開いており、部屋の中から布団だけが歩いてこちらへ向かってくるように見えた。




