44:大サソリ
シュラ村を後にして南東の方向へ駆け足で移動すること5分、お目当ての大サソリはすぐに見つけることが出来た。
結構点々といるようで、なるほどこれでは安心して放牧など出来ないだろう。
私はアイテム格納バッグからプロテクターとマントを取り出して装備し、槍の鞘を抜いてバッグにしまい、最も近くにいる大サソリに向かって歩いて行った。
10メートルを割ったところで「情報」と念じると次のように表示された。
-------------------
大サソリ(オス)
レベル:2
生命力:2
魔法力:0
持久力:2
攻撃力:2
防御力:2
素早さ:2
幸運度:0
魅力:0
魔法技能:0
異常耐性:0
-------------------
見た目は恐ろしいが、レベルを確認するとやはり断然安心する。
その見た目だがまさに地球上のサソリそっくりで異なるのはやはりその大きさで、大体1メートル近い大きさだった。
さらに近づくと尻尾を高く持ち上げてシューッと威嚇してきたが、私はその距離から軽くステップインして槍を地面近くにある頭の眉間に難なく突き刺し、すぐにバックステップしたがその必要はなかった。
即死して大きな左右のハサミも、高く持ち上げた尻尾もグッタリと力なく地面に倒れた。
倒した大サソリに向けてアイテム格納バッグを開いて近づけると大サソリはバッグの中に格納された。なるほど、やはり死体は物扱いでバッグに格納出来るのだなと納得して喜んだ。
その後も目に付く限りの大サソリを倒してはアイテム格納バッグに格納した。といっても全部で7匹程度だった。
ちなみにかなり楽に倒せるモンスターなので、最後の一匹はスマホで撮影しながら片手で倒した。
さて、問題はこれをどうやって村に運び入れるかだ。
私はしばし考えて妙案を思いついた。まずはポータルゲートを取り出して家に戻って洗濯物を取り込んでたたんでしまい、お茶を沸かして日本製の水筒に入れて、また異世界に戻った。
お茶を飲みながらしばらく時間を稼ぎ、1時間程経ってから村からそれほど遠くない場所で大サソリをバッグから取り出して並べた。
その後シュラ村へと戻り、見張りの人にオスの大サソリを7匹倒したので運ぶのを手伝ってくれないかと言うと、見張りの人は大いに驚いたが「分かった!」と言って村の中へ入っていった。
すぐに荷車を牽引したザラにまたがった別の人と一緒に戻ってきた。
「この者が行く、案内してやってくれ!」
「分かりました、こちらです」
「私の後ろに乗ってください」
「いえ、それには及びません」
私が速度を抑えた控えめな駆け足で走り出すと、見張りの人もザラに乗った人も驚き、慌ててザラに乗った人は私の後を追いかけてきた。
5分程で到着し、綺麗に並べられた大サソリを見て村の人はさらに驚くことになった。
「これをこの短時間であなた一人がやったというのですか?」
「はい、私は一応村で一番の槍使いでした」
「そうでしたか!それはすごい!」
さらに私が軽々と大サソリを荷車にホイホイと乗せるのを見て村人はまたしても驚くことになった。
「なんという力!とても力持ちには見えないのに!あっと、すいません」
「ハハハ、東方の人間は見た目に反して力持ちなんですよ」
「なるほど!東方のお方でしたか!どおりで!」
だんだん私の嘘八百も堂に入ってきた。
そうして大サソリを満載した荷車と共にもう一度シュラ村へと凱旋すると、見張りの者も大いに驚き、またしても村の中に入っていった。村の人が言うには村の代表者に報告しに行ったとのことだった。
シュラ村の人々もザラが牽引する荷車の大サソリを見てワイワイ騒ぎ、ほとんどの人がすごく喜んでいた。
村の中央広場に到着して大サソリを荷車から降ろすと、すぐに壮年の男性がやってきて、大喜びの様子で話しかけてきた。
「なんと素晴らしい!これほどまでに状態の良い大サソリが7匹も!」
すぐに大きなナタを手にした中年の女性達がワラワラとやってきて、私が「何事?」と驚くのも束の間、非常に慣れた手つきですぐに尻尾の先端を切り落とし、硬い殻のあちこちの隙間にナタを突っ込んで実に鮮やかな手つきで解体していった。そして女性の一人が解体した肉を見て「まだピンク色だ!」と叫びながら皆に見せると、その場にいた人達はワーッ!と歓声をあげた。
私が全く状況を理解出来ないでいると、「大サソリの肉は身体に毒素が回っていなければ最高に美味な肉なのだと」壮年の男性が教えてくれた。
その男性は自らをダンムと名乗り、この村の代表をしているとのことだった。ちなみに私は敢えてダンムの情報は確認しなかった。
これほど状態の良い大サソリ、それも7匹も手に入れたということで、新鮮な大サソリの肉を町に持っていって売れば村にとってかなりの収益になるとのことで、1匹あたりの報酬をさらに上乗せするからどうか自分達に譲ってくれと頼まれたので、二つ返事で了承すると、村長は私の手を握って大いに喜び、村の人々も大喜びだった。
その後獲れたての大サソリの肉鍋をご馳走するということで集会所に案内された。
村長やその他の代表者からこの辺りの事を教えてもらっていると、何やら実に良い匂いがしてきて、ついそちらに目線が行ってしまい見てみると、グツグツと良い音のする大きな鍋を持ってきた中年女性達が笑顔で入ってきた。
机の上に鍋敷きを敷き、その上に大きな鍋をドンと置くと、女性が「どうぞご覧になってください」と言うのですぐに近づいて鍋を覗いてみると、白味噌スープのような汁に何かの野菜と煮込まれた肉厚のプリプリな肉の塊がゴロゴロと沢山入っているのを見た。それを見た瞬間私の腹はグゥ~~~ッと盛大に鳴ってしまい一同大笑いだった。
それから大きなお椀にタップリと盛られた大サソリの肉鍋が配られ、お先にどうぞと勧められたので「では遠慮なくいただきます」と言って、すぐに躊躇なく大サソリの肉にフォークを突き刺してガブリと噛んで頬張った。
まさにプリプリの触感で柔らかく、噛めば噛む程肉の持つほど良い甘味が広がり、濃厚な塩気の効いたスープと交じり合い、この上ない絶品だった。
「うめぇ~~~ッ!」初対面の異世界の人達に囲まれているにも関わらず、お構いなしに口から正直過ぎる感想が漏れ出てしまった。
その場の全員が嬉しそうに笑い、私も私もと、肉鍋を要求していた。
私は伊勢海老とかロブスターは食べたことはないが、恐らくそれらを軽く凌駕する程美味しいのではないだろうか。
腹一杯最高に旨い大サソリ肉を堪能した私は、昼間から食後の果実酒を飲んで上機嫌で、村の人達と楽しく歓談した。
聞くところによると、メスの大サソリが産卵のシーズンになると動きが緩慢になるメスを守るためにオス達が活発になるとのことで、どこかにメスの大サソリがいるかもしれないとのことだった。
メスの大サソリは大抵はオスの倍程の大きさなのだが、ごく稀に体長が3メートルを超える黒紫色の個体が現れることがあり、もしもそれを見かけた場合は、どんなに私が槍の達人だとしても決して一人では立ち向かわず逃げるのだと忠告し、産卵が終わるまではそっとしておくか、冒険者を大人数集めて討伐するかしかないと教えてもらった。
通常のメスの大サソリであってもオスよりさらに高い価値を有しており、もしも卵を腹に抱えたものが手に入ったら報酬は3倍に引き上げると言ってくれた。
私が「味の方は?」と聞くと、村長のダンムはニヤリとして親指を立て、「これの数倍は旨い」と答えたので、私は俄然やる気が出た。




